渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
今年上半期に取材した話題のモデルの中から、珠玉にも程があるやりすぎカーを選び、勝手に表彰! 選考委員長は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏。つうわけで、上半期を代表するクルマをドバッと大放出!
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渡辺 上半期の1位はホンダの新型EV、ゼロシリーズのサルーンに決定しました。
――今年1月に米ラスベガスで開催されたCES2024に出展し、3月には東京・青山にあるホンダ本社でメディアに披露されたモデルですね。報道陣からは、「ランボルギーニの名車カウンタックみたい!」という声も。
渡辺 一方、口の悪い専門家たちは「脱毛器風の顔だ」とか「いやいや、ウナギ顔じゃないか?」なんてヒソヒソ話をしていた(笑)。
冗談はさておき、1位に選んだサルーンはゼロシリーズの主力モデルです。26年に北米での発売を皮切りにアジア、欧州、アフリカ、中東、南米と世界展開していく予定です。
――ホンダは5月16日にも大きな発表をしたそうで?
渡辺 簡単に言うと、EVなどに10兆円の投資をするという話で、ホンダはEVシフトを鮮明にしています。
渡辺 ホンダは40年までにハイブリッドを含めた内燃機関車の販売をやめると発表済み。ただし、撤退と復帰を繰り返すF1同様、クルマ造りも生産終了と再開を繰り返しています。
この迷走状態を、「ホンダは臨機応変だ!」などと持ち上げる専門家もいますが、このような朝令暮改を続けていたら、言うまでもなく、ファンや消費者の信頼を失ってしまいます。
――つまり、サルーンが先陣を切る、ホンダの"シン・EV戦略"は最後までやり切るべきであると?
渡辺 当然です。今回、サルーンを1位にした理由は、脱毛器風の顔やはね上げ式ドアのやりすぎ感もありますが、このサルーンが内燃機関を廃止するホンダの象徴となるモデルだからです。加えて世界的にEV失速が叫ばれる中、あえてEV戦略をフル加速させるホンダのやりすぎハートに敬意を込めての1位です。
渡辺 今年1月に開催された東京オートサロン2024にトヨタが出展したセンチュリーGRMN(ガズーレーシング・チューンド・バイ・マイスター・オブ・ニュルブルクリンク)です。
昨年追加されたクロスオーバータイプのセンチュリーをベースにし、走りを磨いたコンセプトモデルです。トヨタのモータースポーツ部門であるGR(ガズーレーシング)の知見や技術が投入されている。
――誰が見てもやりすぎカーですが、2位の理由は?
渡辺 実はこのセンチュリーGRMNは未発売の幻カー。ツチノコ的モデルともいえ、早く発売してほしいぞという願いを込めての2位です。
――3位はEV王者のテスラが昨年11月に発売したサイバートラック。"走るチーズおろし器"のような見た目がメディアやSNSで話題になりました。ちなみにテスラは今年に入って販売不振などで逆風にさらされています。
渡辺 そもそもの話をすると、EV本来の目的は、化石燃料の消費量を抑え、地球温暖化の原因になる二酸化炭素の排出量を減らすこと。当然、ボディを軽くコンパクトに造り、モーターや駆動用リチウムイオン電池も小さくする必要がある。
ところが、このサイバートラックというEVは時速100キロ到達2.7秒、車両重量は3t以上です。要はエコを隠れみのにした"掟破りのEVマッスルカー"。そのアウトローにも程があるやりすぎスペックで3位入賞!
――4位は中国最大手の二刀流自動車メーカーBYDが誇るEV、アットスリーです。
渡辺 昨年の世界新車販売ランキングで10位に輝き、海外進出も積極的。もちろん、日本市場にも攻め込んでおり、その先陣を切ったのがミドルサイズSUVのEV、アットスリーでした。しかし、昨年の日本市場でのBYDの販売台数は1446台と低迷。そこで、BYDは販売の起爆剤として、3月にアットスリーの仕様変更モデルを投入!
――どこがやりすぎ?
渡辺 話題のカラオケ機能をもっと楽しめるよう、専用マイクを用意しました。もともと、すべてのドアポケットに弦を装備するなど、アットスリーは音にこだわったクルマですが、マイク投入の突き抜け感は4位の価値アリ!
