「ドライバーができることは結局、コース上で結果を出すことだけ。角田選手にはこれまで以上に頑張ってほしい」と語る堂本光一 「ドライバーができることは結局、コース上で結果を出すことだけ。角田選手にはこれまで以上に頑張ってほしい」と語る堂本光一

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE24

1950年にスタートしたF1世界選手権は、今年75周年のメモリアルイヤーを迎える。それを記念し、史上初めて全チームによる合同新車発表会「F1 75 Live」が2月18日、イギリス・ロンドンのO2アリーナで開催された。2025年シーズンに参戦する全10チーム、20名のドライバーが参加し、約1万5000人の観客の前で新型マシンと新しいカラーリングを披露した。

その後、各チームはバーレーンに場所を移し、2月26日から28日までの3日間、プレシーズンテストを開催。開幕戦は3月16日にオーストラリアのメルボルンで行なわれるが、2025年シーズンに向けた戦いはすでにヒートアップしている。

* * *

■フェラーリの存在の大きさをあらためて感じた

ロンドンでの合同新車発表会「F1 75 Live」は、日本時間の朝5時からのスタートでしたが、F1の公式YouTubeチャンネルでライブ配信をしていたのを見ることができました。

イベントは2時間ほどでしたが、各チームによるマシンやカラーリングの発表だけでなく、マーチングバンドのショー、著名なミュージシャンやDJのライブもあり、アメリカ的な演出で見応えがありました。ファンとしては2025年シーズンのマシンを一気に見られるのは良かった。

今回のイベントで一番注目を集めていたのはフェラーリでしたね。今年からイギリス人のルイス・ハミルトン選手が加入することもあり、新しいカラーリングのフェラーリと赤いレーシングスーツを着用したハミルトン選手がステージに登場すると会場の観客から大声援が送られていました。真っ赤なマシンは視覚的にインパクトがあって、僕も無条件にワクワクさせられましたね。やっぱりフェラーリはF1の象徴なんだとあらためて感じました。

ロンドンでの合同新車発表会「F1 75 Live」の翌日にイタリアで新車のシェイクダウンを行なったフェラーリ。7度の世界王者ハミルトン(右)とコンビを組むルクレール(左)は「今年こそタイトルを獲得したい」と意欲をみせている ロンドンでの合同新車発表会「F1 75 Live」の翌日にイタリアで新車のシェイクダウンを行なったフェラーリ。7度の世界王者ハミルトン(右)とコンビを組むルクレール(左)は「今年こそタイトルを獲得したい」と意欲をみせている

前回フェラーリの赤にはさまざまな色合いが存在すると話しましたが、今年のフェラーリはややダークな、深みのある赤になっていました。前後のウイングやエンジンカバーの白のスペースも印象的で、赤と白が目立つカラーリングが注目を集めていましたが、フェラーリのニューマシン、SF-25の最大の見どころはフロントサスペンションをプッシュロッドからプルロッドに変更してきたことです。

マクラーレンやレッドブルはすでに空力的にメリットのあるプルロッド式のフロントサスペンションを投入していますが、そのトレンドにフェラーリも乗ってきたことで、これが主流になっていくと思います。

今回フェラーリがフロントのサスペンションを変更してきたのは、2026年から導入される新しいレギュレーションを見据えた動きともいえます。フェラーリには今のうちに新型サスペンションを投入して、実戦を通してテストしながら開発を進めていきたい、という意図があると思います。

■フェラーリの新型サスペンションはどう転ぶか?

「F1 75 Live」の前後にウイリアムズやマクラーレン、フェラーリも2025年仕様のマシンのシェイクダウン(試走)を行なっていましたが、基本的に前年モデルの正常進化型でした。現行のレギュレーションで戦うのは今シーズンが最後なので、おそらくほかのチームも同じようなクルマ作りをしてくるはず。

他チームのいいところをコピーしながら、自分たちのマシンをアップデートしてくるので、どのマシンもどうしても似てきます。現行のレギュレーションの中でデザインがほぼ煮詰まってきたともいえますが、全車のカラーリングを一緒にしたら見分けがつかないかもしれません。

それだけマシンのデザインが似てくると、マシンの性能差もおのずと小さくなると思うので、2025年は昨年以上の混戦になると予想しています。しかし一方で、接戦になれば、マシンの改良がうまくいってほんのちょっとでも競争力を上げたチームが、ライバルに対して大きなアドバンテージを得ることにもつながると思います。

フェラーリが新型サスペンションの導入で競争力が一歩前進してくれれば、タイトルに手が届く可能性が開いていくかもしれないと期待しています。ただ、不安もないわけではありません。

