写真左がN-BOXカスタム。右がN-BOX。昨年10月のフルチェンで3代目となり、軽の売れ線である"オラオラ顔"と決別した 写真左がN-BOXカスタム。右がN-BOX。昨年10月のフルチェンで3代目となり、軽の売れ線である"オラオラ顔"と決別した

5月の新車販売ランキングで大番狂わせが起きた。"絶対王者"としてニッポン市場に君臨してきたホンダの軽N-BOXが2位に転落! 首位に輝いたのはスズキの軽スペーシアである。この交代劇の背景にはいったい何があるのだろうか?

■スズキがこだわったコンビニのざるそば

ホンダが誇る"絶対王者"が2位に転落した!

自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の発表によると、5月の新車販売の総合ランキングで首位に立ったのは、1万5160台(前年同月比91.9%増)をマークしたスズキの軽スペーシア。ちなみにホンダの軽N-BOXは23年7月以来の首位陥落となった。

N-BOXが誕生したのは2011年12月だが、鬼売れを続けシリーズ累計販売台数は250万台を突破! 新車販売の年間総合ランキングでは3年連続、軽部門だと9年連続トップを独走する怪物カーである。昨年10月のフルチェンで3代目となり、品位を高めた上質カーへと変身した。

そんな"絶対強車"の足元が揺らいだのが今年2月の新車販売。昨年11月に6年ぶりのフルチェンを受けて爆誕した3代目スペーシアが1万5066台を記録! その差を一気に1476台まで詰めてきたのだ。

そして今回の首位交代である。だが、メディアやSNSには、「ダイハツの自爆によりスズキに客が流れただけ」とか「3代目N-BOXの自滅だ」なんて声が飛び交っている。本当にそれらがN-BOX首位陥落のワケなのか? 自動車誌幹部は苦笑いしながらこう言う。

「昨年の世界新車販売ランキングはホンダが399万台で7位、スズキは307万台で9位です。一方、昨年の国内の新車販売台数に目を向けると、首位トヨタの157万台に次ぐ2位は65万台のスズキ。ホンダは59万台で4位です。しかも、昨年度スズキは18年ぶりに軽の新車販売台数でトップに返り咲いている」

全車にマイルドハイブリッドを搭載する3代目スペーシア。写真は好調な販売を支えるカスタム 全車にマイルドハイブリッドを搭載する3代目スペーシア。写真は好調な販売を支えるカスタム

つまり、スズキはニッポン市場のツボをシッカリ心得ているという話だ。週プレは3代目N-BOXと3代目スペーシアのメディア試乗会で開発トップを直撃している。

確かに同じ背の高い軽だが、その開発コンセプトは全然違った。ホンダが掲げたのは、"ハッピーリズムボックス"。このシンプルな英語のコンセプトについて開発責任者の諫山博之氏はこう語った。

「N-BOXの核となるターゲットユーザーは30代のママさん。彼女たちの生活をいろいろ調査すると、家族との時間だけでなく、自分の趣味や地域の仲間との時間も大切にしていた。そんなママさんたちが一日の中でさまざまな活動をリズミカルにこなせるクルマということで、"ハッピーリズムボックス"という言葉が生まれました」

一方、スズキの開発コンセプトは"日常をもっと楽しく便利に快適に!"。開発責任者の鈴木猛介氏はこう言った。

「先代モデルからの課題だったのが、スーパーなどで購入した荷物をどこに置くのか問題。調べてみると、主に後席の足元派と後席の座面派に分かれるのですが、実は足元派も座面に置きたいのが本音でした。しかし、滑り落ちる可能性があるため、仕方なく足元に置いていたのです」

先代から引き続きスペーシアの開発責任者を務めた鈴木猛介氏は、「現行モデルの開発は問題点の洗い出しから始めた」と言う 先代から引き続きスペーシアの開発責任者を務めた鈴木猛介氏は、「現行モデルの開発は問題点の洗い出しから始めた」と言う

そこで誕生したのがマルチユースフラップ。後席の座面前端のフラップの位置や角度を調整することで荷物の落下防止はもちろん、オットマンなどとしても活用できるようにした。ちなみにスペーシアのメインユーザーも子育て世代である。

