渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
世界的なクルマの売れ筋カテゴリーといえばSUV。上半期の国内市場でもホンダのSUVヴェゼルが爆売れ! その背景にはいったい何が? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する!!
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――今年上半期の新車販売SUV部門で1位に輝いたホンダのヴェゼル(前年同期比94%増)が話題です。そもそもどんなクルマなんですか?
渡辺 ヴェゼルはホンダ自慢のコンパクトSUVです。初代モデルは2013年に発売されました。現行モデルである2代目は21年デビュー。コンパクトなボディサイズながら後席が広く、4人乗車でも非常に快適です。
――なぜ後席が広いの?
渡辺 その秘密はプラットフォームにあります。実はライバル車は燃料タンクが後席にありますが、ヴェゼルは前席の下に設置されています。そのため後席が広いのです。
――売れ行きはどうです?
渡辺 初代モデルから販売はすこぶる好調で、累計販売台数は66万台を軽く突破しています。
――とはいえ、2代目ヴェゼルは登場から約3年が経過しています。なぜ今になって爆売れしているんですか?
渡辺 現行ヴェゼルは21年の発売後、コロナ禍の影響などにより納期が遅れました。特に上級グレードは一部部品を調達できず、受注を停止していました。
その結果、購入希望のユーザーがたまっていたんですが、最近になってその納期遅延がようやく解消された。加えて今年4月にマイナーチェンジが実施された関係で、売れ行きが爆発的に増えたというわけです。
――なるほど。
渡辺 ただ、2代目ヴェゼルは発売時から人気車の素質がありました。もともと2代目は内装の質が非常に高い。ハイブリッドはモーター駆動を中心としたe:HEVに進化したことで、加速は滑らかでノイズも小さい。
――そんな2代目のマイチェンモデルの実力を試すべく、今回、殺人的酷暑の都内で試乗しました。
渡辺 試乗モデルに選んだのは売れ筋のe:HEVのZ。どこが進化したのかジックリとチェックしてきました。
――まず外観ですが、どこが変わったんですか?
渡辺 フロントマスクが変わりました。以前のフロントグリルはボディ同色でメリハリに欠けていましたが、改良後はグリルの最上部を別の色にしました。ちなみに最上部のカラーにはグレードと外装色に応じてブラックとシルバーが用意され、これにより顔立ちが一気に引き締まりました。
――内装の変更点は?
渡辺 インパネ中央の下側にトレーを新設しました。車内の広さは改良前と同じですが、全長を4340㎜に抑えたSUVの中ではとても広く、後席の足元空間は格上のトヨタのハリアーと同レベル。
――試乗した率直な感想は?
渡辺 マイナーチェンジでは防音材が見直され、走りがいっそう静かに。改良後はタイヤが路面を転がるときに発する音も抑えられています。e:HEVのバッテリー制御も改善され、エンジンを始動させず、モーターだけで走る領域を拡大しています。
――加速性能は?
渡辺 e:HEVはモーター駆動ですから、アクセル操作に対して機敏に反応するので、とても運転しやすい。
――即買いのクルマだと?
渡辺 正直言うと、ヴェゼルはコンパクトSUVの中では価格が高いのがネック。ただ、運転のしやすさ、広い室内、上質な内装を実現しているのも事実なので悩ましい。
――ヴェゼルに欠点はない?
渡辺 荷室長は短めになっています。荷物の積みやすさなどを重視するなら、ライバル車のトヨタのカローラクロスを検討しましょう。それからホンダのWR-Vも検討するといいと思います。WR-Vは、ノーマルガソリンエンジンのみの搭載なので、価格が安く内装も質素ですが、後席の座り心地は上質です。
――最後にヴェゼルを検討する際のポイントはどこ?
渡辺 前述のとおりヴェゼルはコンパクトSUVの中では値が張ります。4人乗車に適したコンパクトSUVを検討する場合は、ライバル車となるカローラクロス、WR-V、それからスバルのクロストレックと乗り比べることをオススメします。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員