渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
新型フリードの売れ行きがすこぶる好調だという。いったいどこがウケているの? 新型は何がどうスゴいの? 公道試乗で徹底チェックしたカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。
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――6月28日発売となったホンダの新型フリードが話題を集めているとか?
渡辺 ご存じのとおり国内の各自動車メーカーは認証不正問題が発覚して大騒ぎ。実はこの影響で新型車の発売が滞っているんです。
――ふむふむ。
渡辺 そんな中でのフルモデルチェンジで、しかも月販目標の6500台に対して2万4000台という事前予約を達成したので、新型フリードが注目の的になっています。
――そもそもフリードってどんなクルマですか?
渡辺 ホンダのコンパクトミニバンで、初代は08年にデビュー。今回登場した新型は8年ぶりの全面改良となります。累計販売台数は122万台を軽く突破する人気車で、それが証拠にモデル末期だった昨年も飛ぶように売れて月平均は6464台をマーク! ホンダの国内販売では金看板のN-BOXに次ぐ2位を誇ります。
余談ですが、デビューが新しいフィット(20年発売)やヴェゼル(21年発売)よりもモデル末期のフリード(16年発売)のほうが売れていた。
――鬼人気のワケは?
渡辺 ミニバンは今でも売れ筋のカテゴリーですが、ミドルサイズ以上は値上げが激しい。
例えばホンダのステップワゴンは一番安価なグレードでも約317万円です。ボディも大きく全長は4800㎜もある。当然、消費者は運転しやすく手頃な価格のコンパクトミニバンに目が向きますが、車種が少なく、フリードとトヨタのシエンタしかない。
――ライバルのシエンタと、3代目フリードを比べると?
渡辺 シエンタも販売好調ですが、天井が少し低く2列目は3人掛けのベンチシートしかありません。乗り心地も少し硬く、デザインや機能はコンパクトカーに近い。その点でフリードは先代型も含めて背が高く、人気の2人掛けセパレートシートもシッカリ用意しています。
実にミニバンらしい仕上がりですが、逆に言うと、新型フリードはシエンタとの真っ向勝負を避けたようにも見える(笑)。
――そんなフリードの3代目は、どこが進化したの?
渡辺 標準ボディはエアー、SUV風の個性派モデルにはクロスターの名が与えられました。エアーのフロントマスクはシンプルで好印象です。最近のホンダ車にはシンプル路線の顔が増えましたが、フリードのエアーが一番優れています。
3代目フリードの開発責任者である安積 悟氏いわく、コンパクトミニバンは日常生活に不可欠な存在で、1台の愛車を長く使う傾向が強く、飽きのこないデザインが好まれると。そこで、主張を抑え生活の中に溶け込める造形を狙ったそうです。
一方のクロスターは3ナンバーサイズにして個性を前面に出し、フリードシリーズで、メリハリをつけたそうです。
――パワートレインは?
渡辺 直列4気筒1.5リットルのガソリンエンジンと、直列4気筒1.5リットルのe:HEV(ハイブリッド)を用意しています。
――試乗した率直な感想は?
渡辺 e:HEVはアクセルペダルを踏んだ瞬間から加速が力強く滑らかでノイズも小さい。ガソリンエンジンは先代型と比較して、ノイズが減って静かになり、アクセル操作に対する反応も自然ですね。
――推しはe:HEV? ガソリンエンジン車?
渡辺 e:HEVは低燃費で動力性能や静粛性も優れています。価格も割安で、ガソリンエンジン車に比べて約35万円の上乗せに抑えました。
購入時に納める税額はe:HEVが約5万円安いので、実質価格差は約30万円になる。レギュラーガソリン価格を1リットル当たり170円で計算すると、約8万㎞走れば燃料代の節約で価格差を取り戻せます!
――推しのグレードは?
渡辺 e:HEVのエアーEXです。ベーシックなe:HEVエアーに、後方の並走車両を検知するブラインドスポットインフォメーション、リアクーラーなど21万円相当の人気装備を加えて、価格アップは18万9200円です。
実はこのe:HEVのエアーEXの販売比率は3代目フリード全体の60%に達しており、予想以上の売れ行きです。販売店に聞くと、「納期は1年弱」との返答がありました。ホンダからは「増産を開始する」という声も出てはいますが、3代目フリードの購入を検討する場合は納期に注意です!
7月4日、自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が今年上半期(1~6月)の新車販売ランキングを発表。
それによると、総合トップに輝いたのは、10万680台という圧巻の数字を叩き出したホンダの軽N-BOXだ! しかも、6月の新車販売総合ランキングトップもN-BOXが獲得する無双ぶり。
5月にスズキの軽スペーシアに奪われた王座を見事奪還。下半期も過熱確実の新車販売バトルから目を離すな!
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員