トヨタ・豊田章男会長のプレゼンでGRスープラのドリフト写真が出て話題に。山本氏いわく、「自動運転の研究のひとつの例です」 トヨタ・豊田章男会長のプレゼンでGRスープラのドリフト写真が出て話題に。山本氏いわく、「自動運転の研究のひとつの例です」

今月7日(現地時間)、米国ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES2025」にニッポンの自動車メーカーが参戦。というわけで、自動車研究家の山本シンヤ氏が現地に突撃し、各社の戦略に迫った!!

■ウーブン・シティはテストコース!?

山本 CES2025を現地取材してきました!

――やはり注目はトヨタのウーブン・シティです。世界的なニュースになっていました。

山本 実はプレゼンをした豊田章男会長のネクタイが5年前のウーブン・シティ発表時と同じでした。

――つまり、今回の発表は2020年の続きであると?

山本 そのとおり。日本では"未来都市"と報道されていますが、正確にはテストコースなんです。

――どういうこと?

山本 現在、トヨタはモビリティカンパニーへの変革を進めています。もちろん、クルマを造るためのテストコースは複数ありますが、モビリティのテストコースはない。トヨタはクルマのことはよくわかっていますが、モビリティに関してはわからないことだらけですからね。

――プロジェクトを担うのはウーブンバイトヨタですね。

山本 今、トヨタグループ全体で未来のための種まきを行なっていますが、その最前線に立つのがウーブンバイトヨタ。クルマの開発にたとえると、トヨタのGR(ガズーレーシング)は"もっといいクルマづくり"を牽引する存在です。

ウーブンバイトヨタは"モビリティカンパニーの中のGR"みたいな存在です。だから、ウーブンバイトヨタはモビリティカンパニーの中で、"走って壊して直す"を行なっている。その現場のトップが豊田会長のご子息である大輔氏です。

――ほお!

山本 CESのプレゼン後、メディア向けの質疑応答がありました。ウーブンバイトヨタのトップや、トヨタの副社長が対応していましたが、詳細な質問はすべて現場トップの豊田大輔氏が答えていました。

少し意地悪な質問にも動じることなく、自分の言葉で、わかりやすく、そして的を射た回答をしており現地で注目の的になっていましたね。

ウーブン・シティの開発を牽引するのがウーブンバイトヨタ。その現場トップが豊田大輔氏。愛車はシエンタ ウーブン・シティの開発を牽引するのがウーブンバイトヨタ。その現場トップが豊田大輔氏。愛車はシエンタ

――そんなウーブン・シティの中で研究・実験を行ないたいと手を挙げた企業は6000社を超えたそうで?

山本 その中から5社(ダイキン、ダイドー、日清、増進会、UCC)の参加が発表されました。長期にわたって行なわれるプロジェクトなので、その判断基準はコーポレートとして上から下まで一気通貫でトヨタと同じ思想を持っている企業とのことです。

――ウーブン・シティは今秋から一部運用を開始します。

山本 第1フェーズの運用が始まり、並行して第2フェーズの工事も進められます。ちなみにもともとあったTMEJ(トヨタ自動車東日本)東富士工場の建屋の一部はリノベーションされ、モノづくりをサポートします。

■ニッポン勢が披露した新型EVと自動運転

――そして、ホンダは新型EVゼロシリーズのプロトタイプをお披露目しました。

山本 ホンダの三部敏宏社長は「2040年に販売する新車を100%、EV(電気自動車)とFCV(水素燃料電池車)にする」と宣言しています。その言葉の裏には"エンジン好きのエンジニアの改革"がある。放っておいたら結局エンジンを載せられるEV、つまり中途半端なクルマを造ってしまう(笑)。それでは世界のライバルと戦えない。

そこで、一回エンジンは全部忘れようと。ある種、社員のケツを叩く言葉だったんです。それを形にしたのがゼロシリーズ。ホンダは車体も、走りの考え方も、電池も、モーターも、全部イチから考え直しました。

――実車を見た感想は?

山本 オフィシャル写真は微妙でしたが、実車は率直にカッコよく、現地でもそういう声が多かった。走りは電子制御をフル活用。昨年プロトタイプに乗せてもらいましたが、いい意味で普通。"究極のアナログ運転をデジタルで実現"という感じです。

昨年公開したモデルを磨き抜き、顔やドアの形状などを変更したホンダゼロシリーズ。現地の反応も上々とか 昨年公開したモデルを磨き抜き、顔やドアの形状などを変更したホンダゼロシリーズ。現地の反応も上々とか

――つまり、従来の"ホンダらしさ"も残っている?

山本 ゼロシリーズは、大企業となったホンダがベンチャー企業のような気持ちで挑戦したモデルです。走らせるとホンダの歴史がちゃんとつながっているのがわかります。

――なるほど。一方、ソニー・ホンダモビリティからは、ほぼ市販モデルとなったアフィーラが発表されました。今回は価格(約1400万円)も発表されましたが、なんとカラオケもできるそうで?

山本 カラオケができるのもいいですが、誤解を恐れずに言えばアフィーラはあのソニーが造るとは思えないくらい普通でした。自動車ビジネス初参入の会社だから、できるだけベーシックにしたかったのかなと。

なお、ソニー・ホンダのチームとホンダゼロのチームは、あえて近づかずに開発をやっていたと聞きました。ただ、根幹の部分は共用しており、ソフトウエアなどで独自性を出しています。

注目のアフィーラだったが、ド派手さはなく、非常にシンプルな仕上がり。現地でもカラオケ機能搭載が話題に 注目のアフィーラだったが、ド派手さはなく、非常にシンプルな仕上がり。現地でもカラオケ機能搭載が話題に

――1400万円という価格をどうご覧になりました?

山本 内容を考えれば想定内の価格設定ですが、疑問はSDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)の価値ですね。

――どういうこと?

山本 今回のCESのトレンドはSDVでした。ただ、現状ではSDVという言葉だけがひとり歩きしている。アフィーラもそこに苦悩した結果、「カラオケができる」という話になった気が。つまり、まだSDVとは何かという明確な答えがどのメーカーも出ていない。そんな現実が見えました。

――ちなみにスズキが今回CESに初出展しました。

山本 事前情報ゼロで何を発表するのか気になっていましたが、その内容はスズキが掲げる"小少軽短美"にブレがなかった。自動運転車の試作車がお披露目されたのですが、これは自動運転可能なベース車両の上に、用途に合わせた上屋をドッキング!

しかも、驚きはベース部分。実はジムニーの骨格を流用しており、これでジムニーEVが開発可能だと判明(笑)。アフォーダブル(手頃)で無駄のない上に堅牢(けんろう)。実にスズキらしい提案でした。

スズキがCES初出展。この自動運転の試作車だけでなく、スズキ自慢の軽トラもブチ込み、熱い視線を浴びた スズキがCES初出展。この自動運転の試作車だけでなく、スズキ自慢の軽トラもブチ込み、熱い視線を浴びた