今週末、いよいよ鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)でF1世界選手権第3戦日本GPが開催される。
角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手がトップチームのレッドブルから参戦することが決定し、大きな注目が集まっているが、今シーズンのチャンピオン争いの行方や新レギュレーションが導入される2026年に向けてのマシンおよびパワーユニット(以下、PU)の開発はどうなっていくのだろうか。
現在のホンダPUの生みの親である元ホンダ技術者の浅木泰昭(あさき・やすあき)氏に前後編の2回にわたって話を聞いた!
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■レッドブルで速く走れるほうがおかしい!?
――2025年シーズンはオーストラリアで開幕し、マクラーレンのランド・ノリス選手が優勝。続く第2戦の中国GPはオスカー・ピアストリ選手が優勝し、昨年のコンストラクターズチャンピオン、マクラーレンの2連勝でシーズンがスタートしました。
浅木 メルセデスやフェラーリなどのワークス勢はレギュレーションが大幅に変わる2026年シーズンに下手な戦いはできません。開発力を2025年シーズンにそれほど注げないはずなので、2024年シーズン終盤の勢力図がほぼ継続すると思っていました。
逆にカスタマーのマクラーレンは今がチャンスだととらえて、2025年シーズンの開発に注力していく可能性が高い。チャンピオン争いはマクラーレン勢が中心になると予想していたので、上位チームの力関係はおおむね予想通りでした。
私の中でわからなかったのはレッドブルです。昨シーズン、マックス・フェルスタッペン選手は苦しみながらもドライバーズタイトルを獲得しましたが、不振にあえいでいたチームメイトのセルジオ・ペレス選手の成績を見ると、レッドブルの競争力がどれぐらいなのか見えづらいところがありました。ただ今シーズンに関してはレッドブルのマシンの実力を推し量る、いい比較対象があります。
――それはなんですか?
浅木 レッドブルは今シーズンからフェルスタッペン選手の新たなパートナーとしてリアム・ローソン選手を採用しました。彼は昨年、レーシングブルズで角田選手と同じクルマで戦っており、どれぐらいの実力なのかがわかっています。そういう検討材料があるので、レーシングブルズの角田選手とレッドブルのローソン選手の結果を見ると、レッドブルはどれぐらい乗りにくいマシンなのかが、明確になってくると思っていました。
ペレス選手は昨シーズン、レッドブルがフェルスタッペン選手の好みに合わせてマシンを作っていった結果、リアが不安定ですごく扱いづらくなっていると指摘し、あのマシンで速く走れるほうがおかしいんだとも主張していましたよね。
開幕2戦のローソン選手の走りを見る限り、ペレス選手の主張は本当なんだと思いました。結局、レッドブルのマシンは、フェルスタッペン選手以外は速く走れないことを証明しているんじゃないかと感じました。
■予想以上だったレーシングブルズの速さ
――ローソン選手は開幕2戦で厳しい戦いを強いられ、ノーポイントに終わります。特に予選は苦しみ、オーストラリアでは18位、中国ではスプリントと本予選でともに最下位に沈みました。逆にレーシングブルズは好調で、角田選手は2戦連続で予選トップ10に入っています。
浅木 レッドブルの首脳陣は、もともとリアが不安定なマシンはローソン選手よりも角田選手のドライビングスタイルに合っているのはわかっていたはず。わかっていても敢えてローソン選手をフェルスタッペン選手のパートナーにドライバーを選んだ。
逆に角田選手はレッドブルに昇格できなかったことに対して不満を口にせず、レーシングブルズで自分のできることを淡々と続け、すごく上手くやっていたように見えました。
冒頭で今シーズンの勢力図はほぼ想定通りと話しましたが、そんな中で前年コンストラクターズランキング8位に終わったレーシングブルズの競争力の高さは予想を上回っていました。まあ同時に彼らの戦略のまずさも印象的でしたけど......。
――開幕から好調なパフォーマンスを発揮していた角田選手と、不振にあえいでいたローソン選手。このふたりのシートを入れ替えることが第3戦の日本GP前に発表されました。
わずか2戦でのドライバー交代というレッドブルの突然の発表を聞いて、どのように感じましたか?
