まだ使える中古家電を発展途上国に輸出するリユース業の現場はきつい。だが、ワケありな若者たちも引き受け、ほとんどが辞めずに事業も拡大、取引先からも公正さで厚い信頼を得るオンリーワン企業がココだ!
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浜屋(埼玉県東松山市)の社員の挨拶は気持ちがいい。初めて会う人間にも「こんにちは!」「ご苦労さまです!」と礼儀正しく声をかける。
よく町中を「中古家電を無料で引き取ります」との回収業者(業界用語で「買い子」)の車が走っているが、回収した家電は浜屋のような業者が買い取り、世界各国に輸出することでリユースされる。
平日と隔週土曜日には買い子の車が並び、社員たちが品別にさばく。忙しいなか、買い子にも郵便配達員にも宅配業者にも社員たちは気持ちのいい挨拶を忘れない。
これを褒めると小林茂社長(59歳)はうれしそうに返してくれた。
「オレは、ウチに来るお客は自分で気づいていないだけで、実は浜屋を喜ばせたい気持ちがあると思うんです。人は金のためだけに働いているんではない。人に喜んでもらいたい自分というものがあるんです。それに応えるためこちらも元気に挨拶するし公正な取引をする。それがオレの理念。でないと、誰も幸せにならないですよ」
現場は夏暑く、冬は寒い。だが、創業から二十余年。辞めた社員はほとんどいない。リストラを実施したこともない。
「5年前のリーマン・ショックで年97億円の売り上げが70億円台に落ち、数人だけの地方の買い取り店舗を閉めたんです。社員には転勤を提示したけど、転勤はできないと何人か辞めました。ショックでした。それからです、何があってもリストラしないと決めたのは」
こんなエピソードもある。数年前、ひとりの社員がある悪さをしてしまい少年鑑別所に入った。
「保護監察官から問われました。『彼をまた雇うか』と。『もちろん』と答えました。ウチには昔ヤンチャやってたのが何人かいるけど、彼らこそまじめに働くことをオレは知っているんです。学校の勉強ができるできないじゃない。経験をどう生かすかです」
この偏見のなさには感心するしかない。浜屋はもともと、まっとうな雇用制度を導入している企業だ。まず社員は原則正社員。そして残業は多くても月20時間台。また2年前から、自宅を購入した社員には30万円の支給を始めた。
「自宅購入は、この土地と職場を離れないという意思表示。そういう社員にはモチベーションを上げてあげたい」(小林社長)
この制度で一時金30万円をもらった社員の藤倉裕樹さん(29歳)は「社長の心意気がうれしかった。仕事はきついけど、残業は少ないし職場は楽しいです」と語る。
浜屋の同業者はそこそこにある。だが、浜屋が断トツの売り上げを記録できるのは買い子の多さに尽きる。その一社に、浜屋を選ぶ理由を尋ねると……。
「公正。そのひと言だね。私らは毎日中古家電を集めてるけど、ちょっとしか集まらないときもある。でも浜屋は一個であれ、不況のときであれ、いつも一定の適正価格で買ってくれる。私の地元の買い取り業者はぼったくる。だから多少遠くても浜屋に来るんだ」
ただ、平均年齢34歳と若い会社だけに社員の昇給を今後も続けるなどの不安要素はないのか?
だが小林社長の考えは明快だ。
「心配するよりもできるところまでやるのがオレの考え。だって、企業は社員のために頑張らなくちゃいけないじゃないですか」
実際、浜屋は動いている。
数年前からリユース事業に加え、有用な金属を取り出すため携帯電話、銅線、IC基板などを回収するリサイクル事業も開始。フィットネスクラブや飲食業の経営も始めた。昨年度の売り上げは87億円まで回復したという。
浜屋統括本部には入社4年目の工藤彩子さんがいる。海外とつながる仕事を、と入社。率直だ。
「割と自由にやらせてもらえるのが魅力です。今は社員のモチベーションアップのため、英検でもなんでも資格取得のサポートに取り組んでいます。ただ、課題は弊社にキャリアアップの仕組みがないこと。若い社員が増える今、それをつくっていきたいですね」
隣で聞いていた小林社長が「工藤さん、つくってよ。現場の社員が今よりもっと高い目標をもって働いてほしいし」とうなずく。
事業は社長の一存だけでは決まらない。逆に言えば、よりモチベーションの高い会社をつくるため若い人の柔軟性に賭ける。小林社長の社員を見る目は優しい。
(取材・文・撮影/樫田秀樹 short cut[岡本温子、山本絵理])