「角田選手がこれまで培った経験と実力がトップチームのレッドブルでどれだけ通用するのか、いちファンとして見てみたい」と語る堂本光一 「角田選手がこれまで培った経験と実力がトップチームのレッドブルでどれだけ通用するのか、いちファンとして見てみたい」と語る堂本光一

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE26

オーストラリアで開幕した2025年シーズンは、マクラーレンのランド・ノリスが優勝。続く中国GPでもマクラーレンがワンツー・フィニッシュを決め、昨年のコンストラクターズ・チャンピオンがライバルを圧倒的している。

次の第3戦は、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催される日本GP(決勝4月6日)だが、その直前にビックニュースが飛び込んできた。開幕から好パフォーマンスを発揮していたレーシングブルズの角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手が、日本GPからレッドブルに移籍することが決定したのだ。

チャンピオンドライバーのマックス・フェルスタッペンのチームメイトとして母国GPに凱旋する角田選手は鈴鹿サーキットでどんな走りを見せてくれるのか!?

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■マクラーレンの強さの秘密はタイヤの使い方

シーズンが開幕する前から昨年の勢力図が引き継がれるだろうと予想はしていましたが、まさにその通りになりました。

開幕戦の舞台となったオーストラリアのアルバートパークは、公園内の一般道と駐車場を使用している、いわゆる"半公道"のサーキットです。しかも今年は雨だったこともあり、各チームのマシンの実力はわかりづらかったですが、昨年コンストラクターズ・チャンピオンに輝いたマクラーレンのランド・ノリス選手が盤石の強さで優勝。

第2戦の中国GPは、オーストラリアとはまったく性質が異なる常設コースが舞台でした。長いストレートとさまざまなコーナーが組み合わされた現代的なサーキットでも、マクラーレンのオスカー・ピアストリ選手が圧倒的な速さを見せつけて優勝します。

開幕2戦を制したマクラーレンはどんなコーナーでも安定して速いことに加え、タイヤをうまく使えることが強みになっているように見えました。タイヤのデグラデーション(性能劣化)が少なく、今のところマクラーレンとまともに勝負できるチームは見当たりません。

あと開幕2戦で気になったのは、どのチームのマシンもすごく"ピーキー"になってきていること。マシン本来の実力が発揮できるスイートスポットが狭く、ドライバーが非常に苦労しているような印象がありました。

中でも、レッドブルはセットアップとドライビングの両方で相当難しいマシンになっているように感じます。今シーズン5連覇を狙うマックス・フェルスタッペン選手の「専用車」になっているというか、フェルスタッペン選手だからなんとか乗りこなせている、という状況に見えます。

おそらくレッドブルのニューマシンは、データ上は速いのでしょう。フェルスタッペン選手とレッドブルのペアリングがハマったときにはマクラーレンに対抗できそうな気がしますが、マシン本来のポテンシャルを安定して引き出すのはかなり難しいように見えます。

実際、今シーズン初めてフル参戦するリアム・ローソン選手はドライビングにかなり苦しんでいました。開幕戦のオーストラリアでは予選18位、中国ではスプリント予選と本予選でともに最下位という散々な結果で、開幕2戦はノーポイントに終わりました。

■気になったフェラーリとレーシングブルズの戦略

中国GPでのフェラーリは、ルイス・ハミルトン選手が土曜日のスプリントレースで優勝しましたが、日曜日の決勝レースでは2台そろって失格となります。レース後の車検で、5位でゴールしたシャルル・ルクレール選手はマシンの最低重量に約1キロ足りず、6位でフィニッシュしたハミルトン選手はマシン底面の部品、スキッドブロックが規定よりも摩耗していたことが判明し、リザルトから除外されました。

スキッドブロックの厚さ違反に関しては単純な計算ミスで、最低重量の違反に関してはタイヤの摩耗が激しかったことが原因だとフェラーリ側は釈明していましたが、重量や車高に関してはギリギリを攻めてはいるという証拠だと思います。そこに関しては同じミスを繰り返さないように努めてほしいですが、開幕2戦のフェラーリの戦いで気になったのは戦略です。

開幕戦のオーストラリアでは雨の状況を読み違い、ピットインのタイミングを外し、大量ポイントのチャンスを逃しました(ルクレール8位、ハミルトン10位)。続く中国GPは当初ツーストップ作戦になると予想されていましたが、路面が改善されたことに加え、タイヤの性能劣化も少なく、上位勢はワンストップで走る戦略に切り替えました。ところがハミルトン選手だけがなぜかツーストップ作戦を選択していました。

中国GPのスプリントレースでハミルトン選手が優勝していますし、今年のフェラーリはマクラーレンがコケた場合は、勝てるだけのマシンのポテンシャルはあるのかもしれません。でも戦略面を改善しないと、結果を残すのは難しい。同じことはレーシングブルズにも言えます。

■角田選手の立ち振る舞いに成長を感じた

開幕戦で角田選手は予選5番手を獲得し、決勝でも上位を走行していましたが、レーシングブルズはフェラーリと同様にレース終盤に雨が降ったときにピットインのタイミングを誤り、角田選手は大きくポジションダウン。12位に終わり、入賞を逃しました。

