韓国の集合住宅の地下駐車場で炎上事故を起こしたEVはこんな無残な姿に。ちなみに今回の火災で約40台のクルマが丸焼けとなった 韓国の集合住宅の地下駐車場で炎上事故を起こしたEVはこんな無残な姿に。ちなみに今回の火災で約40台のクルマが丸焼けとなった

酷暑の夏、韓国で起きたEV炎上事故が大きな話題を呼んでいる。そんな中、ひそかに注目を集めているのが「周回遅れ」と揶揄されがちなニッポンEV。

実はその安全性がハンパないという。そこで、ニッポンEVが炎上事故を起こさない秘密に迫ってみた。

■絶対に炎上しない!? 日産のEV

EVが燃えに燃えている!

今月に入り韓国ではEVのバッテリー(電池)から出火した可能性が高い火災が相次いでいる。特に注目を集めているのが今月1日に起こったEVの炎上事故。

具体的には集合住宅の地下駐車場に止められていたメルセデス・ベンツ「EQE350」が出火し、駐車場にあった40台のクルマを焼き尽くした。ちなみにEQE350は中国メーカーのバッテリーを搭載していたという。この火災により韓国では集合住宅の地下駐車場のEV利用を制限し、充電スタンドを閉鎖する動きが出ている。

実はEVのバッテリーを起因とした火災事故は世界各地で続発している。しかし、新車販売のEV比率が1%台の日本ではEVのバッテリー火災に対し、いまひとつピンとこないかもしれない。

ただ、EVの炎上事故はすでに起きている。昨年7月、千葉県にある「アウディ幕張」で屋外の立体駐車場に置かれたEVが自然発火、8台のクルマが焼け、大きな話題となった。

では、EVのバッテリーはどんなメカニズムで燃えるのか? 現在、多くのEVがリチウムイオン電池を搭載している。このリチウムイオン電池は衝撃に弱い。それはなぜか? 図をご覧いただきたい。

リチウムイオン電池の構造は、灯油と同レベルの可燃性の溶剤(電解液)に浸された正極と負極がセパレーターという材料で仕切られている。事故などの強い衝撃を受けると、セパレーターが壊れ、正極と負極が触れてショートしてしまう。ショートすると発熱が始まり、その熱が次の発熱を引き起こす、いわゆる"熱暴走"と呼ばれる現象を引き起こす。

溶剤は可燃性ガスとなるため、着火すると、火炎を噴射したように燃え上がる。しかも、厄介なことに鎮火しても電池内に残ったエネルギーによって、再び発熱して火を噴くことも。つまり、EVの電池が引き金となった火災事故の消火活動は困難を極める。

加えてリチウムイオン電池は温度変化を苦にする特性を持ち、50℃以上になると自然発火の可能性もある。言うまでもなく、EVに搭載されるリチウムイオン電池は、スマホやモバイルバッテリーとはレベチのデカさ。発火すれば周囲を巻き込む大惨事に発展する恐れも。

ただ、不思議なのは海外ブランド車のEV炎上事故は耳にするが、数が少ないからなのか、日本のEVの炎上事故は聞こえてこない。それどころか10年に世界初の量販EVとしてデビューした日産リーフは、"絶対に炎上しないEV"として世界的に有名なのだという。

「リーフは世界初の量販EVということもあり失敗はありえない。"技術の日産"の知見をすべて注ぎ込んでいます」(日産関係者)

約50ヵ国で販売し、世界累計65万台超を誇る日産リーフ。写真は走りにこだわったリーフニスモ。価格は464万2000円 約50ヵ国で販売し、世界累計65万台超を誇る日産リーフ。写真は走りにこだわったリーフニスモ。価格は464万2000円

日本製のEVが爆発しない秘密はどこか? ここからはカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

――なぜ日本のEVは爆発しないの?

渡辺 コストを費やして火災の発生を抑える対策を徹底的に行なっているのが大きい。具体的に言うと、ありとあらゆる単位で発熱チェックをしっかり行ない、常に電池の温度をコントロールしている。

また、バッテリーの形状、電極に使われる素材、さらに万一バッテリー内部で発火が生じてもほかのセルへの延焼を防ぐ工夫など、日本のメーカーは製造の手間やコストがかかっても、とにかく安全を最優先にして開発してきた。

――日本のメーカーが安全対策を入念に行なうワケは?

渡辺 国民性や企業風土もありますが、1960年代から70年代における日本メーカーの欠陥車問題が影響しているかと。当時の欠陥は、ブレーキの故障から燃料漏れまで多岐にわたり、実は火災も含まれていました。

例えば排出ガス規制の対策を施したことで、車両の排気系統が過熱し、駐車場所に生えている草に触れて発火するケースもありました。この手の欠陥事故が続いた影響もあり、69年にリコール制度が誕生し、国内の自動車メーカーの安全意識は飛躍的に向上しました。

余談ですが、今から20年以上前に日系自動車メーカーの取締役から、「先日、原発を見学したが、安全意識とその対策が低すぎる。あんな考え方と対策は自動車メーカーでは絶対に通用しない」という話を聞きました。

その後、東日本大震災が発生し、取締役の懸念が的中してしまった。近年、日本の自動車メーカーの安全意識は非常に高く、さらに言えば石橋を叩いても渡らないほど慎重です。

――日本の自動車メーカーは安全性にこだわってきたと。

渡辺 自動車は欠陥があれば死傷事故に直結します。仮に不良品の発生率が0.01%(1万分の1)でも、月に2万台売れるクルマであれば、同じ車種で毎月2回の死傷事故がメーカーの責任で発生し、倒産の引き金になってしまう。

日本の自動車メーカーは過去の欠陥車問題の経験を踏まえ、安全の大切さと、安全を軽んじたときに訪れる恐ろしい結末を理解している。だから日本のEVは燃えないのです。日本のメーカーが、自動運転やロボットタクシーの実用化などに慎重な理由も同様で、遅れているのではなく、慎重なのです。

――今回の韓国の炎上事故は中国メーカーの電池でした。

渡辺 あくまで想像ですが、中国の自動車産業は2000年以降に急成長を遂げた。日本と違い、欠陥車問題で世間やマスコミから厳しく叩かれた経験も乏しい。まだ安全意識が育っていないのかも。