サスペンションを変更することで、当然、マシンのバランスやドライバーのフィーリングも変化してくるはず。そこにハミルトン選手やシャルル・ルクレール選手がスムーズに適応できるのかという懸念もあります。もしドライバーの適応がうまくいかなかった場合、マシン開発に出遅れてしまう可能性もある。果たして、サスペンションの変更は吉と出るか凶と出るか、注目しています。

■ファンからブーイングの洗礼を受けたレッドブル

「F1 75 Live」ではレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表がステージに登場した際、大勢のファンからブーイングを受けていました。なぜイギリスの観客たちがホーナー代表に対してブーイングをしていたのか、その理由は定かではありません。

これまでレッドブルにイギリス人のハミルトン選手やマクラーレンのランド・ノリス選手が散々苦しめられてきたので、地元のファンがブーイングしたくなる気持ちはわからないでもありません。それにセルジオ・ペレス選手が解任されたあとのドライバーの選定に関しても、大きな議論になっていました。

最終的にホーナー代表はフェルスタッペン選手のパートナーとしてリアム・ローソン選手を選択しましたが、あのブーイングは「なぜペレス選手の後任として角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手を採用しなかったのか」というファンの抗議の声だったのではないか? イギリスのF1ファンも日本人と同じような感情を抱いていたんじゃないか? と思いながらレッドブルの新車発表の様子を見ていました。

その角田選手が残留することになったビザ・キャッシュアップ・レーシングブルズ・フォーミュラワンチーム。昨年まではチームの正式名称はビザ・キャッシュアップRBフォーミュラワンチームだったので、この連載でも「VCARB(ブイカーブ)」の略称で呼んでいましたが、今年はいったいどう呼べばいいんですかね(笑)。

とりあえず、今シーズンは「レーシングブルズ」でいこうと思いますが、新しいカラーリングはカッコよかった。昨年までのレーシングブルズはブルーを基調にしたカラーリングでしたが、今年はイメージを一新。白をベースとしたマシンになっていました。

ほかのチームは、ほとんど前年のカラーリングを踏襲しているので、一番変わっている印象があります。白いカラーリングのマシンはインパクトのあるデザインで、角田選手が合同新車発表会で新しいチームメイトのアイザック・ハジャー選手とマシンにかけられたベールをめくった瞬間、思わず声が出ました。

■チームリーダーとして期待される角田選手

レーシングブルズは「F1 75 Live」の翌日にイタリアのイモラ・サーキットに2025年仕様のマシンを持ち込んで、シェイクダウン(試走)を実施しています。各チームはバーレーンでテスト(2月26日から28日)を行ないますが、開幕戦のオーストラリア(決勝3月16日)までにマシンはどんどん進化していきます。新車の発表会と開幕戦とでは、マシンが大きく異なっているというのはF1ではよくあることです。

今年のレーシングブルズのマシンは、ギヤボックスやサスペンションなどをレッドブルと共有していますが、ボディワークを含めてどこまでコピーしてくるのか。そこは注目しています。もちろんバーレーンのテストでどんなパフォーマンスを見せてくれるかも楽しみです。

レーシングブルズで5年目のシーズンを戦う角田選手は、今年は20歳の新人ハジャー選手とコンビを組みます。これまでの角田選手はチームメイトに勝つことや、マシンの性能を最大限に引き出して結果を出すことが目標だったと思います。

新たなチームメイト、フランス人のアイザック・ハジャー(中央)とともに2025年のカラーリングを披露した角田選手。「常に進歩し、より完成されたドライバーになるつもりです」と今シーズンの目標を語っている 新たなチームメイト、フランス人のアイザック・ハジャー(中央)とともに2025年のカラーリングを披露した角田選手。「常に進歩し、より完成されたドライバーになるつもりです」と今シーズンの目標を語っている

でも今の角田選手にとって、それは当然のことです。その段階はもう卒業して、さらにリーダーとしてチームを引っ張る存在になることを求められています。そうなることをチームとファンも望んでいますし、その期待に角田選手なら応えてくれると僕は信じています。

☆取材こぼれ話☆

F1参戦5年目のシーズンをレーシングブルズで迎える角田選手だが、同チームとの契約は2025年シーズン限り。今後もF1で生き残っていくためには前半戦が勝負となる。

「今シーズンも角田選手を応援していますが、レッドブル・グループは今、先行きがちょっと不透明な状況にあると思います。トップチームのレッドブルはチーム内でゴタゴタがあり人材流出が続いています。さらに、2026年シーズンからは自社製のパワーユニットで戦うことになりますが、果たして開発がうまくいくのか、という不安があります。

そんな状況下で角田選手はレッドブル昇格を目指すのか、それとも別のチームで走るという選択肢を見つけていくのか......。シート争いは政治やビジネスに振り回されることがあり、残酷な世界です。ドライバーができることは結局、コース上で結果を出すことだけです。角田選手にはこれまで以上に頑張ってほしいです!」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)

★不定期連載『堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web』記事一覧★