改正道路交通法が施行されて1年。16歳以上であれば免許がなくても公道走行が可能となった電動キックボードだが、案の定、問題が噴出しているという。その中身は何か? 専門家に話を聞いた。
■電動キックボードは転倒事故を起こす乗り物
昨年7月に改正道路交通法が施行され、最高時速20キロ以下など一定の基準を満たした電動キックボード(特定小型原動機付自転車)は、16歳以上なら運転免許がなくても公道走行が可能になった。
走行できるのは基本的に車道の左側や自転車専用レーンだが、最高時速6キロ以下で緑色のランプを点滅させるなどすれば、自転車通行可の歩道や路側帯も可能とされている。
ヘルメットの着用は罰則のない努力義務で、要はチャリ(自転車)と同様の扱いだ。それもあってか警察庁の調査によると、電動キックボード利用者の9割超がヘルメットを着用していないことが明らかになっている。
加えて、警察庁のまとめによれば、電動キックボード利用者の交通違反は1年間で2万5000件超! あろうことか酒を飲んで運転するなど非常に悪質な違反も相次いでいる。言うまでもないが、電動キックボードの酒酔い運転も酒気帯び運転も罰則の対象だ。
実際に東京都内の繁華街(新宿、渋谷など)を中心に電動キックボードの取材を行なってみたのだが、ハッキリ言ってムチャクチャだった。
電動キックボードのふたり乗りは当たり前。信号無視や逆走だけでなくクルマの前を蛇行したり、スマホをイジりながら走るなどやりたい放題! 緑色のランプを点滅させることなく、歩道を爆走する不届き者も。
電動キックボードを所有する自動車評論家の国沢光宏氏はこう指摘する。
「そもそも電動キックボードは操縦安定性が極めて低い特性を持つ乗り物です。さらに言うと、自転車ほどの安定性や運動性能がなく、小さいミスで転倒することは普通にあります。
クルマのドライバーは、"電動キックボードは転倒事故を起こす乗り物"と頭に入れておくべきです。そして、トラブル回避のため、ドラレコの装着を推奨します。ただ問題は、海外からの観光客が電動キックボードを利用し、クルマと接触して傷をつけた場合です。現状だと帰国されたらおしまいです」
また、WRC(世界ラリー選手権)の取材などで世界中を飛び回るカメラマンの山本佳吾氏は、海外の電動キックボード事情をこう語る。
「3、4年前は欧州に行くと、電動キックボードがけっこう街中を走っていたんですけど、ヘルメットを装着した人は見たことがない(笑)。
ふたり乗りや乱暴な運転の人も多く、僕の目の前で段差に前輪が引っかかり前転状態で転倒した電動キックボードの利用者も。やっぱりタイヤが小さいので段差を乗り越えるのが大変です。ただ、最近は欧州に行っても電動キックボードはあまり見かけません」
すでに海外では電動キックボードの規制強化が進んでおり、フランスのパリ市、オーストラリアのメルボルン市では、レンタルの電動キックボードの禁止を決定している。一方の日本は今頃になって普及に前のめりなのだ。
JAF(日本自動車連盟)が行なった電動キックボードの衝突実験によると、ダミー人形を乗せた電動キックボードを時速20キロで牽引し、静止状態のクルマに衝突させたとき、ヘルメット非着用の場合、衝突後、ドライバーは前方に倒れ、クルマのフロントガラスに頭部をぶつけ、その後、お尻を地面に打ちつけてから、頭部を地面にガーン!
言うまでもなく、ヘルメットをつけていなかったため、頭蓋骨骨折や脳損傷など死亡リスクの高い結果となっていた。JAFは電動キックボードを利用する際には、頭部を保護するヘルメットを装着するよう訴えている。
■電動キックボードとの事故はクルマが不利!?
