渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
今年取材した話題のモデルの中から、珠玉にも程がある「やりすぎカー」を選び、勝手に表彰! 選考委員長は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏。それでは、2024年を代表するクルマを一挙大紹介!
渡辺 2024年の1位はホンダ6代目CR-V e:FCEVに決定しました!
――7月19日に発売(リース専売)したSUVですね。ズバリ、受賞の理由は?
渡辺 CR-V e:FCEVはホンダの最新技術をギガ盛り投入し、水素燃料電池車にPHEV(プラグインハイブリッド)的な充電機能を組み合わせました。簡単に言うと、水素と電気の二刀流を実現したわけです。
――そもそもの話ですが、なぜホンダは水素と電気の二刀流カーを爆誕させた?
渡辺 現在、水素を充填する水素ステーションは全国に約160ヵ所ありますが、ガソリンスタンドの約2万7400ヵ所と比べると圧倒的に少ない。しかも営業時間が短いなど、使い勝手が悪い。
そこで威力を発揮するのが充電機能。フル充電ならWLTCモードで約61㎞を走れるので、仮に水素を使い果たしても、充電を繰り返しながら水素ステーションまでたどり着ける。ちなみに水素の航続距離は約621㎞(WLTCモード)。
――電気と水素を合計すると700㎞近く走れるんですね。ちなみにCR-V e:FCEVのお値段は?
渡辺 ホンダの国内の新車の頂点となる809万4900円です。現状ではCR-V e:FCEVはホンダの脱炭素カーのフラッグシップSUVですから値は張ります。
――でも、国内市場の年間販売の目標台数は70台です。
渡辺 水素ステーションのインフラが整っていませんからね。まぁ、ホンダの脱炭素カーのアイコン的なクルマです。
――いずれにせよ、最新技術マシマシのCR-V e:FCEVはやりすぎだと! お次はどんなクルマ?
渡辺 2位はスズキ・ワゴンRのCBG(圧縮バイオメタンガス)車。牛の糞尿から製造したカーボンニュートラル燃料を使って走ります。
――牛の糞尿!
渡辺 スズキがクルマをたくさん販売しているインドは、3億頭超といわれる世界トップ級の牛大国。実は牛の糞尿にはメタンガスが含まれているのですが、その地球温暖化の促進効果は二酸化炭素の28倍という話も。
そこで、牛の糞尿からバイオメタンガスを発生させ、精製してクルマの燃料に使うことで、メタンガスの大量放出を防ごうと。
――とはいえ、内燃機関のエンジンを搭載して燃焼させれば、結局は二酸化炭素が発生するのでは?
渡辺 牛のエサになる牧草は、二酸化炭素を吸収する光合成で育つ。そんな牛の糞尿からバイオメタンガスを造るので相殺となり、二酸化炭素を排出したことにはなりません。無用の長物だった牛の糞尿を有効活用し、さらにガスの放出も抑制。脱炭素カーの本質をとらえた秀作です。
――3位のマツダは藻で走るクルマ!?
渡辺 CX-80 バイオフューエルです。藻を培養して分離回収し、バイオ燃料を精製します。藻は植物ではありませんが、育つ段階で二酸化炭素を吸収します。従って藻から精製した燃料を使えば、燃焼させても二酸化炭素を排出したことになりません。
――実用化のメドは?
渡辺 マツダの開発者によると、2tの藻から精製される燃料は約200㏄です。当然、大量の藻が必要になります。ただし、これから開発が進めば効率も向上するはずです。つけ加えると、藻から精製したバイオ燃料を軽油に混ぜて燃焼させることも可能です。
――つまり、このバイオ燃料は柔軟性があるんですね。
渡辺 マツダの開発者は、日本国内で燃料を生み出せる地産地消の価値も強調していました。日本の燃料は輸入に頼っていますが、藻は太陽光と二酸化炭素があれば育ちます。二酸化炭素を吸収する藻を使った燃料精製は価値が高い。マツダのやりすぎバイオ燃料の今後に注目ですよ!
――4位はポルシェ911 GT3 RSです。
渡辺 理屈抜きに、鬼のリアウイングがやりすぎ!
――祭りのやぐらに匹敵するインパクトです。
渡辺 もちろん、リアウイングだけでなく、走りもやりすぎです。水平対向6気筒4Lツインターボガソリンエンジンにモーターも組み合わせ、最高出力は541馬力、最大トルクは610Nm、最高速度は時速312キロ! 停車状態から3.2秒で時速100キロに到達します。
――ヤバっ!
渡辺 ちなみに1963年に登場した最初のポルシェ911は、5ナンバーサイズのボディに水平対向6気筒2Lエンジンを搭載し、最高出力は130馬力でした。
――5位は、今年上半期のやりすぎカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたEVコンセプトカーです。
渡辺 ド派手なガルウイングドアは誰がどう見てもやりすぎ。ちなみにホンダゼロシリーズのフラッグシップとなるサルーンは、2026年に米国を皮切りに市販化予定です。どんな走りのクルマに仕上げてくるか楽しみです。
――続いて6位は?
渡辺 いい意味で一線を越えた、野獣フェースのピックアップトラック・三菱トライトンです。この顔面の破壊力は文句ナシのやりすぎ!
――7位はフィアットです。
渡辺 新型EVの600e(セイチェントイー)を選びました。トライトンとは対照的なあざとかわいい顔立ちがやりすぎ。実は正面から見ると、こちらを軽くにらんでいるような雰囲気も。実に小悪魔的なクルマです。
もともとこの顔立ちは1957年に誕生したクラシックなフィアット500(チンクエチェント)がルーツ。60年以上の歳月を経て、独特のデザインに進化したクルマともいえます。
――8位はホンダの軽です。
渡辺 今年9月、日本市場に"絶対王者"として君臨するホンダの軽スーパーハイトワゴン・N-BOXに追加されたN-BOXジョイを選びました。
――ゴッリゴリのSUVモデルではなく、癒やし系ゆるふわSUVです。
渡辺 しかも、シートの生地や荷室の素材は全車チェック柄! 後席を倒すと荷室というよりチェック柄のカーペットを敷いた小部屋にいる気分が味わえます。
――9位も軽です。
渡辺 スズキのスーパーキャリイの特別仕様車Xリミテッドです。実はこのXリミテッド、若い女性スタッフふたりがデザインしました。まず彼女たちはキャリイの使われ方を調べたそうです。
――そこで何を得た?
渡辺 軽トラは働くクルマの顔だけでなく、日常の足としても重宝されていることがわかったそうです。そこで、フロントマスクやドアパネルを部分的にブラックに仕上げ、ホイールもブラック塗装するなど、見た目を磨き込んだ。
――その結果、Xリミテッドは、外観のカッコ良さが人気を呼んだわけですね。
渡辺 つけ加えると、Xリミテッドは、アウトドアの相棒として指名買いされることも多いとか。
――10位のやりすぎカーは4位に続き、再びポルシェ!
渡辺 タイカンに決定です。
――ドジャースの大谷翔平が、背番号「17」を譲ってくれた同僚の妻にプレゼントし、世界的な注目カーになりました。ズバリ、タイカンはどこがやりすぎ?
渡辺 ポルシェ初のEVで、ボディは4ドアです。エコカーのEVですが、そのパワーはすさまじい。現行型GTSの最高出力は700馬力で、時速100キロ到達タイムは3.3秒。最速仕様は1034馬力で時速100キロ到達は2.3秒。もはやなんのためのEVなのかと思う鬼スペックで......完全なやりすぎカー!
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員