中国GPでも角田選手は予選で9番手から好スタートを決めて、レースでも終盤まで7位を走行。チームメイトの新人アイザック・ハジャー選手も入賞を狙える位置につけていましたが、レーシングブルズはまたしても不可解な戦略でレースを台無しにします。

開幕戦オーストラリアでは予選5位、中国GPでは予選9位につけるも、不運なトラブルや戦略ミスで決勝でのポイント獲得を逃した角田 開幕戦オーストラリアでは予選5位、中国GPでは予選9位につけるも、不運なトラブルや戦略ミスで決勝でのポイント獲得を逃した角田

ライバル勢がワンストップ戦略に舵を切る中、ツーストップ作戦を敢行するのです。正直、上海でのレーシングブルズの判断には驚きました。結局、レーシングブルズの両ドライバーは順位を大きく下げ、2戦連続で大量ポイント獲得のチャンスを逃がすことになります。

開幕からの2戦で角田選手はタイヤ交換の必要がない中国GPのスプリントレースでしかポイント取っていません。皮肉な言い方になりますが、チームが戦略で足を引っ張らなかったから6位に入賞してポイントが取れたんですよね。

角田選手は内心、はらわたが煮えくりかえっていると思いますが、チームを批判せずに、「僕たちにはいいマシンや人材があるので、今後に向けてしっかりと見直していきたい」と前向きのコメントをしていました。チームリーダーとしての振る舞いに、すごく成長を感じていました。

海外でも角田選手を評価する声は上がっており、中国GP終了直後から角田選手とレッドブルのローソン選手がシートを入れ替えるのではないかという噂が飛び交っていました。そして第3戦の日本GPを前に角田選手のレッドブル昇格が正式発表されました。

■角田選手が日本GPからレッドブル昇格決定!

トップチームで走るチャンスが目の前にあるのであればドライバーは躊躇なくつかみ取りにいくべきだという意見はありますが、レッドブルのマシンは完全にフェルスタッペン仕様になっています。最初にも話したようにピーキーでドライブするのは簡単ではないと思いますし、レッドブルではフェルスタッペン選手のサポート役に徹しなければなりません。

第3戦の日本GPからフェルスタッペンのチームメイトとしてレッドブルから参戦する角田。「日本GPの目標は表彰台」と語る 第3戦の日本GPからフェルスタッペンのチームメイトとしてレッドブルから参戦する角田。「日本GPの目標は表彰台」と語る

対して今年のレーシングブルズはマシンに競争力があるので、チームに留まっていた方がいいという意見も当然ありますが、昨年末にバーレーンで開催されたF1の合同テストでレッドブルのマシンをドライブした角田選手は「自分のドライビングスタイルと合っている」とコメントしていました。

それに新人のローソン選手と異なり、F1参戦5シーズン目を迎えた角田選手は経験が豊富です。これまで培った経験と実力がトップチームのレッドブルでどれだけ通用するのかというのはファンとしては見てみたいし、角田選手だったら難しいマシンも乗りこなせるのではないかという期待もあります。

とにかく鈴鹿サーキットでの日本GPは、角田選手と日本のファンにとって年に1回の特別なレースです。そこで日本人ドライバーがトップチームで走るのですから、もうワクワクしていますし、レースが本当に楽しみ。角田選手には、今持っているすべての力を見せてほしい。ファンとしての願いはそれだけです。

優勝争いは、やっぱりマクラーレンが本命だと思います。鈴鹿でもタイヤのマネージメントをうまく決めて、ノリス選手とピアストリ選手が優勝を争い、表彰台の最後の一角をレッドブル、フェラーリ、メルセデスが争うという図式になると予想しています。

不気味な存在なのはメルセデスです。ジョージ・ラッセル選手は開幕から2戦連続で3位表彰台に上がっていますが、決勝では安定したペースを披露しています。今年のマシンは全体的にピーキーになっていると冒頭で話しましたが、メルセデスはかなり乗りやすいように見えます。だから18歳の新人キミ・アントネッリ選手も力を発揮しています。日本GPでは、メルセデスも注目ですね。

☆取材こぼれ話☆

今年からフェラーリに新加入したハミルトン選手が、中国GPのスプリント予選でトップタイムをマーク。スプリントレースでも一度もトップを譲ることなく、フェラーリ移籍後初の優勝を飾った。

「スプリントレースとはいえ、ハミルトンが勝った瞬間、上海の観客は沸いていましたね。僕もうれしかったです。フェラーリは開幕戦のオーストラリアで戦略を誤り、本来の力を発揮できませんでした。『今年も難しいシーズンになりそうだな......』という雰囲気が漂っていましたが、次の中国のスプリントでしっかりと結果を出して、チームを活気づかせていました。そこが7度の世界チャンピオンに輝いたハミルトン選手のすごさですよね。チームとファンを盛り上げる姿を見て、さすがだなとあらためて感じました」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝

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