実は電動キックボードと事故を起こした場合、クルマのほうが不利になるという噂が出回っているがどうなのか? そこで、弁護士法人ユア・エースの正木絢生(まさき・けんしょう)代表弁護士に話を聞いてみた。
「歩道で人とクルマがぶつかればクルマの過失が100になるように、事故の状況と関与者によって、ある程度過失割合の相場は決まっています。事故の態様にもよりますが、だいたい四輪車、単車、自転車、歩行者の順で事故への責任が軽くなっていく。つまり、四輪車が最も不利で歩行者が最も有利です」
電動キックボードには特定小型原動機付自転車(最高時速20キロ以下)と、特例特定小型原動機付自転車(最高時速6キロ以下)の2種類があり、いずれも原動機付自転車に分類されている。
「これらを前述の4種類(四輪車、単車、自転車、歩行者)で考えると、電動キックボードは単車に該当します。さらに、原動機付自転車の最高時速が30キロであること、自転車の時速が15キロ程度であると想定されていることも併せて考えると、自転車や歩行者に近い過失割合となる可能性も十分にあります。
なお、最高時速が20キロを超える場合は一般原動機付自転車になり、明確に単車となります。
いずれにせよクルマに乗って電動キックボードと事故を起こすと、クルマのほうが不利になります。
例えば、交差点でどちらも赤信号のときに四輪車と単車が出合い頭の事故を起こした場合、四輪車の過失は6割、単車の過失割合は4割。電動キックボードでもこれに近い過失割合になるでしょう」
仮に電動キックボードの運転者が酒気帯び状態で信号無視をしてクルマと接触したらどうなるのか?
「過失割合において、飲酒は2段階に区別されています。酒気帯び運転と酒酔い運転で、酒気帯びだと著しい過失に、酒酔いだと重過失に当たり、どちらも過失割合で不利に扱われ、特に重過失のほうが不利となります。酒気帯びと酒酔いは、呼気中のアルコール量等で区別されており、要するに酔っている程度の問題です。
前述の双方赤信号の交差点の例で見ると、著しい過失なら1割、重過失なら2割、事故の責任が増えます。事故の態様によって、この修正割合も変わってくるため注意が必要なのですが、どちらも信号無視して事故を起こしたとき、電動キックボードが酒気帯びならばようやく50:50になる可能性が高い」
電動キックボードが信号無視したら?
「交差点での出合い頭の事故、四輪車が青信号で電動キックボードが赤信号の場合の過失割合の相場は、電動キックボードを単車と考えるなら四輪車0で、電動キックボードが100の割合です。
信号無視はそれだけで責任の程度が跳ね上がります。ただし、仮に電動キックボードを自転車と考えるなら、四輪車が20、電動キックボードが80になります。クルマが有利とはいえますが、2割も過失を認められてしまいます」
なお、今回の過失割合は、交通事故を極めて単純化した場合の数字なのであしからず。
■電動キックボードよりヤバいモペット
このように電動キックボードは非常に厄介な存在だ。前出の国沢光宏氏はこう言う。
「電動キックボードの普及は国会議員のゴリ押しと耳にしています。しかし、警察も黙っていません。悪質な電動キックボードの検挙に本腰を入れ始めている。無法状態は徐々に収束していくのではないでしょうか」
今回の取材で多くの専門家が「電動キックボードよりヤバい」と口をそろえていたのが、モペット(ペダル付きの原動機付自転車)。区分的には一般原付と一緒なので、運転するためには免許やナンバー登録が必須だが、ネットで手軽に安価で買えることもあり、無免許運転やナンバープレート未装着が横行!
しかも、猛スピードで歩道をオラオラ運転する輩も。酒席が増える年末年始に、酒を飲んだ連中が電動キックボードやモペットで公道を暴走したら大迷惑だ。国は今すぐどうにかせい!
●正木絢生(まさき・けんしょう) 弁護士
弁護士法人ユア・エース代表。第二東京弁護士会所属。交通事故や借金・離婚・労働問題・相続・消費者トラブルなど民事事件から刑事事件まで幅広く手掛ける。
BAYFM『ゆっきーのCan Can do it!』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などメディア出演も多数。YouTubeやTikTokの「マサッキー弁護士チャンネル」にて、法律やお金のことをわかりやすく解説、配信中。
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