オフセット衝突試験後のスバル中型SUV「クロストレック」 オフセット衝突試験後のスバル中型SUV「クロストレック」
2023年度の自動車安全性能評価「JNCAP」において、クロストレックとインプレッサの2台がファイブスター大賞を受賞したスバル。同社が推し進める〝安全戦略〟の中身。そして、その狙いなどをカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。 

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■運転支援システム「アイサイト」搭載車は500万台以上

渡辺 先ごろスバルは、事故低減に向けた取り組みと、総合安全性能の進化に関する説明会を実施しました。それによると、スバルのインプレッサとこれをベースに開発されたSUVのクロストレックは、自動車安全性能評価のJNCAP(自動車アセスメント)でファイブスター大賞を受賞しています。総合評価は(100点満点中)98点です。

――スバルが高い評価を受けたワケは?

渡辺 事故を防ぐ優れた予防安全性能です。現在の進化したアイサイトは、ステレオカメラに加えて、広角単眼カメラも備えている。前後に4つのレーダーも装着され、リヤソナーも併用することで「360度センシング」を実現。見通しの悪いT字路、右左折時にも、歩行者、自転車、4輪車などを検知して衝突被害軽減ブレーキを作動させます。

スバル自慢の運転支援システム「アイサイト」のステレオカメラ スバル自慢の運転支援システム「アイサイト」のステレオカメラ
――死角を補ってドライバーの見落としも防ぎ、安全機能を作動させると。

渡辺 安全運転の第一歩は、事故につながる危険な要素を早期に発見することです。そのために360度センシングがあり、スバル車はライトも工夫しました。曲がる方向を照射するLEDコーナリングランプ、ハイビームを使いながら対向車などの眩惑を抑えるアレイ式アダプティブドライビングビームなども用意しています。

――そのほかの安全技術は?

渡辺 交通事故が発生したあとで、乗員や歩行者を守る技術も先進的です。独自のプラットフォームが衝突エネルギーを効果的に吸収してボディ全体に分散させ、乗員の生存空間を守ります。自車の乗員だけでなく、衝突した相手車両に対する加害性を抑えるボディ構造、歩行者を保護するエアバッグも幅広い車種に採用しています。歩行者保護エアバッグを装着する日本の自動車メーカーはスバルだけです。

――ちなみNHKのテレビ番組「新プロジェクトX」(6月22日放送)で、スバルのアイサイトが取り上げられて話題になっていますね。

渡辺 最近のクルマを見ると、加速性能や車内の広さは以前とあまり変わりません。しかし、衝突被害軽減ブレーキなどの安全装備と運転支援機能は、急速に進歩しています。スバルのアイサイトはその先駆けでした。アイサイトがCMで宣伝され、ユーザーが衝突被害軽減ブレーキに高い関心を寄せるようになり、他社の製品を含めて急速に普及しました。

――スバルは先進安全装備のパイオニアであると。その取り組みはいつ頃から始まったの?

渡辺 もともとスバルは航空機を手がけていたので、古くから合理的な発想で車両を開発していました。その過程で重視されたのが、人命に大きな影響を与える安全性能です。スバルは90年代の前半から、ステレオカメラを使った安全機能の開発を始めました。

――30年以上も前の話です。

渡辺 90年代の前半は、今では装着が義務化されている4輪ABS(アンチ・ロックブレーキシステム)、運転席エアバッグのオプション設定がようやく始まった時代です。この頃にスバルは、動物の目に相当するふたつのカメラで対象物を認識して、事故防止に役立てる機能を開発していました。

――その後の商品化は?

渡辺 99年にレガシィランカスターがADA(アクティブドライビングアシスト)を採用しました。ふたつのカメラ映像を解析して、車間距離が詰まったり車線を逸脱したときの警報。それから車間距離を自動制御できるクルーズコントロール、カーナビ情報も併用してカーブを曲がるときの警報やシフト制御を行ないました。

08年には世界で初めて、ステレオカメラだけで衝突被害軽減ブレーキを作動させて運転支援も行なう最初のアイサイトがレガシィに搭載されました。10年には進化したアイサイトバージョン2が税抜き10万円の低価格でオプション設定され、「ぶつからないクルマ?」というCMの効果もあって人気の装備になりました。

――それでアイサイトは普及したの?

渡辺 今ではOEM(相手先ブランドによる生産)車を除くと、国内で新車として売られるスバルの全車がアイサイトを搭載しています。ちなみにアイサイト搭載車の累計販売台数は500万台を軽く超えます。

2030年死亡交通事故ゼロ実現に向けてスバルは米の半導体企業AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)との協業を発表。(右)「ミスターアイサイト」こと、スバル執行役員CDCO(最高デジタルカー責任者)の柴田英司氏。(左)米AMDのラミン・ローン副社長 2030年死亡交通事故ゼロ実現に向けてスバルは米の半導体企業AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)との協業を発表。(右)「ミスターアイサイト」こと、スバル執行役員CDCO(最高デジタルカー責任者)の柴田英司氏。(左)米AMDのラミン・ローン副社長
――そんなアイサイトを含めたスバルの安全性能は、今後どう進化しそうですか?

渡辺 スバルの説明会では、米の半導体大手、「AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)」と協業する話も聞かれました。AMDとの共同開発により、AI技術も駆使して、次世代アイサイトの認識処理性能を合理的に向上させます。これにより2030年には、スバル車の死亡事故ゼロを目指します。

――AIは安全装備にも役立つのですね。

渡辺 アイサイトを進化させて事故を皆無にするには、安全機能が完璧な運転を行なえる必要があります。いわば絶対に事故を起こさないドライバーがスバル車に漏れなく同乗して、ユーザーの運転を手助けするわけです。そのためにはAIが不可欠です。

次世代アイサイトに採用するAMDの第2世代「Versal AI Edge」 次世代アイサイトに採用するAMDの第2世代「Versal AI Edge」
――事故を起こさない完璧なドライバーがスバル車に同乗......それって自動運転のこと?

渡辺 まさにそのとおり。アイサイトが事故ゼロを求めて安全機能を進化させると、運転支援機能も性能を高められます。安全装備と自動運転は、今は共通のユニットを使いながら別個の技術と見られていますが、最終的には一緒になるのです。事故を起こさない完璧な安全機能がクルマに搭載されたら、人間が運転する必要性も薄れて、自動運転が完成します。

――要は卵が先か、鶏が先かみたいな話ですか?

渡辺 私はスバルの考え方、つまり自動運転ではなく安全機能を追求して、その結果、自動運転に到達する道筋が正しいと思います。自動運転も大切ですが、それ以上に優先すべきは、〝人命を救う安全機能〟にあるからです。