「ニューウェイ氏が設計し、ホンダのパワーユニットが搭載されたマシンでアロンソが元気に走る姿を早く見たい!」と話す堂本光一 「ニューウェイ氏が設計し、ホンダのパワーユニットが搭載されたマシンでアロンソが元気に走る姿を早く見たい!」と話す堂本光一

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE15

後半戦の幕開けとなった第15戦オランダGPではマクラーレンのランド・ノリスが圧勝し、続くイタリアGPでは地元フェラーリのシャルル・ルクレールが勝利を飾った。前半戦で圧倒的な強さを誇ったレッドブルとマックス・フェルスタッペンは苦戦が続いており、チャンピオン争いは混沌としてきた。

今週末にはバクーの市街地サーキットで第17戦のアゼルバイジャンGP(決勝9月15日)が開催されるが、結果次第ではレッドブルがコンストラクターズランキング首位の座をマクラーレンに明け渡すことになる。果たして、タイトル争いの主導権を握るのはどのチームとドライバーになるのか!?

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■後半戦に入って競争力を取り戻したフェラーリ

シャルル・ルクレール選手が第15戦のイタリアGPを制し、モンツァ・サーキットに詰めかけたフェラーリファンを熱狂の渦に包み込みました。後半戦に入ってからのフェラーリは、予選での一発の速さはマクラーレンに遅れをとっていますが、決勝では強さを発揮しています。タイヤに優しいというアドバンテージを生かして幅広い戦略を採れることが好結果につながっているように見えます。

今回のイタリアGPを前にモンツァ・サーキットは路面が再舗装され、決勝ではタイヤにどれぐらい負荷がかかるのか、誰も予想できない部分がありました。そんな中、トップチームのマクラーレン、メルセデス、レッドブルはツーストップを選択しますが、フェラーリだけはワンストップ作戦を敢行。ルクレール選手がタイヤをうまくマネジメントして53周のレースを走り切り、トップでゴールに飛び込みました。

後半戦に入り、マシンの競争力を上げてきたフェラーリ。ルクレールがイタリアGPを制し、コンストラクターズ選手権はレッドブル、マクラーレン、フェラーリの三つ巴の争いになってきた 後半戦に入り、マシンの競争力を上げてきたフェラーリ。ルクレールがイタリアGPを制し、コンストラクターズ選手権はレッドブル、マクラーレン、フェラーリの三つ巴の争いになってきた

ルクレール選手は第7戦のモナコGP以来の今季2勝目を挙げ、カルロス・サインツ選手も4位に入り、フェラーリは地元イタリアで大量ポイントを獲得。コンストラクターズ選手権でトップのレッドブルに39点差、2位のマクラーレンには31点差まで迫ってきました。

イタリアでの勝利はフェラーリとルクレール 選手にとっては大きな自信とモチベーションの向上につながったと思います。これからのレースが非常に楽しみになってきましたが、マシンの性能だけでいえば、マクラーレンが現時点で最強です。

■最強マシンを手にするマクラーレンに足りないもの

マクラーレンは第15戦のオランダGPではランド・ノリス選手がポール・トゥ・ウインで圧勝し、続くイタリアGPでも予選でノリス選手がポールポジションを獲得。2番手にはチームメイトのオスカー・ピアストリ選手が入り、フロントローを独占します。

モンツァでもマクラーレンは最速のマシンでしたが、ちぐはぐな戦い方が目につきました。スタート直後から2台のマクラーレンは激しいポジション争いを繰り広げ、その隙をルクレール選手に突かれ、ノリス選手は3番手まで順位を落としてしまいます。

戦略に関して、トップを走るチームは後方のチームの動きに合わせて戦うのがセオリーですが、マクラーレンは後方のチームより先にピットに入り、自分たちの手の内をさらけ出してしまうことが多い。イタリアGPもまさにそういう展開になりましたが、今、誰と争うべきなのかというのがボヤけてしまっているように感じることがあります。

モンツァで発動された「パパイヤ・ルール」も然りです。マクラーレンはイタリアGPのレース中、無線でドライバーに対してチームメイトと自由に戦ってもいいという「パパイヤ・ルール」の指示を出していました。ふたりでバトルした結果、タイヤを使ってしまいツーストップ作戦を余儀なくされ、結果的にフェラーリに逆転の隙を与えてしまいました。

最終的にピアストリ選手が2位、ノリス選手が3位でそれぞれフィニッシュしますが、チャンピオン争いでフェルスタッペン選手を追いかけるノリス選手を前でゴールさせることはしませんでした。

イタリアGP終了時点でドライバーズランキング2位のノリス選手は、首位のフェルスタッペン選手とのポイント差は62まで迫っています。対してドライバーズランキング4位のピアストリ選手はフェルスタッペン選手と100点以上の大差がついており、残り8戦で逆転王座につくことはほぼ不可能です。

マクラーレンがドライバーズタイトルに挑むのであれば、ノリス選手を優先させることが絶対に必要だと思います。第13戦ハンガリーGPでレース終盤に首位を走っていたノリス選手がピアストリ選手にチームオーダーでポジションを譲ったシーンがありましたが、ここ数戦チームメイト同士で取り合ったポイントが最終的に響いてくるかもしれません。

■フェルスタッペンは「会計士」になる必要がある!?

