注文の前に商品を発送する。
米ネット通販最大手のアマゾンが、われわれ常人には「なんのこっちゃ?」とでもいうべき特許を取得したことが明らかになった。
この特許について、IT分野に詳しい弁理士の栗原潔氏に解説してもらった。
「昨年12月に取得したようですが、日本語では『予測小包出荷』と訳されているようです。普通はユーザーが注文をしてから商品を出荷しますが、この特許ではユーザーが注文するであろうと思われるものを予測して、先に出荷してしまおうという“発明”ですね」
相変わらず斬新すぎる。
「膨大なデータを分析して注文を予測すること自体は、特殊な考え方ではありません。いわゆる予測分析といいますが、この発想は昔からあります。例えば、企業で使われている大型コンピューターでは、そのサーバーの状況などをネットワーク経由で監視して、壊れそうな兆候が少しでもあれば、そのパーツを壊れる前に交換することはよくあります。ただ、商品の注文が確定する前に出荷してしまおうと考える人はそういないでしょうね」(栗原氏)
「流通の世界でも、予測分析のようなことは昔からされてきた」と言うのは、物流コンサルタントの田村隆一郎氏だ。
「ただし、経験や勘を頼りにしたものも多かった。だから、当たらないことも多いわけです。例えば、昨年の10月、11月頃は暖かい日が多かったですよね。だから、アパレル業界では『今シーズンは冬物は売れない』といわれていました。ところが、実際には例年になく寒い。これまではそのように分析するデータが大きな固まりだったんですね。それが、アマゾンはひとりひとりの検索履歴や過去の購入実績など、あらゆる消費行動から需要を予測するわけです」
いわゆるビッグデータを活用することで、顧客の需要を予測する精度を上げ、満足度を高められる。
「ネット通販では、購入ボタンをクリックしてから実際に商品が届くまでの時間、リードタイムといいますが、これが長くなればなるほどキャンセルが多くなるんです。ネット通販にとってはリードタイムをいかに短くするかが重要なのです」(田村氏)
リードタイムの短縮を突き詰めると、その究極の形は「注文の前に発送」になるというわけだ。
とはいえ、注文もしていない商品がある日突然届くというのは、なんとなく抵抗がある。
「消費者の心理として、押しつけられるのはいやなんですね。あくまで自分が選んだものに満足する傾向があります」(田村氏)
また、キャンセルされたら輸送コストも無駄になる。アマゾンはどこまで考えているのだろう。田村氏はこう見る。
「需要を予測して、そのままユーザーまで届けてしまうのではなく、その一歩手前までモノを届けておくことで、リードタイムの短縮を図るというのが現実的ではないでしょうか。つまり、アマゾンの巨大倉庫から配送業者のハブステーションまでは予測に基づいて商品を運んでおく。そうすれば、注文確定から30分以内に届けることも可能です。現実路線としては、紙おむつやミネラルウオーターなど繰り返し購入する日用品、また、コミックの新刊などといった続き物には向いていますね」
そんな田村氏の見立てに、前出の栗原氏もこううなずく。
「アマゾンの取得した特許では『商品をユーザーまで届ける』とはなっておらず、あくまで『行く先を決める』となっています」
実際の運用についてはまだまだ未知数なことが多いが、昨年発表した無人航空機での荷物の配送といい、アマゾンのアイデアこそ予測不能だ。
(取材・文/頓所直人)