渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
ホンダ入魂の、水素で走るSUVが登場。最新技術ギガ盛りの脱炭素カーは何がどうスゴい? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が試乗だけでなく開発陣も取材した。
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渡辺 今回はホンダの6代目CR-V e:FCEVに試乗してきました。ちなみにCR-Vはホンダ伝統のSUVで、初代は1995年に登場し、一世を風靡。国内では2年ぶりの復活となります。
――6代目はどんなクルマ?
渡辺 簡単に言うと、充電できる水素燃料電池車。文字どおり二刀流の脱炭素カーです。
開発責任者の生駒浩一氏を直撃すると、欧州にはCR-Vのプラグインハイブリッドがあり、その充電機能と17.7kWhの駆動用リチウムイオン電池を燃料電池に組み合わせたそうです。これにより水素の充塡以外に、充電での走行も可能になりました。
――ホンダはいつから水素カーの開発を始めたんですか?
渡辺 実は古くから開発に取り組んできました。まず98年に最初の試作車が完成し、02年に世界初のFCX、08年にはFCXクラリティを投入しています。
――へぇー!
渡辺 ちなみにFCXは少しだけ運転しました。走りのバランスは悪かったんですが、当時はエンジンのない、モーターのみで走るクルマに乗るのが初体験だったので、その静かさと滑らかさに舌を巻いた記憶が残っています。
――今回、ホンダが電気と水素の二刀流カーを投入した理由というのは?
渡辺 開発責任者の生駒氏いわく、日本では水素ステーションのインフラが整っていないため、充電できるプラグイン機能を加えたそうです。
――全国に水素ステーションはどれぐらいあるんですか?
渡辺 現状、全国160ヵ所弱にとどまっています。約2万7400ヵ所のガソリンスタンドと比べてしまうと、心もとないのが実情です。
――ふうむ。
渡辺 しかも、水素ステーションは営業時間が短いなどのリスクも。そういう意味では、仮に水素を使い果たしても充電走行できる安心感は大きいと思います。
――普及の課題は水素ステーションの数であると。ちなみに航続距離はどれぐらい?
渡辺 WLTCモードで、フル充電で約61㎞。水素のフル充塡は約621㎞。両方の数字を合わせれば700㎞近く走行できることになります。
――ガソリン車並み! 試乗した印象はいかがです?
渡辺 運転感覚はEVと同じです。加速は静かで滑らか。一部のEVと違って過剰な動力性能を追求していないところも好感が持てました。低い位置に駆動用リチウムイオン電池を搭載するので、低重心で走行安定性にも優れている。乗り心地も満足できます。内装は5代目CR-Vより上質で後席も広く快適でした。
――欠点はどこ?
渡辺 静粛性が非常に高いクルマなので、タイヤが路上を転がる音が若干耳障りです。
――ほかに気になった点は?
渡辺 スポーツモードを選ぶとアクセル操作に対する反応が機敏になり、スピーカーからは独特のサウンドが聞こえてきます。このサウンドは好みが分かれるところ。
――気になるお値段は?
渡辺 809万4900円です。
――高っ! ホンダの国内の新車だと最高額ですよね?
渡辺 はい。国や自治体から補助金も出ます。が、現状では5年間のリース専用車なので買い取りはできません(泣)。
――リース料金は?
渡辺 複数の販売店によると、リース料金は税金、自賠責保険料、車検費用などを含めて月々17万円前後とのこと。この金額を支払って5年後に返却するわけです。
――国内の年間販売台数の目標は?
渡辺 70台です。
――少なっ! 充電と充塡ができる最新技術マシマシの究極の脱炭素カーなのに!
渡辺 現状では水素ステーションも少なく、妥当かと。
――ちなみに納期は?
渡辺 基本的には未定ですが、複数の販売会社に取材したところ即納車できる在庫車を持っている店舗もありました。ただ、当たり前の話ですが、近所に水素ステーションがないとつらいクルマです。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員