マイアミGPのドライバーズパレードには、F1カーを模した電動レゴマシンが登場。決勝では、チームメイトのピアストリに遅れをとり、2位に終わったノリス(写真手前) マイアミGPのドライバーズパレードには、F1カーを模した電動レゴマシンが登場。決勝では、チームメイトのピアストリに遅れをとり、2位に終わったノリス(写真手前)

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE28

マクラーレンとF1参戦3年目のオスカー・ピアストリの勢いが止まらない。第6戦のマイアミGPで早くも今季4勝目を挙げ、チャンピオン争いをリードしている。

F1は今週末にイタリアのイモラサーキットで開催されるエミリア・ロマーニャGP(決勝5月18日)からヨーロッパラウンドがスタートする。多くのチームがエミリア・ロマーニャ、モナコ(決勝5月25日)、スペイン(決勝6月1日)の3連戦でマシンのアップデートを計画しているが、果たして勢力図に変化はあるのか!?

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■タイヤの使い方が勝敗を分けたマイアミGP

第6戦のマイアミGPでは土曜日のスプリントレース、日曜日の決勝ともにマクラーレンがワンツーフィニッシュを決めました。しかも決勝を制したピアストリ選手は、ライバルに約40秒もの大差をつけての圧勝でした。

マイアミでもマクラーレンは速いと予想していましたが、ここまでの差が開くとは......。ほかのチームもショッキングだったのではないでしょうか。

レースでは、タイヤの能力をすべて使い切ることが大事だとよく言われますが、その点においてマクラーレンは現時点で図抜けていて、マイマミでの異次元の速さにつながっていたと思います。

逆に、レッドブルとマックス・フェルスタッペン選手は予選でポールポジションを獲得しましたが、決勝ではタイヤをうまく使えず失速しました。フェルスタッペン選手の予選の一発の速さはさすがですが、決勝では燃料を搭載してマシンが重くなるので、当然タイヤにかかる負担は大きくなります。

フェルスタッペン選手はタイヤのデグラデーション(性能劣化)に苦しめられてペースを上げられず、4位に終わりました。

■角田裕毅選手はすごいことをやっている!!

フェルスタッペン選手とコンビを組む角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手は雨で波乱の展開となったスプリントレースでは最後尾から6位まで順位を上げ、入賞を飾っています。スプリント予選では2度目のタイムアタックが間に合わず、まさかのQ1敗退に終わるなど、担当エンジニアとのコミュニケーションに課題は見えましたが、素晴らしい結果になりました。

ただ日曜日の決勝は、ずっとライブタイミングを見ていましたが、角田選手のペースは上がらなかった。マクラーレン、メルセデス、フェラーリ、ウイリアムズに遅れをとっていました。フェルスタッペン選手は新しいフロアを持ち込んだマシンをドライブしていたので単純に比較はできませんが、チームメイトよりも1周あたり約1秒近く遅かった。

角田選手は決勝で、古巣レーシングブルズのアイザック・ハジャ選手と10位のポジションを争う展開になりましたが、両者のタイムは拮抗していました。この状況に、F1を最近見始めた方や、久しぶりにF1を見る方の中には、「トップチームのマシンに乗っているのに表彰台にも上がれないんだ」と思う人もいるかもしれません。

しかし、さかのぼれば、昨年レッドブルに所属していたセルジオ・ペレス選手は、シーズン終盤はポイントを獲得できないレースが多かった。また今年、開幕2戦にレッドブルから出場したリアム・ローソン選手は一度も入賞することができませんでした。

そんな中、角田選手は予選でQ3に入り、マイアミではスプリントレースで6位、決勝で10位と入賞を飾りました。つまり、これまでとは違い、レッドブルは2台そろってポイントを獲得できる状態にあります。

レッドブルのマシンに慣れるのはもちろん、先に述べたエンジニアとのコミュニケーションを含めて課題はありますが、角田選手は本当によくやっていると思います。それにポールポジションからスタートしたフェルスタッペン選手が4位に落ちているのを見ればわかりますが、今のレッドブルのマシンはトップクラスとはいえません。そんな中で、角田選手が確実にポイントを重ねているのは素晴らしいことだと思います。

■ウイリアムズの躍進で、F1は5強時代に突入!? 

