新車販売でトップ争いを繰り広げるホンダとスズキ。9月20日にスズキがスペーシアギアを発売すると、ホンダは9月27日にN-BOXジョイを発売。まさに仁義なき戦いである。というわけで、ホンダとスズキの開発陣に話を聞いてきた!!
■ホンダとスズキが新車販売で首位争い
自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が、9月5日に8月の新車販売ランキングを発表した。それによると、総合トップに輝いたのはホンダのN-BOXで、2位はスズキのスペーシアであった。
これでN-BOXは3ヵ月連続で総合1位。ただ、スペーシアに3000台近い差はつけているが、ランキングをご覧いただければわかるとおり前年割れだ。
昨年10月、N-BOXは3代目へ進化した。初代のデビューは2011年12月。現在、シリーズ累計販売台数は250万台超で、新車販売の年間総合ランキングで3年連続、軽部門では9年連続トップを突っ走る"シン・国民車"だ。
しかし、国内販売で無双を続けてきた怪物カーに異変が! 実は昨年11月に6年ぶりのフルチェンを受けたスペーシアの爆売れがどうにも止まらない。事実、今年5月の新車販売の総合ランキングで王者N-BOXを蹴散らし、スペーシアがトップに立った。
ちなみにスズキが新車販売総合トップに立つのは2014年12月のワゴンR以来、実に9年5ヵ月ぶりの快挙。しかし、翌月にはN-BOXが首位を奪回し、8月までトップを守っている。
要するに今、ニッポンの新車販売でN-BOXとスペーシアがバッチバチの首位争いを繰り広げているのだ。そんな中、スズキが2代目スペーシアギア、ホンダがN-BOXジョイを相次いで市場に投入! 大人気の軽スーパーハイトワゴンSUVの新型ということで、ファンらの注目を集めている。
しかし、写真を見ると一目瞭然だが、同じ軽スーパーハイトワゴンSUVというカテゴリーのクルマではあるが、その見た目はかなり違う。いったいどんな狙いがあるのか? ホンダとスズキの開発陣を直撃してみた!
■N-BOXジョイのターゲット
N-BOXジョイの取材会場となったのは、埼玉県ときがわ町にある宿泊施設「COMORIVER(コモリバ)」。現地に足を踏み入れ、目に飛び込んできたのは"ゆるふわ感"が漂う、脱力系SUVのN-BOXジョイだった。開発責任者の諌山(いさやま)博之氏はこう言う。
「N-BOXブランドに加えるクルマが他社のようなゴリゴリのSUVでいいのか? 別の方向性はあるのか? そこに関しては議論に時間をかけました」
実は3代目N-BOXの開発時にN-BOX、N-BOXカスタム、N-BOXジョイの3台をワンセットで考えていたという。N-BOXジョイ投入の理由を聞いてみた。
「冗談抜きにジョイが呼び水となり、ホンダの販売店に足を運ぶお客さまが増えたらうれしいです」
今年上半期の新車販売で、N-BOXは10万680台をマークして圧勝した。ちなみに2位のトヨタのカローラは8万5201台で、3位のスペーシアは8万4368台だ。つまり、N-BOXジョイを投入し、"ライバル根絶やし大作戦"を展開するつもり!?
