日産自動車のトップ、内田誠社長が経営再建の道半ばで退く。業績の低迷、ホンダとの統合協議の破談など、スッタモンダを招いた責任を取るという。では、新社長はどんな人物なのか? 再編の第2幕は?
■クルマ好き新社長の愛車はフェアレディZ
昨年12月、大手メディアがこぞって"世紀の統合"とか"世界3位の巨大自動車連合誕生"などと大騒ぎしたホンダと日産自動車の経営統合交渉は、2月13日に協議打ち切りとなった。
この破談に頭を抱えたのは業績悪化に歯止めがかからない日産のほうだろう。何しろ米国と中国というドル箱市場で新車販売が急減し、今年度(25年3月期)は800億円の最終赤字を見込む。
すでに全従業員の7%に相当する9000人の削減や工場閉鎖などを発表済みだが、仮にこの大リストラ策を進めたとしても、単独での生き残りは難しい状況だ。一刻も早く再建に取り組む必要があるのだが、日産の中の人たちからは、「(経営陣は)決断が遅い」という声が飛び交っていた。
ちなみに19年12月に内田誠社長が就任する前の日産は、約565万台(18年)という世界新車販売台数を誇っていたのだが、昨年は約334万台である。加えて頼みの綱とも言えるホンダとの経営統合交渉も頓挫し、八方ふさがりに。日産社内で内田氏の求心力が地に落ちたのは言うまでもない。
そして3月11日、日産は内田社長の退任(3月31日付)を発表した。オンライン会見に臨んだ内田氏は苦い顔でこう言った。
「私に対する経営責任を問う声が従業員からも出てくるようになりました」
4月1日付で社長兼CEO(最高経営責任者)に就くのはイバン・エスピノーサ氏。46歳のメキシコ人で、日産史上最年少のトップになるという。新社長はオンライン会見でこう意気込んだ。
「日産はこんなものではないと心から信じております」
左ハンドルの現行フェアレディZに乗って通勤しているというエスピノーサ氏。クルマ好きだというが、どんな経歴の人物なのか? 自動車評論家の国沢光宏氏が解説する。
「03年にメキシコ日産に入社し、タイ、欧州などの現地法人の要職を務め、18年に30代で日産の常務執行役員に就任しました。グローバルの商品戦略や商品企画を担当し、昨年4月からは商品企画などの責任者を務めています」
次期社長のイバン・エスピノーサ氏の愛車は現行モデルのフェアレディZ。どの程度のクルマ好きかは不明
なぜ日本の自動車メーカーであり、歴史ある日産のトップに日本人が就かないのか。
「日産関係者をじっくり取材しましたが、どうやらトップに立てる日本人が育っていないようです。また、一部報道などではジェレミー・パパンCFO(最高財務責任者)の名前も取り沙汰されていましたが、彼は日産低迷の元凶とも言える北米事業を担当していた"戦犯"。社長就任は難しかったようです」
気になるのは、新社長の社内評である。
「評判は意外にもポジティブなもので、『いい人』という声を数多く耳にしました。これまでの仕事で大きなミスも犯していないようですね。まぁ、要するに有力候補ではなく、消去法で選ばれたダークホース的な人物ですよ(笑)」
自動車ジャーナリストの桃田健史氏はこう言う。
「エスピノーサ氏は、これまでメディアへの露出も少なく、経営手腕は未知数です」
実は"日産の魂"とも言えるスポーツカー・GT-Rが、今年8月に生産終了という公式アナウンスが2月に流れた。日産ブランド再生には絶対に必要なクルマだ。クルマ好きの新社長がGT-Rを復活させる可能性は?
「次世代モデルは、電動化が必須。復活の可能性はEVですが、他社のスポーツモデルとの差別化が難しい」
今年8月に18年の歴史に幕を下ろす日産の至宝カー、GT-R。このまま消滅の道を進むのか?