エミリア・ロマーニャGPからヨーロッパでの3連戦が始まります。例年、各チームはここで大がかりなマシンのアップデートを投入してきますが、マクラーレンが圧倒的すぎて、勢力図に変化が生まれそうな雰囲気は正直あまりないですね。

ただ昨シーズン、第6戦マイアミGPでノリス選手が優勝したのをきっかけに、マクラーレンがまるで魔法をかけたかのように急激に速くなっていきました。それが今年、ほかのチームに起こる可能性がないわけではないので、ちょこっとだけ楽しみにしています(笑)。

開幕からの5戦で予想以上の活躍をしているのはウイリアムズです。マイアミGPではフェラーリの2台やメルセデスのキミ・アントネッリ選手を上回る速さを見せ、前戦のサウジアラビアに続いてダブル入賞(5位と9位)を飾っています。マイアミでは、カルロス・サインツ選手が昨年まで所属していたフェラーリ勢とやり合っていた場面が面白かったですね。

僕ずっとウイリアムズのようなプライベーターが元気になればF1が面白くなると言っていましたが、今年に関してはちょっとヤキモキする気持ちもあります。ウイリアムズの2台は角田選手とポジションを争う場面が多いんですよね。ウイリアムズが復活したのはうれしい反面、そこがどうしても気になってしまいます。

このウイリアムズの存在は、レッドブルやフェラーリにとっては脅威ですよね。今シーズンはマクラーレンが飛び抜けて、その次にメルセデスがいて、3番手をレッドブルとフェラーリが競い合う構図でした。しかし3番手グループにウイリアムズが割って入ってきて、今シーズンのF1は"4強"から"5強"という勢力図になっています。

チーム在籍4年目になるアレックス・アルボン選手は、もともと速さには定評がありますし、これで新加入のサインツ選手がどんどんマシンに慣れてくると、ウイリアムズはますます強くなりそうです。ふたりの強力なドライバーがそろった古豪ウイリアムズは、これからのシーズンで台風の目になるかもしれません。

■マクラーレン同士の王座争いはますます面白くなる

開幕からの6戦で4勝を挙げ、チャンピオンシップをリードするピアストリ選手。F1デビュー3年目のまだ24歳ですが、戦いぶりはすごく冷静ですね。感情をあまり表に出さないドライバーなので、正直どういうキャラクターなのかまだ見えていません。

でも、ノリス選手がもうちょっと頑張ってタイトル争いがヒートアップしてくると、これから徐々にピアストリ選手の人間性が出てくるのではないでしょうか。今はまだギリギリのところでポイントを争うような状況ではないので、ピアストリ選手にも余裕があるのでしょう。

「ノリス選手は、今年のマシンに合うドライビングを模索しているように見えますが、ドライバーの強さでいえばピアストリ選手を上回っていると思います」と光一 「ノリス選手は、今年のマシンに合うドライビングを模索しているように見えますが、ドライバーの強さでいえばピアストリ選手を上回っていると思います」と光一

冷静沈着なピアストリ選手とは対照的に、ノリス選手はいいときと悪いときの感情がはっきりと出るタイプです。それはそれで彼のキャラクターなのですが、ダメなときは中継の映像でも冴えない表情をしているのがわかります。

これまでのチャンピオンドライバーの多くは、ある意味、自己中心的で勝利にこだわり、勝つためなら多少はダーティなこともやる、という人が多かった。アイルトン・セナ選手やミハエル・シューマッハ選手はその代表格ですし、フェルスタッペン選手もまさにそのタイプのドライバーだと思いますが、ノリス選手はそうは見えません。

正直そうな人柄で、コース上でもクリーンなバトルをする選手です。もちろん、速さは十分にあって、チャンピオンに相応しい実力を備えていると思いますが、チームを牽引するエースドライバーが自身の不安や弱さを表情に出すと、負の感情がチームスタッフや周りに伝播してしまうのではないかと心配になります。

でも、それは古い考え方なのかもしれません。今はトップに立つ人間が弱さや不安を隠さず、オープンにして戦っていく時代なのかなとも感じています。

とにかくシーズンはまだ長いので、チームメイト同士がもっとやり合って、ピアストリ選手のキャラクターが出てくると面白くなるはず。でも、ふたりのチャンピオン争いは、かつてのセナ選手対アラン・プロスト選手、ルイス・ハミルトン選手とニコ・ロズベルグ選手のような、感情をむき出しにして、時にはお互いがマシンをぶつけあうという対決にはならないような気がします。

もっとスマートでクリーンな新しい時代のチャンピオン争いが見られるかもしれない、そんな期待と予感があります。

☆取材こぼれ話☆

マイアミGPではフェラーリのドライバーが戦略を巡って無線でやり合う場面が見られた。

「フェラーリはハミルトン選手とシャルル・ルクレール選手のどちらがファーストドライバーで、どちらがセカンドドライバーか、というのが明確に決まっていません。だからこそ、レースでは今どちらのドライバーが前を走るべきだ、というチームの意志をはっきりと示して、ドライバーをコントロールする必要があると思います。

今回、ハミルトン選手がチームの判断の遅さに対して『お茶でも飲んでいるの?』と皮肉を述べる場面がありました。実際、フェラーリの判断は遅く、ハミルトンが怒るのは当然ですし、あれは彼の勝利への執念のあらわれだと思います。これまで7度の世界タイトルを獲得したドライバーがせっかくフェラーリに加入したわけですから、彼の勝利に対する強い気持ちや戦う姿勢がチーム全体にフィードバックされてほしいと思っています」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝

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