「いやいやいや、根絶やしって(苦笑)。まぁ、真面目な話をすると、開発時にN-BOXの保有台数は視野に入っていました」
実は"絶対王者"としてニッポン市場に君臨するN-BOXの保有台数は256万台というから驚いた。
「ありがたいことにN-BOXを乗り継いでくださる方が非常に多いので、選択肢を増やしたかったんです」
3代目N-BOXは発売から1年がたつ。もちろん、販売のテコ入れの面もあるだろう。マーケティング担当の川嶋健太氏はこう話す。
「現在、3代目N-BOXの販売はカスタムが6割、標準車が4割という内訳です。カスタムが売れている背景にはターボが挙げられます。実は標準車は自然吸気モデルのみなんです。ちなみに今回投入したジョイには自然吸気とターボをご用意しました。
N-BOXを乗り継ぐ方に対して、これまでなかったアウトドア系のジョイはいいご提案になるとも思っています」
N-BOXジョイが目指したのは、公園や河川敷などでの気軽なアウトドアレジャー。その象徴がチェック柄の室内だ。インテリアとCMF(色・素材・仕上げ)デザインを担当した松村美月氏に話を聞いた。
「ずっとN-BOXの広い室内空間を有効活用したいと考えていたんです。そこで、会社のお昼休みにコンビニでサンドイッチやコーヒーを買ってN-BOXに乗って公園や河川敷に開発陣で出かけてみたんです。でも、後部座席を倒して足を伸ばしたら、室内が黒いので暗い気持ちになってしまう(笑)」
試しに松村氏はチェック柄の布を室内に敷いた。すると、見事にフィットし、明るく楽しい気持ちになったという。
「細く細かい線にするとフェミニンに見え、逆に太い線にすると無骨で男性的な印象になる。年代やジェンダーを感じさせる柄にしたくなかったので、チェック柄にしたんです。しかも、Nシリーズ初の撥水表皮なんですよ!」
■初代から受け継ぐ"無骨かわいい"
スズキがぶっ放したのは2代目スペーシアギア。約6年ぶりのフルチェンとなる、スペーシアをベースにしたSUVモデルだ。コンセプトは軽自動車の1日の平均移動距離から取ったという"10マイルアドベンチャー"。
外観はジムニーやハスラーなどSUVモデルと同じ丸目のヘッドランプがブチ込まれ、フロントグリルにはワイルドにも程があるメッキブロックがバーン! 要するに先代からの"無骨かわいい"路線を踏襲しているわけだ。開発責任者を務めた鈴木猛介(たけゆき)氏はこう言う。
「デザインのテーマは、"無骨かわいいをもっと無骨かわいくする"。全体的に先代の底上げを目指しました」
実は週プレ、何度も鈴木氏を取材しているのだが、スペーシアの鬼売れもあってか、今回は過去最高の自信満々フェースであった。そこで、今年5月の新車販売総合ランキングでスペーシアが1位に立った理由を聞いてみた。
「価格と装備がようやく適正になったんだと思います」
そんなスペーシアにギアが加わったわけだ。月販2万台を狙っても不思議ではない。
「いやいやいや(笑)、スペーシアの販売は好調ですが、工場はフル稼働が続いているので......。スズキはトヨタさんやホンダさんのような規模の会社ではありません」
■軽スーパーハイトSUVの本命はどっち!?
N-BOXジョイとスペーシアギアを取材したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏はこう語る。
「N-BOXジョイはフロントマスクやボディサイドのデザインが地味すぎる。販売面では明らかに不利です。また、シート生地はチェック柄のみ。確かに万人向けの柄ではありますが、モノトーンが好きな人にとってはうっとうしく感じる可能性も。
また、N-BOXジョイは価格も割高です。この価格設定はN-BOXカスタムとほぼ同額ですが、N-BOXジョイにはカスタムが装着するエアロパーツやアルミホイールは備わらない。つまり、N-BOXジョイの売れ行きはチェック柄の内装にかかっている!」
スペーシアギアはどうか。
「外観はSUV風の典型で、N-BOXジョイに比べると存在感が強い。またスペーシアは後席の快適性や実用性を高めるマルチユースフラップや豊富な収納設備などもある。ただし、スペーシアギアは先代型と比較すると車両の性格やデザインに大きな変化はありません」
軽スーパーハイトワゴンSUVを購入する際の注意点も聞いた。
「標準ボディやカスタムとSUVモデルの装備と価格の差を確認すること。また、軽スーパーハイトワゴンSUVはボディが重いのでターボも検討したほうがいいでしょう」
激熱バトルを制するのはどちらか? 今後も注目だ!