堂本光一Koichi Domoto
1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟氏がデビューした1987年頃からF1のファンに。
公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】
2025年シーズンの大きな見どころのひとつが、フェラーリに移籍したルイス・ハミルトンの動向だ。史上最多タイの7度の世界チャンピオンに輝いた40歳のハミルトンは12シーズンにわたって在籍したメルセデスを離れ、フェラーリで新たな挑戦を開始することを決断した。
1月中旬、ハミルトンはフェラーリの本拠地があるイタリア北東部のエミリアロマーニャ州マラネロを訪問し、すぐにフェラーリが所有するフィオラノ・サーキットで旧車を使用したテストを行い、地元のファンの大声援を受けていた。その後、スペインのバルセロナでも旧型マシンでのテストを実施し、ハミルトンは新天地での19年目のシーズンへの準備を着々と進めている。
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ルイス・ハミルトン選手といえば、メルセデス時代の白や黒、グレーを基調としたレーシングスーツの印象がまだ強いですが、フェラーリの赤いレーシングスーツ姿もオーラがありましたね。
F1というのは不思議なもので、やはり強いマシンは説明できない特別なオーラをまとっています。ドライバーも同じで、赤いレーシングスーツに身を包んだハミルトン選手が速さを見せてくれたら、もっと強烈なオーラを放ちはじめると思います。それが今シーズンのどのタイミングになるのか、すごく楽しみですね。
ハミルトン選手がどれぐらい活躍できるのかの鍵を握っているのは、フェラーリの2025年型のマシンです。昨シーズンに関して言えば、フェラーリのマシンはどんなサーキットでもそこそこの速さを発揮し、コンストラクターズ選手権でマクラーレンに次ぐランキング2位を獲得しました。でも、マクラーレンと互角の勝負ができるだけのポテンシャルは感じられませんでしたし、飛び抜けて直線が速いとか、タイヤに優しいとか、フェラーリならではの強みもなかった。
ハミルトン選手が加入することで、マシン開発がいい方向に進んでほしいと思いますが、2025年シーズンに関しては劇的な変化は期待できないかもしれません。その理由は前回お話ししたように、F1は2026年シーズンに新しいレギュレーションが導入され、マシンやパワーユニット(PU)が大きく変わります。大半のチームは2026年以降の開発に力を注いでいくはずなので、今シーズンは昨年の終盤戦と基本的な勢力図はあまり変わらないと僕は思っています。
ただ今年は、勝ち方を熟知しているワールドチャンピオンが新たに加入しますから、そこは大きな強みになります。フェラーリは2020年シーズン末にセバスチャン・ベッテル選手がチームを離れた後、シャルル・ルクレール選手とカルロス・サインツ選手がコンビを組んでいましたが、ふたりともタイトルを獲得した経験はありません。
ここ数シーズンのフェラーリは、戦略ミスが目立ち、チームとドライバーのコミュニケーションがうまくいかず、勝利や表彰台を逃したことが何度かありました。大事なところでミスやポカをするのはフェラーリらしくて愛すべきところではありますが、タイトルからは長いこと遠ざかっています。
ドライバーズ選手権は2007年のキミ・ライコネン選手、コンストラクターズ選手権はライコネン選手とフェリペ・マッサ選手のコンビで臨んだ2008年が最後です。フェラーリファンのひとりとしては、そろそろタイトルを獲得してほしい気持ちです。
とはいえ、先ほども話したように今シーズンのフェラーリやハミルトン選手がいきなりチャンピオンになれるとは思っていません。やっぱりドライバー、マシン、PU、戦略などが完璧に機能しなければ、F1では勝てません。マシンの実力はまだ足りないですし、ハミルトン選手もフェラーリのマシンや仕事の進め方などに慣れる時間が必要です。
ハミルトン選手は2007年にマクラーレンでデビューして以来、ずっとメルセデスのPUをドライブしてきました。フェラーリのマシンとPUを扱うのは初めてです。ハミルトン選手がフェラーリというチームやマシンに慣れ、本来の力を発揮するのは新しいレギュレーションが導入される2026年シーズン以降になると僕は見ています。
