米EV大手テスラの戦略車モデルY。昨年の世界新車販売で120万台を売り1位に輝いた 米EV大手テスラの戦略車モデルY。昨年の世界新車販売で120万台を売り1位に輝いた
「EVシフト」が叫ばれてきた昨今だが、販売鈍化で急失速。一方、世界的に脚光を浴びているのがハイブリッドだという。いったいどうなっているのか?

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■ハイブリッドはオワコン?

これまでEV推しメディアは、「EVシフトに乗り遅れたトヨタに浮上の目はない」「トヨタのハイブリッドはオワコン」「自動車業界の新王者はテスラ!」などとあおりにあおってきた。

では、リアルワールドの数字がどうなっているのかを見ていこう。2023年の新車販売で過去最高となる1123万台をマークし、4年連続で世界1位に輝いたのはトヨタグループである。ちなみに昨年のトヨタは単体でも1030万台を記録し、これまた過去最高の数字となっている。

5月8日に発表された昨年度(2023年度)のトヨタグループ全体の決算も衝撃的だった。営業利益は日本の上場企業初となる5兆円を突破! その異次元レベルの快走を支えたのが、世界販売でイケイケ絶好調だったハイブリッド車だ。昨年は355万台(前年度比31・1%増)という会心の一撃をブチカマし、初の年間300万台を達成!

23年度の決算で営業利益5兆円突破を達成したトヨタ。写真中央が佐藤恒治社長 23年度の決算で営業利益5兆円突破を達成したトヨタ。写真中央が佐藤恒治社長
首位のトヨタに続く世界販売2位はフォルクスワーゲングループで924万台。3位が現代自動車・起亜(730万台)で、4位はステランティス(639万台)。そして5位はゼネラルモーターズ(618万台)という順になっている。

ちなみにEV専売のテスラは180万台でベスト10にすら入っていない。それどころかEV市場の成長鈍化や中国EVとの値引きバトルにより疲弊し、今年1~3月期の決算は減収減益で大リストラに踏み切った。

これまでトヨタが掲げる「全方位戦略」は、ゴッリゴリのEV推しメディアからフルボッコにされてきた。具体的には〝EVシフト〟というワードを錦の御旗にし、「世界中の自動車メーカーがEVシフトに進んでいる。トヨタはいつまでオワコンのハイブリッドやエンジンにしがみつくつもりなんだ!」と負のレッテルを貼られまくった。

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しかし、主な自動車メーカーの中でEV専売はテスラだけ。声高にEVを叫んでいた欧州や米国の自動車メーカーも、実はトヨタの全方位戦略に匹敵する品揃えを誇り、EV大国・中国自慢のBYDもEVとプラグインハイブリッドの二刀流だ。

今年3月にはEU(欧州連合)が2035年以降もエンジン車の販売を容認する政策転換を発表した。さらに、テスラがブチ上げ、EV推しメディアの印籠となっていた「2030年までに年間2000万台を販売する」という目標は、すでにテスラの手により静かに削除されている。つまり、EVシフトは絵に描いた餅のようなもので、EVシフトはまだ始まってすらいない。だから崩れるも何もないのだ。

■8年前の衝撃予測

週プレ自動車班がEVの取材を本格的にスタートさせたのはパリ協定が採択された翌年となる2016年。数多くの自動車関係者に根掘り葉掘り話を聞いてきたが、取材を振り返り驚くのは自動車メーカーの先読みの鋭さだ。特に2016年の夏に千葉県のサーキットで取材した日系メーカーのエンジニアはハンパなかった。週プレがEVの質問を繰り返していると、彼は苦笑いしながら、こんな予測を口にした。

「2025年前後に日本の新車市場はようやく電動車の普及が5割に届くかどうかです。ただし、そのほとんどはハイブリッドで、EVは2%前後。世界市場でも20%程度だと予測しています。EVやFCEVは技術や価格、インフラ整備など課題が山積しており、普及には相当な時間が必要になる。自動車メーカーはどこも10年以上先を見越して開発をしていますが......たぶん私のこの話に全然納得されていないと思いますので、正解がわかる2025年前後にまたお会いしましょう(笑)」

自販連(日本自動車販売協会連合)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)によると、昨年の日本市場は478万台の新車需要があった。この新車台数に占める電動車の割合は5割超えとなる201万台。EVの割合は新車全体の2.2%だった。ちなみに昨年の全世界の新車販売に占めるEVの割合は18%。約8年前の予測がドンピシャなのだ。

5月28日、トヨタ・スバル・マツダは次世代エンジンを披露。左からスバルの大崎篤社長、トヨタの佐藤恒治社長、マツダの毛籠勝弘社長 5月28日、トヨタ・スバル・マツダは次世代エンジンを披露。左からスバルの大崎篤社長、トヨタの佐藤恒治社長、マツダの毛籠勝弘社長
別の日系メーカーの幹部には「EVって環境に優しいエコカーなんスよね?」とド直球の質問をしたことがある。彼は苦笑いしながらこう言った。

「エコカーの定義にもよりますが、LCA(ライフサイクルアセスメント)の思考が大切です。要は製造、使用、リサイクルまでのライフサイクル全体を考えるわけです。それを踏まえて言うと、EVはCO2の排出量が少なく、環境負荷が低いとは言い難い。ましてや日本は火力発電です。仮に再生可能エネルギーを使用したとしても現状では......。本気で脱炭素を目指してEVを普及させるのなら、あらゆる技術のブレイクスルーがないと成立しません」

話が長くなったが、何が言いたいかというと、ハイブリッドは復権したわけではない。自動車メーカーがあらかじめ設定した中長期戦略どおりにコトが進んでいるだけ。極論を言えば餅は餅屋という話だ。EVの普及に関してもまだ時期尚早、という話なのである。なにしろ最終ゴールは2050年だ。

とはいえ、脱炭素カーの選択肢は多い方がいい。国が国民の乗るクルマを「EVのみ」などと縛る恐怖の未来は絶対に避けなければいけない。個人の自由の制限につながるし、それこそ軍靴の音が聞こえてきそう......。