炎天下の車内に放置されたモバイルバッテリーの発火事故を再現した試験の様子。すさまじい勢いで火の手が上がっている 炎天下の車内に放置されたモバイルバッテリーの発火事故を再現した試験の様子。すさまじい勢いで火の手が上がっている

夏本番! ガジェットがありとあらゆる場所で燃えに燃えている! その多くがリチウムイオン電池を搭載した製品だというが、いったいどんな仕組みで燃えているのか? 徹底取材した。

■走行中の電車内や駅ホームでも発火!

ニッポン列島で殺人酷暑が猛威を振るっている! 10年に1度レベルの高温に見舞われる中で、熱中症と同じぐらい注意したいのがリチウムイオン電池搭載のガジェットの扱い。実は昨年、東京消防庁管内においてリチウムイオン電池が出火した件数が過去最多の167件をマークして話題を呼んだ。

しかし、今年上半期はすでに107件も出火が発生し、前年同期比35.4%の増加となっている。具体的にはどんな製品から出火しているのか?

最も多いのがモバイルバッテリーで44件、続いてスマホの17件、そして電動アシスト付き自転車の14件となっている。恐ろしいことに走行中の電車内でモバイルバッテリーから出火した事例も。一歩間違うと大惨事である。

鎮火後の車内の様子。モバイルバッテリーが見るも無残な姿になっている...... 鎮火後の車内の様子。モバイルバッテリーが見るも無残な姿になっている......

しかも、専門家によれば、リチウムイオン電池搭載製品の発火事故は夏場に起きやすいというじゃないか! いったいどういうメカニズムよ? そこで、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の製品安全センター製品安全広報推進官、山﨑卓矢に解説してもらった!

――夏場はリチウムイオン電池搭載製品の発火事故が増えるらしいですね?

山﨑 それもあって、7月12日に「真夏の製品事故アラート~モバイルバッテリー・携帯用扇風機・着火剤の取扱いに注意~」という注意喚起のプレスリリースを出したのですが、7月20日に長野県の駐車場でクルマのダッシュボードを焼く火事があり......。

――そのニュース見ました!

山﨑 原因は車内にあったモバイルバッテリーから出火したものとみられていますが、大きな火災を引き起こす可能性もあるので、もっと注意喚起を呼びかけたいですね。

――やっぱり灼熱地獄と化した真夏の車内は危ない?

山﨑 JAF(一般社団法人 日本自動車連盟)さんの実験にもありますが、真夏の炎天下に長時間駐車し、直射日光を浴び続けたダッシュボードの表面は80℃近くに達します。

鉄板のように熱されたボードの上にモバイルバッテリーを放置すると、内部のリチウムイオン電池セルが風船のように膨らみ白いガスを噴出、最終的には破裂して発火します。それが冒頭の写真です。

――ヤバっ! そもそもの話ですが、リチウムイオン電池が発火する仕組みって?

山﨑 リチウムイオン電池の構造は、灯油と同じレベルの可燃性の電解液に浸されたプラス極とマイナス極がセパレーターという材料で仕切られていますが、強い衝撃を受けると、セパレーターが壊れ、プラス極とマイナス極がくっついてしまう。それでショートする。

ショートしてしまうと、内部で化学反応が起き、温度は急上昇。電解液は可燃性ガスとなり、ショートの火花が発火源に。発火すると、最終的には破裂に至ります。

駅ホームで利用客がカバンの中に入れていたモバイルバッテリーが出火。消火器を使うレベルであった 駅ホームで利用客がカバンの中に入れていたモバイルバッテリーが出火。消火器を使うレベルであった

出火したモバイルバッテリーの焼損状況。見事なまでに黒焦げとなっている 出火したモバイルバッテリーの焼損状況。見事なまでに黒焦げとなっている

――そして熱にも弱いと?

山﨑 リチウムイオン電池は温度変化に弱いので、通常は5~45℃の範囲での使用が推奨されています。45℃以上になると劣化が加速し、50℃以上になると発火の恐れも。

――すべてのリチウムイオン電池に問題があるんですか?

山﨑 全体的にリチウムイオン電池は熱や衝撃を嫌いますが、特に非純正バッテリーはチェックがされていません。品質管理が甘く純正品より劣っている。安全装置の部分が簡易的なので、部品数も少ない。

そのため純正品より値段が安くなる。不良品をつかまされないためにも、非純正品を購入する際には、製造元を検索し、過去に事故を起こしていないか調べてみることをオススメします。

――粗悪品があると。ちなみに最も燃えているモバイルバッテリーの見極め方は?

山﨑 現在、電気用品安全法を満たしていることを示す「PSEマーク」の表示がないモバイルバッテリーは国が家電量販店での販売を禁じています。

また、大手通販サイトに違法製品の出品を停止するよう要請していますし、ネットパトロールで順守しているか販売元に確認しています。ただ、ネット上での違法製品の取引を完全に防ぐことはできていません。

災害級の酷暑もあり街中には携帯扇風機を手にする人をよく見かけるが、適切な使用を怠ると、ご覧のように破裂してしまう 災害級の酷暑もあり街中には携帯扇風機を手にする人をよく見かけるが、適切な使用を怠ると、ご覧のように破裂してしまう

――それはなぜ?

山﨑 海外の通販サイトやネットオークションなどで、海外から個人が直接購入するケースもあるからです。ただ、製品の使用者が販売元に連絡を取ろうとしてもわからなかったり、つながらなかったりして発火事故で泣き寝入りになるケースも。

――怖っ! 簡単にできる真夏の大爆発回避法は?

山﨑 落下や衝撃を避けること。高温を避けること。夏場にクルマで外出した際は必ずスマホやモバイルバッテリーを持ち歩く。ビーチは高温になるので要注意です。

――ちなみに電動アシスト付き自転車や、電動キックボードもリチウムイオン電池搭載モデルがあります。

山﨑 駐車する場合は日陰を選び、繰り返しになりますが、強い衝撃を与えない。発火したら安全な距離を取り、119番通報してください。

バッテリーの発火再現実験。炎が上がると、弾丸と化したパーツが四方八方に飛び散る。NITEのホームページで動画を見るべし! バッテリーの発火再現実験。炎が上がると、弾丸と化したパーツが四方八方に飛び散る。NITEのホームページで動画を見るべし!