酷暑もあり、灼熱地獄と化したサーキットを8時間連続走行するという苛酷にも程があるレースで、完全無欠の走りを披露したスズキ 酷暑もあり、灼熱地獄と化したサーキットを8時間連続走行するという苛酷にも程があるレースで、完全無欠の走りを披露したスズキ

鈴鹿8耐に挑んだスズキが話題だ。何がどうスゴかったの? このレースの先には何があるの? スズキのキーマンを直撃したモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が特濃解説する!!

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■運営スタッフを社内で公募

青木 7月19~21日に開かれた鈴鹿8耐(世界最高峰のオートバイレースのひとつ「鈴鹿8時間耐久ロードレース」)は激アツでした! 酷暑もそうですが、社一丸となり挑んだスズキが見事に完走8位シングルフィニッシュ! しかも、サステナブル燃料(仏エルフ製)を使っての好成績なので、レースファンのド肝を抜きました。

――サステナブル燃料?

青木 40%バイオ由来(非化石由来成分含有の合成燃料)で環境に優しい燃料ですね。四輪の国内最高峰となるスーパー耐久でもトヨタ系が実戦投入し、内燃機エンジンの生き残りをかけた挑戦をしていますが、実は二輪の各メーカーも全日本ロードレース選手権JSB1000クラスで昨年から世界に先駆けて100%非化石由来のバイオ燃料(独ハルターマン・カーレス製)を導入しています。

また、FIM(国際モーターサイクリズム連盟)ロードレース世界選手権「MotoGP」でも、今シーズンから40%バイオ由来の燃料が使われ、27年には100%完全非化石由来を目指しています。

――スズキはワークスレースの活動をやめたはずでは?

青木 スズキが最高峰のMotoGPを撤退したのが22年なので、2年ぶりのワークス活動復活となります。ちなみに鈴鹿8耐へのワークスチームとしての参戦は01年以来で、実に23年ぶり!

――なんでまた復活した?

青木 74年から長きにわたって参戦してきた二輪レース最高峰からの徹退の理由をスズキは、「サステナビリティの実現に向け、経営資源の再配分に取り組まねばならない」としていました。

――そんなスズキがサーキットにカムバックしたということは、社を挙げてサステナビリティとカーボンニュートラルに取り組めていると。

青木 さらに言うと、世界のモータースポーツを統括するFIM会長から「サステナブルな燃料で参戦する考えがあるのなら協力する」という話をスズキ首脳陣が聞き、「他社に先駆けて最初にやろう!」と決起したそうです。

――レース活動は脱炭素に反するという流れがありましたが、バイオ由来のサステナブル燃料が台頭してきて潮目が変わってきたようですね。

青木 電動だけでなく、内燃機エンジンの技術を活用できるので、世界のモータースポーツ界でサステナブル燃料の可能性に注目が集まっているのは事実です。

――なるほど。

青木 しかも、今回8耐に挑んだチーム名は「チームスズキCN(カーボンニュートラル)チャレンジ」。燃料だけでなく、タイヤ、オイル、ブレーキなどマシンに備わるパーツ類もサステナブルな素材を用いた部品を使用する徹底ぶりでした。

そして、実験車クラスとなるEXP(エクスペリメンタル)クラスにGSX-R1000R CN仕様でワークス参戦したわけです。

実はGSX-R1000Rは欧州の排ガス規制の関係で、日本を含む多くの地域で販売終了となっています。そんな中で、スズキの青いGSX-R1000Rが8耐に姿を見せたのでファンらは歓喜!

(左)チームスズキ CNチャレンジ プロジェクトリーダー兼チームディレクターの佐原伸一氏 (右)モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏 青木氏の質問に丁寧に答えてくれた今回のレースのキーマン、佐原氏。22年に撤退したスズキのMotoGPチームを率いたキャリアを持つ (左)チームスズキ CNチャレンジ プロジェクトリーダー兼チームディレクターの佐原伸一氏 (右)モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏 青木氏の質問に丁寧に答えてくれた今回のレースのキーマン、佐原氏。22年に撤退したスズキのMotoGPチームを率いたキャリアを持つ

上の写真同様8耐を駆け抜けた実機。外装パーツを外している関係で、各部に溶けて飛び散ったタイヤ片がこびりついているのがわかる 上の写真同様8耐を駆け抜けた実機。外装パーツを外している関係で、各部に溶けて飛び散ったタイヤ片がこびりついているのがわかる

――このプロジェクトを取り仕切ったのは?

青木 スズキの佐原伸一氏です。アオキはレース後に佐原氏を直撃し、レースを走ったマシンも間近でチェック!

――佐原氏とはどんな話を?

青木 実はすでにスズキの社内でレース部門は解散しているので、チームの運営スタッフを社内公募したそうです。佐原氏いわく、「四輪やマリン、生産技術や管理部門などから100人近い応募があり、気がついたら社を挙げた取り組みになっていた」とのこと。

最終的にチームは総勢30人に。MotoGPなどの経験があるスタッフをピットに配置し、ヘルパーなどを社内公募から採用した人たちにやってもらったそうです。

――文字どおりスズキは一丸となって8耐に挑んだと。

青木 佐原氏は「レースは技術開発の場であり、長丁場の耐久レースは人材育成の格好の場所でもあり、培った技術やノウハウを二輪だけじゃなく、四輪やマリンなどスズキが持つすべての製品へフィードバックできます」と語っていました。

――サステナブル燃料とガソリンの大きな違いは?

青木 燃費です。佐原氏いわく、「燃費感覚としては半周くらいの差があり、通常なら27周でピットインするところ、26周以下で給油しなければなりません」とのこと。鈴鹿サーキットを1周すると5.8㎞ですから、その半分は2.9㎞ほど。わずかな差のようにも感じますが、レースでは非常にシビアな問題になる。

ただ、全日本ロードレースJSB1000では、100%非化石由来のバイオ燃料を使っていますが、エンジンオイルに燃料が希釈しやすく、「交換サイクルが早い」といった声を耳にします。

その点(希釈性について)、今回どうだったのか佐原氏にネチネチ聞くと、「8時間のレースでオイル交換は必要なかった」とのこと。濃度の違い、あるいはメーカーによる違いがあるのかはわかりませんが、CN燃料の可能性がまた証明されたので、今後ますます期待できます!

――佐原氏は8耐をどう総括されていました?

青木 佐原氏は「これでプロジェクトが終わったわけではなく、データを取ってサステナブルアイテムの検証をして次の目標へ」と前を向いていました。

ちなみに今回のレースでチェッカーフラッグが振られると、ピットに鈴木俊宏社長が姿を見せるあたりは、さすが熱きスズキ軍団! 鈴木社長は「やっとスタートできた。これからが大事だよ」と佐原氏に伝えたそうです。

実は昨年の株主総会で鈴木社長は、「レースに復活するのなら、しっかりと腹を据えてやることが重要」とも語っています。ズバリ、スズキのMotoGP復帰はありえるとアオキはみました!

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