渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
日本市場で根強い人気なのが、仕事に遊びにガシガシ使える軽商用車。そこにホンダが新型EVを投入! その出来栄えは!? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底チェックした。
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渡辺 10月10日に発売されたホンダの軽商用EV、N-VAN e:に公道試乗してきました! 日本市場の新車販売総合ランキングで3年連続、軽では9年連続トップを独走するホンダ自慢のドル箱カー、N-BOXをベースに開発されたのが軽商用車のN-VANで、そのEV版が今回の試乗車になります。
――ぶっちゃけ、N-VANのエンジンと燃料タンクをモーターと駆動用電池に置き換えたクルマなんですか?
渡辺 開発は試行錯誤の連続だったようです。N-VAN e:の開発責任者である坂元隆樹氏は「開発では、パッケージング(メカニズムの配置まで含めた広義のデザイン)が一番大変でした」と語っていました。
――実車を目にした印象は?
渡辺 助手席や後席を格納したときの広くて平らな車内に驚かされました。
――道具としてガシガシ使いたいクルマです。
渡辺 はい。N-VAN e:はAC100V/1500Wの電力供給も可能です。電子レンジなども使えるのでソロキャンプも余裕でこなせます。シッカリ充電しておけば災害時にも役立ちますよ。
――運転感覚はどうでした?
渡辺 EVなのでエンジンノイズはなく、静かに、滑らかに加速します。ガソリンエンジンのN-VANはもちろん、N-BOXのターボエンジン搭載車よりもパワフルでした。
――走行安定性などは?
渡辺 N-VAN e:は重い駆動用リチウムイオン電池を床下に搭載している関係で重心が低い。加えて、側面衝突時に電池を保護するため、ボディ底面の強度も高めています。こういったEVの造り込みが、実は走行安定性にも優れた影響を与えています。
――なるほど。
渡辺 全幅が狭く天井の高いボディで走行安定性を確保するため、峠道などではカーブを曲がりにくく感じますが、後輪の接地性は高い。曲がるときにはボディが相応の角度に傾くものの、挙動変化が穏やかで唐突に左右に振られることはありません。
――乗り心地は?
渡辺 これが意外なほど快適なんです。低速で舗装の荒れた街中を走ると、上下の揺れが生じますが、段差の通過でも不快な突き上げ感はない。乗り心地を重視したN-BOXよりも快適なほどです。
――欠点を挙げると?
渡辺 運転席以外のシートは、小さく畳むことを重視したため座り心地が悪い。また、助手席にリクライニング機能はナシ。さらに商用車の規格に収めるには、後席よりも荷室面積を広くする必要があります。そのため後席の足元空間は極端に狭い。
一応、4人乗車が可能なクルマですが、後席はヘッドレストもつかない補助席です。基本的にはひとり乗りです。
――個人が購入すべきクルマではない?
渡辺 そんなことはありません。今回試乗したグレードは、スッキリとシンプルな車内が魅力のL4ですが、内外装を乗用車風にアレンジしてスマートキーなどを使えるFUNタイプも用意されています。開発者も「FUNはレジャーで使ったり、仕事と兼用するお客さまを対象にしている」と述べていましたし、販売店からも、「個人使用のお客さまもいます」という声が。
――SNSなどにはN-BOXのEV版を期待する声もありますが、その可能性は?
渡辺 ホンダ関係者からN-ONEにEV版を投入すると聞いています。発売は来年の早い時期が予想されます。
――つまり、N-BOXにEVを搭載するのは技術的には可能なんですね。
渡辺 ただし、N-BOXはホンダの〝至宝〟。傷物にはできませんから、ジックリと日本市場の動向を見極めた上で投入を判断するでしょう。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員