モンツァでのレッドブルは優勝争いどころか、表彰台争いにもからむことができませんでした。フェルスタッペン選手は6位、苦戦が続くセルジオ・ペレス選手も8位に入賞するのが精一杯という状況で、昨年から今シーズンの序盤までライバルを圧倒していたレッドブルですが、その強さは完全に影に潜めてしまいました。ドライバーのコメントを聞いていると、マシンの挙動がピーキーでドライビングにすごく苦労していることがうかがえます。

レッドブルがここまで開発がうまくいっていない理由は、チーム内の"お家騒動"の影響が当然あると思います。クリスチャン・ホーナー代表とモータースポーツアドバイザーのヘルムート・マルコ氏との権力闘争に嫌気を差し、数多くのスタッフがチームを離れています。

チーム内に火種を抱えた中、フェルスタッペン選手はどのようにしてタイトルを防衛していくのか。彼は今後、自分とライバルとのポイントを計算しながら「会計士」になって戦う必要があると言われていますが、進化するスピードが速いF1の世界では、守りに入ったチーム、ドライバーは落ちていくだけです。それはF1の歴史が物語っています。

勝つためには攻め続けるしかないと思いますが、3連覇中のチャンピオンですら手を焼くマシンでどうやって攻めるのか......。レッドブルとフェルスタッペン選手がタイトルを防衛するのは、相当厳しい状況だと思います

■シミュレーションと実走のズレに苦しむVCARB

レッドブルと同様に角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手の所属するビザ・キャッシュアップRB(VCARB)も後半戦に入り、パっとしなくなってしまいました。夏休み明けのオランダとイタリアの2連戦は連続でノーポイントに終わります。

VCARBはモンツァで角田選手のマシンにアップデートを投入しましたが、ドライバーが満足できるレベルになっていないようです。実際、予選では旧仕様のパッケージで走っていたチームメイトのダニエル・リカルドのほうが速いタイムを出していました。

VCARBは第10戦のスペインGPで大型アップデートを持ち込みましたが、そのときもうまく機能せず、「旧仕様のパッケージの方が良かったのでは?」と思われるレースがありました。VCARBは、風洞と実際にサーキットを走らせてみた際のデータがズレており、開発がうまくいっていないのかもしれません。

中団グループのライバル、ウイリアムズやハースは速くなってきていますので、VCARBにはアップデートが機能しない原因を早急に究明し、開発を立て直してほしい。

最後にレッドブル退団が決まり、その動向に注目が集まっていたデザイナーのエイドアン・ニューウェイ氏が、2026年からホンダと組むアストンマーティンに移籍することが正式発表されました。これまでウイリアムズ、マクラーレン、レッドブルなどに在籍し、チームに数々の勝利とタイトルをもたらしてきたニューウェイ氏ですが、アストンマーティンに加入して、すぐに何かが劇的に変わるわけではないと思います。

ニューウェイ(写真左)とアストンマーティンのオーナー、ローレンス・ストロール(同右)。ニューウェイはチームの株式を取得し、2025年3月1日よりマネージング・テクニカルパートナーとしてアストンマーティンで働き始める ニューウェイ(写真左)とアストンマーティンのオーナー、ローレンス・ストロール(同右)。ニューウェイはチームの株式を取得し、2025年3月1日よりマネージング・テクニカルパートナーとしてアストンマーティンで働き始める

今シーズンのアストンマーティンは昨年のような速さはなく、フェルナンド・アロンソ選手は苦しんでいます。でもニューウェイ氏が手がけたマシンがコースを走るようになれば、勢力図は大きく変わってくるかもしれません。アロンソ選手は現在43歳ですが、まだまだ一流のドライビングを見せてくれる選手です。「空力の鬼才」と呼ばれるニューウェイ氏が設計し、ホンダのパワーユニットが搭載されたマシンで元気に走るアロンソの姿を早く見たいです!

☆取材こぼれ話☆

自身が作・構成・演出・主演を務めるミュージカル「Endless SHOCK」。5年振りとなる大阪・梅田芸術劇場メインホールでの公演を8月18日に終え、9月1日からは福岡・博多座での公演がスタートした(博多座での上演は9月29日まで)。

「博多公演が始まりましたが、声を潰してしまいました。公演に来ていただいた皆さんには本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも、声を出しづらい音域は把握していますので、発声法を変えたりしながら舞台に立ち続けています。その中で、声の響きに新たな発見もあり、今後につながる試練と捉えています」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)

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堂本光一

堂本光一Koichi DOMOTO

1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟氏がデビューした87年頃からF1のファンに。2023年12月にKinKi Kids17枚目のアルバム「P album」、47枚目のシングル「シュレーディンガー」をリリース。主演ミュージカル『Endless SHOCK』の最終公演が、11月に東京・帝国劇場にて上演予定。
公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】

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