今年上半期の軽新車販売でトップに立った絶好調のスズキ。実はインドで「牛糞」と格闘しているという。いったいどういうこと!?
■牛糞由来のバイオガスでクルマが走る
今、牛糞がクソ熱い。
スズキがインドで進めている脱炭素プロジェクトの話である。昨年10月に開催されたJMS(ジャパンモビリティショー)の会見でスズキの鈴木俊宏社長はこう述べている。
「インドには牛が約3億頭いると言われています。牛10頭の1日の牛糞がクルマ1台の1日分の燃料になるのです」
ザックリ言うと、スズキがインド市場向けに販売している圧縮CBG(バイオメタンガス)車の燃料が、牛の糞から精製されたメタンガスなのだ。要は、牛の糞をエネルギー源にしてクルマが走るわけだ。
ちなみに、インドにいる約3億頭の牛から排出される牛糞を全部クルマの燃料に回した場合、1日に3200万台(!)ものCBG車を動かすことが可能だというから驚く。
ただ、気になるのはスズキが牛糞に狙いをつけた理由だ。実は牧草を食べる牛の糞尿からはメタンガスが発生する。牛の糞尿に含まれるメタンガスには、二酸化炭素の約28倍の温室効果があるとされている。しかも、牛のゲップやオナラにもメタンガスが含まれているから厄介だ。
このメタンガスの大気放出をブロックするため、糞を発酵させ、メタンガスを取り出して精製するというわけだ。ガスを取り出したあとの牛糞は有機肥料として生産や販売が可能なので、まさに一石二鳥である。
加えて、スズキはインドの農家から牛糞を買い取って回収している。これによりインドの農家の所得向上や、農業の活性化にもつながる。つまり、スズキはインドでクルマを売るだけではなく、環境問題や持続可能な循環型社会の実現に挑戦しているのだ。
■残飯由来のバイオガス
気になるのは牛糞の次である。スズキはどんな脱炭素戦略の一手を考えているのか? 今年7月の技術説明会で鈴木社長はこう訴えた。
「牛だけでなく、豚や鳥の糞もある。食品の食べ残しも考えられる」
実は今年6月に、スズキはインドでバイオガスの生産プラントを稼働させた。工場から排出される二酸化炭素の削減が目的で、食堂から出た残飯などを原料にし、バイオガスを生産しているのだ。ちなみに、ここで生産したバイオガスは工場内の食堂での調理やクルマの生産時に使用するという。
これまでEV推しメディアやゴッリゴリのEV原理主義者は、《世界中の人たちが地球環境に優しいEVに乗り換えている》《EVを買わない日本人は環境意識が低い》《EVに乗れば環境問題はゼンブ解決する!》などと鬼の首を取ったように大騒ぎしてきた。しかしだ。今回紹介した牛糞由来のバイオガスを例に出すまでもなく、国や地域によって環境問題の課題は大きく異なる。当たり前の話だが、脱炭素カーはEVのみではないのだ。
いずれにせよ、今後も地に足のついたスズキの脱炭素戦略の動きに注目していきたい。