原チャリ(原動機付自転車)の原点!! ホンダ「F型カブ」試乗した青木氏いわく、「元祖・原チャリといえば、1952年に誕生し、爆売れしたホンダのF型カブしかありません。まさに伝説モデル!」 原チャリ(原動機付自転車)の原点!! ホンダ「F型カブ」試乗した青木氏いわく、「元祖・原チャリといえば、1952年に誕生し、爆売れしたホンダのF型カブしかありません。まさに伝説モデル!」

来年、ホンダが自慢の名車「スーパーカブ50」を含む50㏄以下のバイクの生産を終了するという。その理由はなんなの? スーパーカブはどうなるの? 徹底取材したモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が特盛り解説する!

■原チャリを追い込んだふたつの理由

原チャリが消滅する!

二輪業界の盟主であるホンダが排気量50㏄以下の原付一種のバイク(一般原動機付自転車)の生産終了を検討。シリーズ累計販売台数1億台超の"世界一売れたバイク"、スーパーカブの50㏄版も対象になっている。これは令和の大事件である。

いったい何が起こっているのか? そもそも原チャリは約450万台という保有台数を誇る国民の足。言うまでもなく、通勤通学や買い物などに幅広く利用されてきた。そんな原チャリが絶頂期を迎えたのは、生産台数278万台をマークした1982年。

ホンダ自慢のバイクがスーパーカブだ。シリーズの世界生産台数は累計で1億1000万台超! 通勤通学、買い物、郵便配達などを支えてきた ホンダ自慢のバイクがスーパーカブだ。シリーズの世界生産台数は累計で1億1000万台超! 通勤通学、買い物、郵便配達などを支えてきた

しかし、そこから販売はダダ下がりで、自工会(日本自動車工業会)によると、2012年は約25万台、そして昨年は9万台と低迷。

現在、原チャリを扱う国内メーカーはホンダ、ヤマハ発動機、スズキの3社なのだが、来年11月に導入される排ガス規制強化への対応が難しいのだという。その理由とは!? ここからはモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏に話を聞く。

――なぜ二輪メーカーは排ガス規制への対応が難しいの?

青木 そもそも50㏄以下という排気量区分は日本特有のもので、グローバルでは小型バイクといえば100~125㏄が主流なのです。

――要するに原チャリはニッポン専売の"ガラパゴスバイク"なんですね?

青木 はい。1980年代前半は日本国内だけで年間200万台近く販売されていたので、国内向けに原チャリを造っても採算が取れていました。

しかし、ヘルメット着用義務化が始まった86年から潮目が変わり、その後、免許不要、違法駐車の厳罰化もない電動アシスト自転車が爆売れ。さらにリーマン・ショックや少子化なども重なり販売台数は激減していったのです。

――原チャリは逆風にさらされていると。

青木 逆風というか......実は環境規制適合へのコストがかさむなどの理由から、2018年にはヤマハのジョグとビーノがホンダからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けました。このときも「いよいよ原チャリ絶滅か!?」とファンらは大騒ぎとなりました。

――つまり、メーカーサイドからすると、販売が低迷する"ガラパゴスバイク"の原チャリに対して排ガス規制への開発費は注げない。仮に規制に対応できたとしても、手頃な価格での発売は難しいと?

青木 ですから、排気量50㏄エンジンを積む原付一種は生産を終了します。ただ、この話は降って湧いたわけではありません。

――というと?

青木 来年11月に始まる排ガス規制に対応するのは難しいので、22年にAJ(全国オートバイ協同組合連合会)や自工会など業界団体が125㏄以下のバイクの最高出力を従来の50㏄並みに抑えた「新基準原付(新原付)」を政府・与党に提案したのです。

――ふむふむ。

青木 その結果、警察庁、経済産業省、国土交通省などが中心となって「二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会」を定期的に開催。当然、議論も重ねてきたわけで、決して急転直下で原チャリの生産終了が決まったわけではありません。

――ちなみに警察庁は出力を抑制した125㏄以下のバイクを新原付として、普通免許や原付免許で運転できるよう法整備をする方向で調整しているそうですね?