浅木 権力闘争がある組織では予測不可能な事態が起こる、というのが率直な感想です。レッドブルの創業者ディートリヒ・マテシッツさんがご健在のときは、彼から絶大な信頼を得ていたモータースポーツアドバイザーのヘルムート・マルコさんがドライバーの選択権を握っていました。
ところがマテシッツさんの死後、チーム内でクリスチャン・ホーナー代表との権力闘争と絡まって、誰の権限でドライバーを選んでいるのかよくわからない感じです。
現在、両者は手打ちをしたと言われていますが、権力闘争の状況は外部からは不明です。おそらくホーナー代表もマルコさんも、自分が生き残るのに精一杯で、チームやドライバーのことより大事なことがあるのだと想像します。いずれにせよホーナー代表とマルコさんがチーム内にいる限り、これからも外部の人間にとっては理解し難い状況は続くでしょう。
「ホーナー代表とマルコさんがチーム内にいる限り、これからも外部の人間にとっては理解し難い状況は続くでしょう」(浅木氏)
■"レッドブル"角田選手の可能性
――角田選手にはどんな走りを期待していますか?
浅木 レッドブル昇格の正式発表がある前には、「角田選手がレッドブルに移籍したとしてもレーシングブルズ以上の成績を上げるのは難しいのではないか。無理してレッドブルに行く必要はないんじゃないか」と個人的には思っていました。
それに2025年シーズン以降のことを考えると、必ずしもレッドブルに移籍するのは正しいとは言えないところがあります。F1は2026年からマシンレギュレーションが大きく変更され、それに合わせてレッドブルは自社製のPUを開発・投入して戦うことになります。レッドブル製のPUが初年度からいきなり高い競争力を発揮できるとは思えません。
とはいえ、角田選手がレーシングブルズに残るという選択肢はあり得ません。レーシングブルズはトップチームのレッドブルで戦うドライバーを発掘し教育するのが存在理由という独特のチームだからです。トップチームで走ることができない、イヤだというドライバーは、レッドブルグループから弾き出されるだけです。
今回の人事の背景にはレッドブル内の権力闘争があるかもしれませんが、角田選手はレッドブルで頑張るしか道はないのです。ただ権力闘争の一部を背負うということは、相手陣営からのアラ探しの的となることを意味します。
丁寧に立ち回りながら、まずは「ペレス選手やローソン選手よりも良さそうに見える」程度のところからスタートすることを目指してほしい。できることをしっかりとやり続けてシーズン末までレッドブルのシートを継続できれば、表彰台に上がる可能性は十分に見えてくると思います。
■ハミルトン加入のフェラーリに変化は見えない
――2025年シーズンは、フェラーリに新加入したルイス・ハミルトン選手の活躍に注目が集まっています。第2戦中国GPのスプリントレースではハミルトン選手が優勝を飾っていますが、今年のフェラーリはどう見ていますか?
浅木 フェラーリの社内事情はよくわかりませんが、外から見ている限り、出しゃばって何か新しいことにチャレンジして失敗すると、全部責任を背負わされてしまうようなチームに見えます。そういう組織なのであれば、タイトル獲得はなかなか難しいと思います。万年2位とか3位のチームなのかなと感じています。
チャレンジしてうまく行かなかったとしても、「自分が責任を持つ」というような強力なリーダーが現れたとき、フェラーリは強いチームになると思います。フレデリック・バスールさんが2023年シーズンからトップに就任して2年が経ちました。今年で3シーズン目になりますが、組織が変わっているようには見えません。
――今週末(4月4日~6日)に鈴鹿サーキットで日本GPが開催されますが、どんなレースになると予想していますか?
浅木 真っ当に行けばマクラーレンがワンツー・フィニッシュを飾る可能性が高い。レッドブル陣営としてはフェルスタッペン選手がどうやってノリス選手とピアストリ選手の間に割って入れるのか、という勝負になると思います。
そのためにどういう戦略を立てるのかに注目しています。レッドブルでのデビュー戦となる角田選手は、入賞を狙っていくという戦いになると思います。
※4月4日配信の後編に続く
●浅木泰昭(あさき・やすあき)
1958年生まれ、広島県出身。1981年、本田技術研究所に入社。第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得する。2023年春、ホンダを定年退職。現在は動画配信サービス「DAZN」でF1解説を務める。著書に『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)がある。日本GP開催中の4月5日(土)、 NHK「新プロジェクトX ~挑戦者たち~」で2021年シーズンの浅木氏らホンダF1エンジニアの活躍を取り上げた『走れ 挑戦の魂 ~F1 30年ぶりの世界一~』が放送予定。