世界的なEV失速が叫ばれる中で、あえて逆張り的にEVシフトに突き進む姿勢を明確に打ち出した3社連合(ホンダ、日産、三菱)。この協業の先にはいったい何があるのか? 3社のもくろみに迫る。
■メディアや専門家からは"弱者連合"の声も
EV連合爆誕!
8月1日、ホンダと日産はEVなどの分野で協業すると電撃発表! しかも、この2社の提携に日産傘下の三菱も参画するという。これでニッポンの自動車業界は"全方位戦略"で脱炭素に挑むトヨタ系と、3社連合(ホンダ、日産、三菱)の2陣営に再編された。
100年に1度の大変革期を迎えた自動車業界で生き残りをかけた感じの協業だが、メディアや専門家からは《弱者連合》《金欠集団》といった負のワードも聞こえてくる。ランキングを見れば一目瞭然だが、今年上半期の国内の新車販売台数でホンダと日産はトヨタどころか、スズキの後塵を拝しているのが現状なのだ。
さらに言うと、昨年のトヨタ系の世界新車販売は1660万台(トヨタ1030万台、スズキ316万台、マツダ124万台、ダイハツ98万台、スバル92万台)。一方の3社は832万台(ホンダ407万台、日産344万台、三菱81万台)。
ただ、トヨタ系との差は歴然としているものの、832万台という数字自体はかなりスゴい。何しろ昨年の世界新車販売のランキング2位のフォルクスワーゲングループに次ぐ数字(924万台)だからだ。
それなのに、3社が揶揄される理由はなんなのか。実は今年の4~6月期決算でトヨタとホンダは営業利益で過去最高をマークしたが、日産は前年同期比99%減(!)の9億円だったのだ。
この惨敗のワケは、北米で販売好調のハイブリッドに新型を投入できなかったのがデカい。これにより日産は今年度1年間の世界販売台数の見通しを引き下げた。
肝心要の国内EV販売も惨憺たるもので、自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)の発表によると、7月の新車販売で日産自慢の軽EVサクラは2169台(前年同月比32%減)、フラッグシップのアリアは365台(前年同月比28%減)、リーフは490台(前年同月比3%減)と低迷。ちなみにサクラは今年上半期の販売も前年同期比38%減と大苦戦。
この背景を取材すると、今年3月に発覚した下請けいじめの影響を挙げる専門家が多かった。大手メディアは、《ホンダと日産の協業に三菱参画!》《3社は出遅れたEVを挽回せよ!》という具合にあおりにあおっていたが、世間は日産の不祥事を忘れていないのだ。
ホンダにしても行政処分は見送られたものの、22車種(累計販売台数325万台)の認証不正をやらかしている。そんな大企業同士の協業に対し、当然、世の反応は鈍い。だから、《弱者連合》とか《協業は不祥事の目くらまし》などとイジられているのだ。
■EVシフトに突き進むホンダ
ご存じのようにホンダは、すでに"脱エンジン"を掲げている。具体的には2040年までにハイブリッドを含む内燃機関車の販売をやめるという。今年3月には東京・青山にあるホンダ本社で今後のアイコンとなる新型EV、ゼロシリーズのサルーンなどを公開して話題を呼んだ。来年にはソニーグループとコラボした高級EV「アフィーラ」を発売予定だ。
一方、日産は10年に世界初の量販EVリーフを市場に投入したパイオニアだ。しかし、現実はかくも厳しい。現在、EV市場のトップランナーはEV専売の米テスラと中国BYDだ。この2社がデッドヒートを繰り広げており、EVのパイオニアである日産は市場をリードするどころか、完全に蚊帳の外。8月1日の会見でホンダの三部敏宏社長はこう述べている。
「先行する新興メーカー(テスラやBYD)は圧倒的に開発のスピードが速いので、スピード感をもって彼らをとらえ、リードしていくような形に持っていきたい。まだ試合は始まったばかりなので、十分戦えると思っている。(協業は)スケールメリットもあるし、開発費の効果もある」
今回の協業で3社はEVに使う車載ソフトや部品(駆動装置や基幹部品など)を共通化するという。言うまでもないが、開発費などのコストを削減しながら、競争力を高めるのが狙い。ここに三菱が参画するわけだ。確かに頭数が多いほどコストは下げられる。ならば、いっそ資本提携したほうがメリットが大きいと思うが、三部社長は会見でこう語った。
「現時点で資本関係の話はしておりません。ただ、可能性としては否定するものではない」
ちなみに3社の協業の成果が出るのは30年頃。
「研究がうまくいけば、30年より手前に出したい」(三部社長)
■世界的に大逆風の"EVシフト"
現在、EVには逆風が吹き荒れている。テスラは販売鈍化に苦しみ、世界最大のEV市場と呼ばれる中国も"EV墓場"や、激化の一途をたどる"EV限界値下げバトル"の対応に苦慮。さらに韓国では今月になってEV火災が相次いでおり、EVに対する安全面の懸念が広がっている。
今回、3社がEVに全振りするかのような報道も目立つが、実は3社内部からは今回の発表はあくまで未来戦略であり、ただちに"EV一本足打法"になるわけではないとくぎを刺す声も。いったいどうなっているのか? 自動車誌の元幹部が解説する。
「日産は今年5月に25年から生産を予定していたEVセダン2車種の開発を延期しました。北米でのEV販売の伸びが鈍化しているためです。ただし、中長期的に見た場合、EVの普及は"鉄板"という見方もありますから、3社は協力し、より高性能で低価格のEVを開発しておこうという話です。
さらに言うと、3社はクルマの相互補完も視野に入れています。例えばの話ですが、三菱の伝家の宝刀であるPHEV(プラグインハイブリッド)をホンダと日産へ、ホンダ独自のハイブリッド技術であるe:HEV(イーエイチイーブイ)を日産と三菱に供給する可能性も」
つまり、明るい未来を手にするため、助け合い、支え合うという話だ。
気になるのは今後。トヨタ系はエンジンの可能性を捨てていない。一方、ホンダは脱エンジンを明言している。このバッチバチの脱炭素イデオロギー闘争の行方はどうなる?
「確かに全方位戦略とEV原理主義ではイデオロギーが大きく異なります。ただし、EVに限れば全方位を掲げるトヨタ系も粛々とEVの開発を進めている。3社の動きをダシにトヨタ系がEVに後ろ向きというレッテルを貼るのは違うかと。
何より注視すべきはルールを作る欧米の動き。脱炭素カーのレギュレーションがどう転んでも対応できるよう準備するのが重要です」
そのとおりだろう。ただし、国内の自動車メーカー各社には、下請けいじめや認証不正により失った信頼の回復も忘れないようにお願いしたい。