次世代のGT‐Rの噂もあった試作モデル、日産ハイパーフォース。最高出力1360馬力
しかし、日産はEV(電気自動車)のパイオニアだ。素人目にはどうにかなりそうな気もするが、国沢氏は首を横に振る。
「世界的な環境規制もあるので、GT-Rを復活させるならEVですが、今から(韓国ヒョンデの高性能EV)アイオニック5Nのレベルを目指すのは、いくらパイオニアの日産でも厳しいと思います。新規開発には最低でも4年は必要ですしね」
■台湾のホンハイが三菱自動車と協業!?
日産の経営再建の課題は山積している。新生日産のかじ取りはどうするべきか。国沢氏はこう提言する。
「日産のエンジニアは非常に優秀です。それを踏まえた上で、エスピノーサ氏が日産愛と人望のある人に各分野をしっかり任せられるかどうか。そうでない人にハンドリングを任せたらまとまるものもまとまりません。
デザインを含めたクルマ造り、販売戦略も抜本的な見直しが必要です。販売店も大改革すべきでしょうね。整備工場だけ残してあとはAIが対応するなど、無駄な手数料は見直すべき」
一方、EVとPHEVの二刀流で、昨年の世界新車販売6位に躍進した中国BYDは着実に成果を手にし、新興国への進撃を開始している。
また、トランプ大統領が掲げる自動車関税の引き上げが発動されれば、日産の業績悪化は不可避な情勢だ。早急な対策が必要だが、日産単独での再建は可能なのか。桃田氏がキッパリ言う。
「難しい。キモとなるのは事業のダウンサイジングですが、日産単独では組織再編に対するメスの入れ方は甘くなる。パートナーとの連携によって、結果的に思い切った組織変革が可能になるはず」
日産の筆頭株主である仏自動車大手ルノーのジャンドミニク・スナール会長が支援の用意を示唆したという報道も出ているが......。
「現状でのアライアンス(提携関係)強化という話でしょう。資金面は未知数です」
そんな中で飛び込んできたのが、日産の買収を狙っていた台湾のホンハイ(鴻海)精密工業から三菱自動車がEVのOEM供給を受けるという報道だ。国沢氏が言う。
「ご存じのとおり、三菱の筆頭株主は日産です。仮にEVを調達するのならサクラ、リーフ、アリアを持つ日産からが筋です。何しろ日産は生産能力を持て余している(笑)。
フツーに考えれば、三菱はホンハイからEVを調達しません。つけ加えると、筆頭株主である日産が三菱の動きを知らないわけがありません」
つまり、日産買収を狙っていたホンハイが戦略を変更してきたという話にも聞こえる。
「仮に日産を買収するのではなく、投資に切り替えたとします。それによりホンハイ製のEVを日産の工場で造り、三菱が売る。日産は生産委託を受けることで痛みを伴う大規模なリストラを回避でき、財政基盤を整えられます」
ホンハイにしても最小限の投資で、日産の工場や販路などを使えるのは、大きなメリットだという。
「国も買収でなければ納得するはず。ホンハイの投資が決まれば、日産の再建課題である資金繰りの懸念も解消し、メインバンクも安心では」
実はホンダとの統合協議を打ち切った日産だが、EVとSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)の提携検討の枠組みは解消していないとか。桃田氏が言う。
「内田氏は、『さまざまな選択肢を模索中』と口にしていました。当然、その中にホンダとの交渉再開も含まれていると考えるのが筋です」
最後に国沢氏が総括する。
「日産のパートナーは、ホンダかホンハイに絞られたと考えていい。日本のクルマ好きはホンダと組んでほしいと思いますが、ホンダからすれば日産の再建は重荷。メインの市場もモロかぶりしているため、日産の工場閉鎖などを行なう必要も。
これがホンハイなら日産は重荷とならない。ただし、どのパートナーと組むにせよ、日産は明確な世界戦略を描き、単独で業績を伸ばす必要がある。日産はここが踏ん張りどころですよ!」
再編の第2幕が始まる!?