ハミルトン選手の経験やフィードバックは2026年以降のマシン開発において大きな力になるのは間違いありません。とにかく今シーズンに関してはハミルトン選手が加入することでチーム内のミスが少しでも減り、フェラーリがチームとしてステップアップしていってくれることを願います。
これまでハミルトン選手は史上最多、通算7度のドライバーズチャンピオンに輝いており、ミハエル・シューマッハ選手と並んでいます。ハミルトン選手はF1で最も歴史と伝統を誇るフェラーリというチームで8度目のタイトルを獲得して、単独でトップに立つことを狙っているはずです。
それが実現できれば、文字通り、史上最強のF1ドライバーという勲章を手に入れることになり、最高のストーリーになることは間違いない。それは同時に、フェラーリで2000年から5年連続でドライバーズチャンピオンに輝いたシューマッハ選手へのリスペクトを込めたメッセージになるのかなと感じているので、ハミルトン選手にはフェラーリで8度目のタイトルを狙ってほしいですが、チームメイトのシャルル・ルクレール選手の存在も忘れてはなりません。
ここ数年間のフェラーリはルクレール選手を中心に動いていました。ハミルトン選手が加入することで、そのパワーバランスはどうなるのか? ルクレール選手としては当然これまで通りに自分が中心になるようにチームを動かしていこうとすると思いますが、そのためにはハミルトン選手を上回るだけの速さを求められます。
ハミルトン選手にとっても同じことは言えます。いくら経験豊富でマシンのフィードバックが優れていたとしても、ルクレール選手よりも遅ければ、「やっぱりもうハミルトンは全盛期を過ぎたな」と思われてしまう。両者の力関係がどうなるのかはもちろんですが、フェラーリがこのふたりをどう扱っていくのかにも注目しています。
オフシーズンの新車発表前、世界中のファンは各チームの今年のマシンがどんなデザインになるのかと想像を巡らせ、ワクワクしている時期なのですが、今年は2月18日に全10チームが合同で新車発表会をロンドンで開催します。面白い試みですね。
通常は各チームのファクトリーなどで日程もバラバラにニューマシンのお披露目をするのですが、今回はマシン発表会をひとつのイベントとして行なうので、全チームの情報がまとめて入ってきます。その日にすべてのチームのマシンを比較することができるわけですから、待ち遠しいですね。
フェラーリに関して言えば、どんなデザインになるのかはもちろん気になりますが、ハミルトン選手が加入したことでマシンのカラーリングにも何か変化があるかもしれません。フェラーリの赤といっても、実はいろいろ種類があるんです。
最近は光沢のある赤ではなく、マット系になっていますが、マットのほうが重量も軽くなりますし、空気抵抗が減ると言われています。V12エンジンが搭載されていた1990年前後のフェラーリはダークで深みのある赤です。シューマッハ選手がドライブした2000年代の前半は明るいオレンジっぽい赤でした。僕はどちらも好きでしたが、今年のフェラーリがどんな赤になるのか、そこにも注目しています!
これまでレッドブルに数々の勝利とタイトルをもたらしてきた天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイが3月3日からアストンマーティンでマネージングテクニカルパートナーとして業務を開始する。
「2025年型のマシンに関しては、ニューウェイ氏ができることはほとんどないと思います。彼の手腕が発揮されるのは、2026年シーズン以降のマシンになるでしょうね。アストンマーティンは例年、開幕からの出だしはいいのですが、シーズンが進むにつれて尻すぼみになっていく傾向にあります。
2025年シーズンに関しては先ほども触れたように、前年と勢力図はそんなに変わらないところからスタートすると思うので、マクラーレン、フェラーリ、レッドブル、メルセデスのトップ4の下というのが現実的なポジションだと思います。2025年シーズンに関しては厳しいと思いますが、ホンダが合流し、ニューウェイが手がけたマシンが投入される2026年シーズンは楽しみすぎますね」
スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)
1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟氏がデビューした1987年頃からF1のファンに。
公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】