
山本シンヤやまもと・しんや
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。
シビックRSを引っ張り出した山本氏は、高速道路、一般道、街中などで、その走りを徹底チェック。どんな評価が飛び出すのか!?
昨年9月にマイナーチェンジを受けたホンダのシビックに、新グレードとなる「RS」が爆誕! クルマ好きの間で話題沸騰状態だという。そもそもRSはどんなグレードで、いったいどこがウケているのか? 自動車研究家の山本シンヤ氏が解説する。
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山本 昨年9月にホンダのシビックがマイナーチェンジを受けまして、ガソリンモデルに新グレード「RS」が追加されて話題を呼んでいます。実はこのRS、6速MT(マニュアルトランスミッション)専用車なのです。
――日本国内の自動車ってほぼAT(オートマチックトランスミッション)ですよね?
山本 MT車は約2%です。
――しかも今年4月からは、道路交通法施行規則の一部が改正されますね?
山本 それにより教習所のカリキュラムが変わります。これまでMT免許を希望する人は、MT車で教習を受けていましたが、今後はまずAT車で基本の教習を受けます。その後にMT希望者は、追加オプション的にMTの講習を受ける形になりますね。
――そんな〝絶滅寸前〟のMT専用車ということは、シビックRSの主な購入者はオジサマ世代ですか?
山本 マイナーチェンジを受けたシビックの月販新車販売の目標は、ライバルのトヨタ・カローラと比べると控えめな500台です。ところが、約1ヵ月の受注台数は、なんと計画の約6倍!! そのうちの67%がRSで、購入者は20代の若者が中心です。
――マジか!
山本 ひと昔前、日本はセダンだらけでした。若者はそれをダサいと感じSUVに走りました。今度は逆にSUVが増えすぎて(笑)、若者からすれば希少なハッチバック、さらに希少なMTがカッコいいと感じたのでは?
――そもそもシビックってどんな歴史のクルマでした?
山本 初代シビックは1972年に登場。世界累計販売台数は2700万台以上で、170以上の国と地域で販売されています。アコードと並ぶホンダの大エースですね。ちなみに現行モデルは21年に登場した11代目になります。
ホンダ シビックRS 価格:439万8900円 今回のマイチェンで顔面がチョイ変わったシビック。ちなみにRSは専用装備などの関係で、実際に見るとかなりスポーティ
ボディサイズは全長4560㎜×全幅1800㎜×全高1410㎜。車重は1350㎏
――今回のRSはどんなモデルなんですか?
山本 1.5リットルの直列4気筒VTECターボを搭載する純ガソリンエンジン車で、最高出力は182馬力。最大トルクは240Nmです。
――ホンダは2040年までに世界新車販売のすべてをEVとFCEVに切り替えると発表済みです。そんな中で純ガソリン車?
山本 実はそこがホンダの面白いところで、現場はトップの言うことを素直に聞かないという伝統が今も脈々と受け継がれている(笑)。
――なるほど。
山本 話をRSに戻すと、このRSというグレードは初代シビックに追加するも、排ガス規制の影響でわずか9ヵ月しか生産されなかった。そんなスポーティグレードである初代シビックRSが起源なんです。
それ以降、RSの名は〝浮かんでは消え〟でしたが、実はアジアでは深く浸透しており、多くのホンダのモデルに設定されているんです。
ほかの純ガソリン車と同じエンジンだが、RS専用にシッカリと磨き込まれている
――ちなみにMTのターボということはド硬派モデル?
山本 いえいえ。シリーズのトップにはサーキットが本拠地のタイプRがあります。RSは普段使いをシッカリこなしつつ、ワインディングロードなどでクルマを操る楽しさを味わえます。キャラクター的には〝ほどほどスポーツ〟という感じ。
といっても、そこはホンダ。かなりの領域までスポーツ走行を許容します。逆に言うと、この手のクルマを支持する若者が日本にいるのは、クルマ業界に身を置く人間としてはうれしい話ですね。
――ホンダがMTを出したから若者が買ったんですかね?
山本 そこの分析は非常に難しい。実はRS追加前もシビックにはMTの設定がありましたが、あまり目立っていなかった。要するにMTを設定すればOKではなく、クルマ全体の世界観を含め表現しないと、若者には受け入れられない気がします。
インパネは黒を基調としているが、ドアやハンドルなどにRS専用となる赤いラインが! 男心をたぎらせる室内に仕上がっている
フロントシート同様、リアシートにも赤いステッチが入っている。足元の空間は広い
――乗り心地はどうです?
山本 やや硬めのセットアップながらも家族も快適に乗れると思います。ひとりで乗るときは、運転の楽しさや、スポーティな気分も味わえるはず。
MTだと運転が大変だと思われがちですが、シフトダウン時に自動でエンジンの回転合わせ(レブマッチコントロール)もしてくれますし、運転支援(ホンダセンシング)も装備されています。MTのシビックRSは操る楽しさとイージードライブが共存した一台に仕上がっています。
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。