最高速度は260キロ、時速100キロ到達は3.4秒というバケモノEV。日本で本領を発揮できる場はサーキットのみ 最高速度は260キロ、時速100キロ到達は3.4秒というバケモノEV。日本で本領を発揮できる場はサーキットのみ

韓国ヒョンデが投入したEVが大きな話題を呼んでいるという。いったいどこがスゴい? つうわけで、自動車研究家の山本シンヤ氏が試乗し、その仕上がりなどを特濃解説する。

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■韓国ヒョンデがEVの楽しい未来を提示

山本 6月5日に韓国自動車大手のヒョンデが、チョー面白いEVを発売しました!

――ヒョンデって日本市場から撤退した気が......。

山本 実は22年に12年ぶりの再上陸を果たしています。グローバルではトヨタと同じくマルチ戦略ですが、日本で販売するのはEVとFCEVで、販売はオンラインのみという大胆な戦略です。

――再上陸後の販売状況は?

山本 JAIA(日本自動車輸入組合)によると、昨年のヒョンデの新車販売台数は489台です。ただ、ヒョンデに聞くと今は台数うんぬんよりブランドの認知に重きを置くフェーズとのこと。要は一度撤退しているので、まずは信頼回復が一番であると。

ヒョンデ アイオニック5N 価格:858万円 専用のエアロパーツがぶち込まれたお顔。見た目も走りもクルマ好きをたぎらせる絶品カーに仕上がっている ヒョンデ アイオニック5N 価格:858万円 専用のエアロパーツがぶち込まれたお顔。見た目も走りもクルマ好きをたぎらせる絶品カーに仕上がっている

――今回紹介するのはどんなモデルですか?

山本 22年に発売したEV、アイオニック5の高性能版となるアイオニック5Nです。

――Nにはどんな意味が?

山本 Nはヒョンデのスポーツブランドで、ネーミングは開発拠点の韓国ナムヤン(南陽)と、開発テストの舞台となるドイツのニュルブルクリンクが由来だそうです。

――つまり、ヒョンデのNブランドは、トヨタのGRや日産のNISMOと同じような立ち位置?

山本 Nは15年に発足し、これまで量産車をベースにした各モータースポーツに参戦してきました。そこで培った技術やノウハウを色濃くフィードバックさせたモデルにだけ、栄光のNの名が与えられる。ちなみに、NがEVを手がけるのは今回が初。

――なるほど。確かに見た目もギンギン!

山本 エアロパーツや色使いなど1980年代にニッポンで一世を風靡した〝ホットハッチ〟に通じるスタイルに仕上がっています。個人的には個性が強く好き嫌いが分かれるノーマルのアイオニック5よりも受け入れやすいデザインかなと。

ボディサイズは全長4715㎜×全幅1940㎜×全高1625㎜。車重は2210㎏を誇る ボディサイズは全長4715㎜×全幅1940㎜×全高1625㎜。車重は2210㎏を誇る

男心を刺激するメカメカしいコックピット。液晶メーターにはモーター温度やバッテリー温度などの情報が表示される 男心を刺激するメカメカしいコックピット。液晶メーターにはモーター温度やバッテリー温度などの情報が表示される

――気になるスペックは?

山本 前後にモーターを搭載するツインモーターの四駆車で、最高出力は650馬力、最大トルクは770Nmです。制止状態から時速100キロ到達は3.4秒という俊足マシンです。

――スペック鬼すぎ! このモデルの開発コンセプトは?

山本 アイオニック5Nの開発者を直撃しましたが、「世の中にはハイパワーEVはたくさんありますが、ハイパフォーマンスEVはどうでしょうか。今回、われわれはそこに挑戦しました」と語ってくれました。

前席は本革&アルカンターラ仕立てのバケットタイプ。シートヒーターなどの機能も備える 前席は本革&アルカンターラ仕立てのバケットタイプ。シートヒーターなどの機能も備える

タイヤは21インチ。ブレーキパッドにはNの文字が輝く。実際に見ると迫力満点 タイヤは21インチ。ブレーキパッドにはNの文字が輝く。実際に見ると迫力満点

――単なる直線番長ではないぞと。試乗した場所は?

山本 千葉県袖ケ浦市にあるサーキット(袖ケ浦フォレストレースウェイ)。

――EVの試乗会とは思えない場所ですね。

山本 EVの欠点のひとつにバッテリー温度の上昇による性能低下があります。ただ、ヒョンデはそのあたりの対策が万全で、ニュルブルクリンクを2周しても温度上昇がほとんどないと公言していました。

――実際に乗った感想は?

山本 アクセルを全開にすると650馬力が炸裂! とはいえ、手なずけられている650馬力なので怖さはなく、むしろ笑顔になる楽しさでした。しかし、このクルマの本当のスゴいところは「曲がり」。

――そもそもEVは床下にバッテリーを搭載するため低重心になり、それが走りに効果があるといいますが、車両重量はガソリン車より相当重い。ちなみにアイオニック5Nも約2.2tと超ヘビー級。それでシッカリ曲がれるの?

山本 ズバリ、イエス! 走り始めて驚いたのは、2.2tとは思えぬ軽快な身のこなし。感覚的には1.6~1.7tくらいのクルマに乗っているような操縦感覚です。

さらに路面に張りつくような安定感を持ちつつも、アクセルのコントロールでクルマの向きも意のままに操れたりと、現時点では〝世界で一番走りが楽しいEV〟といっていいかもしれません。事実、今回の試乗で私もEVであることを忘れて夢中で運転しました。

――マジか!

山本 しかも、EVなのにクルマ好きをうならせるさまざまな演出も用意されており、なんとエンジン車さながらのド派手な音(3種類)や振動も堪能できます。最初は単なるギミックかと思いましたが、この音と振動があることでリズムに乗って運転できるのがわかりました。加えてドリフト走行も可能です。

EVなのにエンジン音を響かせながらドリフトをブチカマす。まさにミラクルカー EVなのにエンジン音を響かせながらドリフトをブチカマす。まさにミラクルカー

――EVでドリフト!

山本 実は前後輪の駆動比率と車両制御を緻密にコントロールし、誰でもドリフト走行を楽しめるデバイス(装置)などが盛り込まれています。ただ、高価な21インチタイヤなのでドリフトで惜しげもなく使うには勇気が必要(汗)。

――クルマ好きを魅了するアイオニック5Nが爆誕した背景には何が?

山本 開発者に聞いたら、「われわれは日本車をリスペクトしており、そこで学んだクルマ文化をこのクルマに盛り込んだ」と語っていました。

――世界の評価は?

山本 今年3月に私も選考委員を務めているワールド・カー・アワードのパフォーマンスカー部門を受賞しました。日本はもちろんですが、海外メディアも称賛の嵐です。

――最後に総括を!

山本 アイオニック5Nの性能やクルマの完成度を踏まえると、日本勢はモタモタしていられません。私はこのアイオニック5Nを〝クルマ屋が創るEV〟の理想型のひとつだと思いました。

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