「ユーザーの皆さんの話を聞いていると、コロナの影響やレジ袋の有料化でコンビニ弁当を車内にそのまま持ち込むケースが増えていた。そこで、助手席前のダッシュボードにコンビニのざるそばを置け、なおかつ滑り落ちないよう工夫しました。ざるそばはコンビニ各社の最大サイズで、ざるそばが置ければ大半のコンビニ弁当が置けるんです」 

鈴木氏はそう胸を張った。

■ガソリン車より安いスズキのハイブリッド

ホンダ関係者はN-BOXの現状についてこう語る。

「販売店からは、『3代目は顔が地味すぎる』『先代と比較して内装の質感が下がった』『なぜハイブリッドを用意しないのか?』という不満の声が届いている。N-BOXは国内販売の大黒柱だから冗談抜きに頭が痛い」

ちなみにホンダは2030年に軽をEV化するため、ハイブリッドやマイルドハイブリッドの投入の予定はない。ホンダの販売店関係者は苦い顔でこう言う。

「N-BOXにはガソリン車しかないとお伝えすると、商談が一気に冷え込むケースも」

5月16日、ホンダの三部敏宏社長は電動化へ10兆円の投資を発表。しかし、N-BOXは2030年までガソリン車のままだという 5月16日、ホンダの三部敏宏社長は電動化へ10兆円の投資を発表。しかし、N-BOXは2030年までガソリン車のままだという

ちなみにN-BOX(カスタム含む)の価格は164万8900~236万2800円。スペーシア(カスタム含む)の価格は153万100~219万3400円で全車マイルドハイブリッド。燃費はクラストップの25.1㎞/L(WLTCモード)を誇る。

「実はガソリン車のN-BOXよりも、マイルドハイブリッドを搭載するスペーシアのほうが価格が安い。しかも軽なのにグレードによってはハンドルヒーターまでつく」(前出・自動車誌幹部)

話が長くなったが、今回の首位交代のワケはダイハツの自爆による棚ボタでも、N-BOXの自滅でもない。日本市場と真摯に向き合い開発してきたスペーシアが消費者に高く評価されたという話である。

つまり、スズキが実力で勝ち取った首位だ。ちなみにスズキが総合トップに立つのは9年5ヵ月ぶり。前回の首位は5代目ワゴンRだった。

今年1月26日、スズキの鈴木俊宏社長は2030年度に向けた戦略を発表し、軽EVの投入や軽に搭載する新型ハイブリッドの開発に言及 今年1月26日、スズキの鈴木俊宏社長は2030年度に向けた戦略を発表し、軽EVの投入や軽に搭載する新型ハイブリッドの開発に言及

■気になるスペーシアの納期と売れ筋

販売絶好調のスペーシアだが、納期を心配する声がアチコチから聞こえてくる。何しろジムニーの納期は現在も1年以上と長期化している。

「ウチはトヨタさんやホンダさんとは生産規模が違うので」(スズキ販売店関係者)

ただ、週プレが調べたところでは、現時点でスペーシアの納期は2~4ヵ月程度。月販2万台ペースが長く続けば話は別だろうが、1万5000台前後で推移する分には納期の長期化はなさそうだ。というわけで、新車販売総合トップに立ったスペーシアの売れ筋などをスズキ広報部に聞いてみた。

「先代スペーシアは標準とカスタムの比率は半々でしたが、新型ではカスタム比率が高まり標準が4割、カスタムが6割という構成になっています。売れているグレードは標準が『ハイブリッドX』で、カスタムが『ハイブリッドXSターボ』となります」

レベチの上質さを誇るコックピット。収納スペースの数もハンパない レベチの上質さを誇るコックピット。収納スペースの数もハンパない

多彩な機能を持つ後席。新開発のテーブルは牛乳パックサイズのドリンクを収納できる 多彩な機能を持つ後席。新開発のテーブルは牛乳パックサイズのドリンクを収納できる

先代スペーシアはセカンドカー需要が多かったと開発陣は語っていたが、3代目スペーシアも同様なのだろうか? 

「セカンドカーとしてご利用いただく方が多いですが、ファーストカーとしてもご活用いただいております」

5月の新車販売で首位に立ったスペーシアだが、2位のN-BOXとの差はわずか578台である。すでに夏のボーナス商戦も始まっており、両社の販売店はバッチバチ。この激アツの新車

販売バトルから目が離せない!

スペーシアがこのまま首位を独走できるか見ものである スペーシアがこのまま首位を独走できるか見ものである