今回は一般道を中心にチェック。ハンドルを握る山本氏は、昨年BYDの中国本社を取材。日本上陸前のシールも試乗した 今回は一般道を中心にチェック。ハンドルを握る山本氏は、昨年BYDの中国本社を取材。日本上陸前のシールも試乗した

"中国EV界の巨人"BYDが日本市場に投入した新型モデルが話題を呼んでいる。実際のところどうよ? BYDの取材を精力的に行なう自動車研究家の山本シンヤ氏が特濃解説!!

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■BYDの研究員は約7万人!

BYD シール 価格:528万~605万円 6月から日本市場での販売がスタートしたシールは、SUVのアットスリー、コンパクト型ハッチバックのドルフィンに続く、BYDの第3弾! BYD シール 価格:528万~605万円 6月から日本市場での販売がスタートしたシールは、SUVのアットスリー、コンパクト型ハッチバックのドルフィンに続く、BYDの第3弾!

山本 今回試乗したのは、6月25日に日本で発売となった中国BYDのフラッグシップEVセダンのシールです。

――販売好調のようですね?

山本 8月に輸入EVランキングで初のトップに立ちました。ご存じのように日本市場ではEV販売は主流とは言い難く、加えてシールは縮小傾向にあるセダンタイプのクルマです。その現状を踏まえると、健闘していると思います。

――そんな話題のシールに山本さんは何度も乗っているそうですね?

山本 僕は昨年、中国・広東省珠海市にある珠海国際サーキットでシールを試乗しましたし、日本でも何度も公道試乗を行なっています。

――シールのポイントは?

山本 ひと言で説明すると、アフォーダブル(手頃)な価格でテスラのモデル3とガチ対抗できるクルマです。

ちなみにシールのデザインを統括したのはドイツの高級ブランド、アウディに勤務していたウォルフガング・エッガー氏。彼は、「従来の自動車の美しさを継承した」と語っています。要は奇抜さやインパクトではなく、〝普通〟を狙ったデザインといえるでしょう。

シールのデザインを手がけたのはドイツ人。欧州車の雰囲気が漂うのも納得である シールのデザインを手がけたのはドイツ人。欧州車の雰囲気が漂うのも納得である

――ボディサイズは?

山本 全長4800㎜×全幅1875㎜×全高1460㎜で、ドイツのメルセデス・ベンツのCクラスやBMWの3シリーズに近い。内外装の質感もまずまずですし、装備もひととおりそろっています。

――スペックは?

山本 上級グレードとなるツインモーター仕様(4WD)の時速100キロ到達は3.8秒。この数字は高性能なスポーツカーに匹敵するスペックです。

――スゴっ!

山本 加えてバッテリーは、BYD自慢のブレードバッテリー(リン酸鉄リチウムイオン電池)を搭載しており航続距離はシングルモーター仕様が640㎞、ツインモーター仕様が575㎞となっています。

インパネ中央には15.6インチタッチスクリーン。このタッチスクリーンは電動回転タイプで縦固定も可能 インパネ中央には15.6インチタッチスクリーン。このタッチスクリーンは電動回転タイプで縦固定も可能

――ブレードバッテリーは発火の危険も少なく寿命も長いといわれていますが、この技術を実現できた背景には何があるんですか?

山本 約7万人の研究員を抱えているのが大きいでしょうね。さらに言うと、創業者の王伝福BYD会長兼CEOは大学時代から電池の研究を行なってきた〝電池大王〟で、今も暇さえあれば自ら研究を行なっているそうですよ。

――シールは究極のEV?

山本 いいえ。確かに基本素性の部分は日本車顔負けの実力を持っているのは間違いありません。ただし、クルマはそれだけではダメなことは皆さんもおわかりですよね。

――どういうこと?

山本 BYDは技術屋集団的な企業なので、「最高の技術を盛り込めば、最高のクルマに仕上がるはず」との考えが強いようで、数値に表れにくい感性領域へのこだわりはあまり感じられません。

――もう少し言うと?

山本 老舗自動車メーカーが大事にしている、そのブランドならではの〝味〟や〝魂〟がシールからは感じられないんです。もちろん、前述のとおり素性の悪いクルマではありませんが、どこか無機質で......たとえるなら必要な栄養素はたっぷり入っているんだけど、うまみを感じない健康食のような感じですかね。

――あー。

山本 厳しい言い方をすると、コスパだけでは通用しないのが、クルマの世界です。ただし、この数値に表れにくいところをBYDが本気で追求するようになると、本当に怖い存在になりうる。

荷室容量は400リットル。後席も倒せる。ちなみに後席は広々。シートの表皮はナッパレザー 荷室容量は400リットル。後席も倒せる。ちなみに後席は広々。シートの表皮はナッパレザー

最新EVのボンネットを開けると、ふた付きの50リットルの収納スペースが現れる 最新EVのボンネットを開けると、ふた付きの50リットルの収納スペースが現れる

――BYDのメイン市場は中国ですが、ユーザーがクルマを選択する決め手は?

山本 今は性能、機能、装備の充実が優先のようです。しかし、数値や性能というのは、新型に追い抜かれるものですが、味や魂はそうではない。BYDが世界市場への進撃を開始するなら、僕はこの感性領域に本気で取り組む必要があると考えています。

――仮に感性領域の課題がクリアできたとしたら?

山本 シールのボディ構造やクルマの根幹部分は、〝欧州メーカーのレシピ〟が再現されている部分が多い。つまり、素材はいいので、大化けする資質は十分あります。あとはBYDがどのように調理していくかでしょうね。

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