青木 注意が必要なのは、従来の125㏄以下のバイクを、どれでも原付免許で運転できるようになるという話ではありません。普通免許や原付免許で乗れるのは今後登場する新原付が対象となります。価格面も含め気になるところですが、メーカーからの公式アナウンスは今のところありません。

――なるほど。

青木 加えて、ほかの交通からの視認性を向上させるため、バイクも昼間走行灯(デイタイムランニングライト)や車幅灯、側方反射器を装着する決まりが来年6月からスタートします。原付一種モデルをこの決まりに対応させるにはコスト面のハードルがあり、現状では先行きを見通せる状況ではありません。

――ちなみにスーパーカブは今後どうなります?

青木 スーパーカブはもともと110と50で車体の基本構成を共通化するなどしているので、新原付に対応するのは決して難しい話ではありません。配達業などの需要もあるので、生き残る確率は高いと考えています。

一方で、将来的には新原付の主流は電動モデルになるかもしれません。JMS2023にスズキが参考出品したeチョイノリ、すでにホンダが発売しているEM1e:などですね。

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■スーパーカブ50の争奪戦が勃発!?

――ズバリ、歴代の原チャリの名車を挙げるならどれ?

青木 原チャリとは一般原動機付自転車の俗称。その原点ともいえるのがホンダのF型カブ! このモデルは別格です。"白いタンクに赤いエンジン"がF型カブの特徴で、国民の足としてニッポンの高度経済成長期を支え、爆発的ヒットを記録しました。

バイクジャーナリストとして、これまでさまざまなモデルに試乗してきましたが、感涙したのはF型カブだけです。ただ、ほかにも愛しき名車があるので、詳しくは記事末の5選をご覧ください。

F型カブの後輪に輝く白いガソリンタンクと赤いエンジン。国民の足として、昭和のニッポンを支えた F型カブの後輪に輝く白いガソリンタンクと赤いエンジン。国民の足として、昭和のニッポンを支えた

――では、最後に原チャリとの別れを惜しんでください。

青木 原チャリの免許は、16歳になったら筆記試験だけですぐに取得できます。僕も16歳になり即免許を取りました。スクーターだけでなく、マニュアルミッション車もあり、クラッチワークやシフトチェンジを覚えられたのもいい思い出ですね。

――ほかには?

青木 何より自分の責任において、ひとりで公道を走る。原チャリという乗り物は"オトナへの最初の一歩"だった気がします。いずれにせよ、原チャリで走り出したときの感動は今も忘れません。 

――そういえば販売店で仕入れた話があるとか?

青木 すでにスーパーカブ50への駆け込み需要が始まっているようです。ちなみに生産終了時に発売されることの多い、"ファイナルエディション"がもしスーパーカブ50に登場したら大争奪戦は確実です。時間がたてば、中古車市場で50㏄モデルの高騰も予想されます。買うなら今です!

【青木タカオが勝手に選んだ! 愛しき原チャリ5選】

「ホンダ ドリーム50」(1997年) 
往年の「CR110カブレーシング」を彷彿とさせる超本格派スポーツ。緻密なハイメカニズムがブチ込まれたドリーム50は伝説のマシン!
「ホンダ ドリーム50」 「ホンダ ドリーム50」

「ヤマハ RZ50」(1981年) 
軽量高剛性のダブルクレードルフレームに、6速クロスミッションを採用した水冷2ストエンジンを搭載する過激な原チャリスポーツ!
「ヤマハ RZ50」 「ヤマハ RZ50」

「ホンダ ジャズ」(1986年) 
ハーレーといえばアメリカン。アメリカンといえば大排気量だが、常識破りの原チャリとして1986年に爆誕! 世の男たちを狂喜させた 
「ホンダ ジャズ」 「ホンダ ジャズ」

「ホンダ モンキー くまモンバージョン」(2014年) 
熊本県のPRマスコットキャラクターである「くまモン」が車体にあしらわれた逸品。こうした遊びゴコロも原チャリの魅力である
「ホンダ モンキー くまモンバージョン」 「ホンダ モンキー くまモンバージョン」

「ホンダ スマートディオZ4 阪神タイガース スペシャル」(2003年) 
03年に優勝を決めた星野仙一率いる阪神タイガース。顧客の夢をホンダモーターサイクルジャパン大阪支店が実現し、限定120台で発売
「ホンダ スマートディオZ4 阪神タイガース スペシャル」 「ホンダ スマートディオZ4 阪神タイガース スペシャル」

写真提供/ホンダモーターサイクルジャパン ヤマハ発動機