「ぜひNISAを利用して、株主優待で映画を観に行ったり、食事をしたりと、人生を楽しんでいただきたいですね」と語る桐谷広人さん

日本一忙しい“株主優待利用家”こと、桐谷広人さん。現在、400社から株主優待を受け、分刻みで株主優待を消化する生活を送っている。

そんな桐谷さんの投資歴は30年以上。その間に数々の試練を経験してきた投資の大先輩がオススメする、今年1月から始まったNISA(少額投資非課税制度)の銘柄とは?

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ピークの時、3億円くらいあった資産が、リーマン・ショック後は一気に6分の1くらいまで目減りしました。信用取引をしていたせいで、「明日まで証券会社に1000万円払わなければいけない」なんてこともたびたびありました。親にも兄弟にもお金を借りて、そのときは死のうかと思ったくらいつらかったですねぇ。

ちょうどその頃、将棋の世界を引退しました。引退しても将棋連盟からお金は出るのが普通ですが、私は連盟と対立して、一切収入がなくなりました。株は持っていましたが、現金が本当に1円もありません。それで株主優待でやりくりするしかなかったわけです。

優待でもらったお米を炊き、優待でもらった豆腐とすき焼きのタレ、ネギを煮込んでおかずにして、一銭もお金を使わずに食べていました。そんな生活が5年近く続きました。

一昨年末からのアベノミクス相場で、ようやく信用取引の損がなくなったので、私は、ギリギリのところでなんとか踏みとどまった。優待に救われたと思います。

私は18歳で田舎の高校を卒業後、上京してプロ棋士になるまで7年4ヵ月かかりました。超一流の棋士は中学生や高校生でプロになって給料をもらっているから。私は、かなり遅いですね。

プロになるまで、アルバイトで食いつないでいました。毎日1食か2食、インスタントラーメンです。そんな生活をしていたから、株価が暴落しても、5年間、なんとか耐え忍ぶことができたのだと思います。

NISAですか? もちろんやります。家族、といっても私は独身なので、妹にもNISAの口座はつくるように言っています。配当にも税金がかからないし、優待もありますし、3万円から5万円の株でもクオカードの優待がもらえるものもあります。10万円くらいの株で飲食店の優待券がもらえるものもある。

個人的には飲食店の優待が好きですね。食事もできるしお酒も飲める。それに飲食店の原価はだいたい3割といわれているので優待の利回りがとてもいいものが多いですから。

これからNISAを始める人は、株価が高騰している銘柄は避けて、割安で配当利回りがよく優待のある銘柄を買っておけば、もし日経平均が暴落しても、厳しくは下げません。知り合いの投資家さんの言葉ですが、優待のある銘柄はエアバッグ効果があります。株主は優待が欲しいから、少々下がっても気にしません。そういう意味でも優待銘柄はオススメです。

もちろん、株式投資ですからリスクはありますが、100万円の資金で、優待があって5万円で買える株を20銘柄か、優待があって10万円で買える銘柄を10銘柄持っていたら、仮にどこかの会社が潰れても、ほかでカバーできます。

若い皆さんもぜひNISAを利用して、株主優待で映画を観に行ったり、食事をしたりと、人生を楽しんでいただきたいですね。

(取材・文/鈴木英介 撮影/本田雄士)

●桐谷広人(きりたに・ひろと)将棋棋士/投資家。日本一忙しい“株主優待利用家”として、テレビなどでも引っ張りだこの桐谷さん。取材当日も株主優待でゲットしたニッセンの新品ジャケットで登場。「部屋には松たか子さんのポスターが張ってある」らしい。独身

常に専用のポーチに入れて持ち歩いている膨大な株主優待券やクオカードなど。使用期限ごとにキチンと整理されている