山本シンヤやまもと・しんや
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。
大幅改良を受けた三菱のフラッグシップSUV、アウトランダーPHEVの販売が好調なのだという。改良前と何がどう違うのか。気になる走りの実力は? 自動車研究家の山本シンヤ氏が公道試乗した!!
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三菱が〝最高傑作〟と胸を張るアウトランダーPHEVの大幅改良モデルの報道陣向け試乗会が、神奈川県中郡大磯町にある大磯プリンスホテルで開催された。
そもそもアウトランダーPHEVとはどんなクルマかというと、2013年に世界に先駆けてSUVタイプのPHEVとして登場。
現行モデルへの切り替えは21年。三菱が長年培ってきた「電動化技術」と「四輪制御技術」の最新版をギガ盛り。見事、PHEV市場をリードする三菱のフラッグシップSUVモデルへと大きく成長した。そして、今回の大幅改良で商品力をさらに高めたという。
ご存じの方も多いだろうが、念のためザックリ説明すると、PHEVとは充電機能がついたハイブリッド車。日常はEV走行、遠出はハイブリッド走行が可能だ。つまり、電欠がない。そのため〝脱炭素カーの現実解〟と呼ばれて大きな注目を集めている。
事実、今回試乗した大幅改良モデルは24年10月31日に発売されたのだが、受注の滑り出しは好調。月販目標1000台に対し、受注台数は4600台を軽く突破。しかも、アウトランダーPHEVの売れ筋は700万円台に迫る最上級グレードが52%を占めているというからハンパない。というわけで、その人気の秘密を試乗で確かめることにした。
ちなみに三菱によると、今回の大幅改良で駆動用バッテリーを刷新。バッテリーの容量(10%増の22.7kWh)と、冷却性能のアップによりモーター出力が約20%向上し、EV走行の航続距離は従来モデルから約20㎞伸びて、100㎞超えを達成したという。
試乗は西湘バイパスを経由してアネスト岩田ターンパイク箱根へ。ハンドルを握るのは、自動車研究家の山本シンヤ氏。西湘バイパスに乗ると、すぐに口を開いた。
「これはディアマンテの再来ですね! それくらい走りのプレミアム度がアップしています。もう少し具体的に言うと、改良前はとにかく曲がりやすさを強調した走りが特徴でした。しかし、大幅改良モデルはその走りを、誰でも、楽に、そして安心して体感できるようなクルマに仕上げています。
要するにコーナーに進入し、旋回、脱出まで一筆書きでつながるようなハンドリングです。乗り心地も電子制御ダンパーかと錯覚するくらい路面の凹凸を優しく包み込んでくれます。ココはタイヤの進化も大きい」
山本氏が口にしたディアマンテとは、1990年に登場した三菱の3ナンバー専用ボディの4ドアハードトップ(2005年生産終了)。初代はこのクラスの〝親玉〟として君臨したトヨタのマークⅡ3兄弟に負けず劣らずの実力を誇った逸品カーである。
「同業者の中には大幅改良モデルを『走りが丸くなった』という人もいます。しかし、僕は〝正常進化〟と感じました。
というのも、改良前は三菱ファンにシッカリと支持されることが重要でしたので、〝これぞ、三菱車!〟というわかりやすい走りが求められました。ところが、フタを開けると他銘柄からの乗り換えが多かった。
そこで、大幅改良モデルは三菱車的なわかりやすさよりも、クルマ自体の〝本質〟をグッと高めてきた。ちなみにこのモデルから欧州販売が再開されています」
なぜ、ここまで質の高いクルマに仕上げられたのか。
「ハードやソフトの進化など専門的な話はいくらでもいえますが、僕はそれに加えて開発陣の〝三菱愛〟が大きいと思っています。ご存じのとおり三菱は経営が厳しい時代もありましたが、そんなときにも開発陣は逃げずにアウトランダーを磨き続けてきた。いいクルマになって当然です」
週プレ自動車班は助手席に乗っていたのだが、その走りは静かで滑らか。しかし、いざ合流時には鋭く力強い走りを披露。
「従来モデルも走行フィールは滑らかでしたが、加速時にエンジンが始動するとその騒々しさに興ざめ......。しかし、この大幅改良モデルは確かに同様のシーンでエンジン音はしますが、遠くで回っているような静かさ。
さらにヤマハと共同開発のオーディオも注目ポイントです。クリアなのに聞き疲れない音は、国産車トップレベルでした」
ズバリ、ライバル車はどれか。山本氏は即答する。
「わかりやすいモデルはトヨタRAV4とハリアーのPHEV。どちらも試乗済みですが、走りの実力はアウトランダーPHEVが勝ります」
アウトランダーPHEVに弱点はないのだろうか。
「これだけ高級な内外装になるとアウトドアシーンを気軽に楽しめないので、悪路に特化したグレードが欲しくなる。逆にオンロードではスポーツ性をより感じさせるグレード、例えばラリーアート(三菱のスポーツブランド)があるとファンは喜ぶはず」
確かに値の張るクルマだが、〝最高傑作〟の看板に偽りナシの出来栄えであった。
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。