このごくフツーのセダンがBYD自慢の新型PHEV「秦L DM-i」。そのスペックと価格に世界中の自動車メーカーが震撼したという このごくフツーのセダンがBYD自慢の新型PHEV「秦L DM-i」。そのスペックと価格に世界中の自動車メーカーが震撼したという

EV大国・中国が誇る自動車メーカーBYDとジーリーがハイブリッド車に関する衝撃発表をブチカマし、世界的に話題になっているという。今どうしてハイブリッドなの? 中国は何を狙っているの? 最前線を取材してきた。

■航続距離2100㎞のPHEVが爆誕!

驚天動地の発表である!

5月28日、中国の二刀流自動車メーカー、BYDが航続距離2100㎞というぶっ飛びPHEV(プラグインハイブリッド)を発売した。しかも、このクルマ(「秦L DM-i」)のお値段が価格破壊にも程がある220万円スタート! ニッポン勢もPHEVは用意しているが、400万円台後半からで、航続距離は1000㎞ちょい。 

今回、BYDが発表したPHEVは第5世代となる最新バージョン。燃費は1L当たり34.48㎞(NEDCモード)で、65Lのタンクを持つ。

もともとBYDは2008年に世界初の量産型PHEVを世に送り出した先駆者で、PHEVの世界累計販売台数は完全無双の360万台超を誇る。それにしても、航続距離2100㎞はエグすぎる。日系自動車メーカーのエンジニアはこう言う。

「航続距離はBYDが絶え間なくエンジン技術などを磨き続けてきた結果だと思いますが、私が注目したのは熱効率。熱効率とはエンジンが動くために消費されるガソリン量と、実際にエンジンが働いた量との比率を示すものです」

「秦L DM-i」には第5世代となるPHEVの最新技術がブチ込まれている。ちなみにBYDは3年ごとにPHEVの技術をアップデート 「秦L DM-i」には第5世代となるPHEVの最新技術がブチ込まれている。ちなみにBYDは3年ごとにPHEVの技術をアップデート

BYDが発表したエンジンの熱効率は46%である。

「トヨタ自慢のエンジン『ダイナミックフォース』が41%ですから、BYDの数字はアンビリバボーです」

ちなみに5月28日の発表会見で、BYDの創業者である王伝福(ワン・チュアンフー)CEOはこう言って胸を張った。

「BYDは世界市場でPHEV技術の最先端を走っている。世界中の自動車メーカーが中国のPHEV技術に注目し、次々と後に続いている」

とはいえ、ザックリ言うと、PHEVは充電機能がついたハイブリッド車である。時代の最先端はEVであり、ハイブリッド車はオワコンでガラパゴスカーのはず。なのに、どうしてEV大国の中国がPHEV? 自動車誌の幹部が苦笑いしながら解説する。

「主な自動車メーカーでエンジンを造っていないのは"EV一本足打法"のテスラだけです。欧米の自動車メーカーはどこもフツーにエンジンの研究や開発を進めている。それは世界最大のEV大国と呼ばれる中国にしても同じ。BYDの新型PHEVが圧倒的なスペックを誇っているのがその証拠です。

さらに言えばスウェーデンのボルボ、英ロータスなどを傘下に持ち、独メルセデス・ベンツの筆頭株主である中国大手自動車メーカーのジーリーもハイブリッド用の新エンジンの開発に本腰を入れている」  

実は昨年の世界新車販売で279万台をマークし、BYDに次ぐ11位となったジーリーが、5月31日に仏ルノーと共同出資した新会社ホース・パワートレーンの設立を電撃発表したのだ。

「ホースは約1万9000人のスタッフを雇用し、ハイブリッド用の高効率エンジン、カーボンニュートラル燃料(合成燃料、水素、バイオ燃料など)に対応するエンジンなどの開発や生産を行ない、約130ヵ国に製品を供給すると発表しています」

ジーリーとルノーがハイブリッドやエンジン開発の新会社を設立。両社の傘下ブランドに開発したエンジンなどを供給する予定だという ジーリーとルノーがハイブリッドやエンジン開発の新会社を設立。両社の傘下ブランドに開発したエンジンなどを供給する予定だという

リアルな話をすると、世界新車市場はエンジン車とハイブリッド車で8割を占めている。一方、EVは充電環境などの問題があるため、急激に需要が鈍化。栄華を極めた中国市場も"EV墓場"が登場するなど頭打ち。

「実はジーリーとルノーは2040年になっても世界市場の半分以上がエンジンを搭載していると予測している。ジーリーの創業者である李書福会長も『ハイブリッド技術のグローバルリーダーになり、世界中の自動車メーカーに低排出ガスソリューションを提供する』と語っています」

■日本勢3社も開発中の新エンジンを披露

昨年、世界新車販売でハイブリッドは約421万台(前年比29%増)、PHEVは約392万台(前年比46%増)をマークしている。今年に入ってもその勢いは止まらず、世界中でハイブリッド車が飛ぶように売れている。

つまり、"自動車強国"を掲げる中国は世界新車販売でさらなる高みを目指す上で、ハイブリッド覇権を握る必要があると踏んだ。もっと言えば、これまで日本と欧米が握っていた自動車覇権に中国が本格参戦してきたのだ。そして、中国市場が恐ろしいのは自国の販売だけで世界ランキング上位にアッサリ食い込めること。

そこで気になるのはハイブリッドで世界市場を席巻してきたニッポン勢の動き。実は5月28日にトヨタ、スバル、マツダが試作エンジンをそれぞれ披露した。

開発中の次世代エンジンを公開したトヨタ、マツダ、スバル。左からスバルの大崎篤社長、トヨタの佐藤恒治社長、マツダの毛籠勝弘社長 開発中の次世代エンジンを公開したトヨタ、マツダ、スバル。左からスバルの大崎篤社長、トヨタの佐藤恒治社長、マツダの毛籠勝弘社長

関係者によると、これらの次世代エンジンはどれも電動ユニットと組み合わせることを前提としており、これまでのエンジンと比較すると、高効率で高出力を誇るエンジンでありながら、従来よりコンパクトに仕上がっているという。期待度ギンギンで、日本勢もシッカリ対応しているようだ。

しかし、安心はできない。専門家によると欧米の自動車メーカーもハイブリッドシフトを鮮明にしており、水面下では急ピッチで開発が進んでいるという。事実、あの独ポルシェも911に史上初となるハイブリッドモデルをブチ込んできた。

要はこれから各社が肝いりで開発した"シン・ハイブリッド"が続々と市場に投入されていくってわけだ。ニッポン勢よ、世界ハイブリッドシフトに乗り遅れるな!