――5位は12年ぶりにニッポン市場に復帰した三菱のトライトンです。
渡辺 トライトンは世界約150ヵ国で年間20万台を売る三菱のドル箱。事実、累計販売台数は560万台超を記録し、これは三菱車の歴代トップ!
――このトライトンをメディア向けのオフロード試乗会で取材しましたが、やたらデカかった印象が残っています。
渡辺 上級グレードのスリーサイズは、全長5360㎜×全幅1930㎜×全高1815㎜。車重は2140㎏と超ヘビー級ボディです。
――しかも、この巨漢ピックアップトラックが悪路走行を余裕でこなしてしまう。
渡辺 パリダカやランエボで磨き抜いた三菱の伝家の宝刀、四駆技術を出し惜しみなく注ぎ込んでいるのが大きい。ただし、お値段が実質500万円台と高額なのが玉にきず。
――どこがやりすぎ?
渡辺 顔から性能から価格まで全部がやりすぎです。
渡辺 昨年4月に日本に上陸した4代目メガーヌの高性能モデルで、F1も手がけたスポーツブランドの「ルノー・スポール」が磨き抜きました。エンジンは1.8Lターボですが、パワフルで速い。まさに"令和のホットハッチ"という感じの走りでした。ただし、スポーツモデルらしく、乗り心地は野性味たっぷり。購入には覚悟が必要です。やりすぎな走りに敬礼!
渡辺 昨年12月に発売されたスズキのスーパーキャリイXリミテッドはやりすぎです。デザインを担当したのは入社4年目と5年目の若い女性ふたり。外観は見事タフ&ワイルドな仕上がりに!
――メディアやSNSにも「超カッケー」とか「これはほしい」と称賛の嵐が巻き起こっています。
渡辺 私も実車を確認しましたが、令和の軽トラという感じの出来映えです。近々、公道試乗記をお届けできると思いますので、お楽しみに!
――8位はメルセデスAMGのSUV、GLE63 S 4マチック+クーペです。とにかく圧がスゴいクルマでした。
渡辺 左ハンドルの612馬力で、全長4960㎜×全幅2020㎜×全高1715㎜で、しかも、フロントグリルには縦方向の格子が入ったメルセデスAMG顔です。その存在感は圧倒的でした。
――高速道路での試乗で驚いたのは、車間距離を十分に取って走っているのに、前方のクルマが次々と道を譲ってくれたこと。なんだか申し訳ない気持ちになりました。
渡辺 映画『十戒』のワンシーンのごとく、見事に道が開けましたね(笑)。
渡辺 1位のサルーン同様、今年1月のCES2024で公開されたスペースハブです。このクルマは見た目がやりすぎ。たぶん何か新しいデザインに挑戦したかったのだと思いますが、気持ちが先走ったのか、フロントはともかく、後ろ姿は食パン一斤的で、見ているだけで無性にパンが食べたくなる。開発テーマは"人々の暮らしの拡張"。
渡辺 千葉県にあるNATS(日本自動車大学校)の学生の皆さんが造り上げたカスタムカーです。今年1月の東京オートサロンに出展して大きな話題を呼びました。
ちなみにベース車両はスズキのジムニーとエスクードです。ワイドボディをここまでローダウンさせるのはアッパレ! 若い人たちがこのようなデザインをするなら、日本のカーデザインの未来も明るい。
渡辺 タイカンは19年11月にポルシェ初の市販EVとしてニッポンに登場。実はこのクルマが上半期に大きな注目を集めました。ご存じの方も多いと思いますが、ドジャースの大谷翔平選手が背番号「17」を譲ってくれた同僚投手の妻にタイカンをプレゼントしたからです。
――タイカンは一躍、時のクルマとなりました。ズバリ、タイカンのどこがやりすぎ?
渡辺 大谷選手はポルシェジャパンとアンバサダー契約を結んでおり、今春のキャンプ時などの移動にポルシェを使用して話題を呼びましたが、そもそもタイカンのお値段は1370万~3132万円。10年総額7億ドルという破格の契約をドジャースと結ぶ大谷選手ならポーンとプレゼントできると思いますが、庶民からすると、ねたみも含め、プレゼントにタイカンはやりすぎです(笑)。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員