ドン・キホーテ吉祥寺駅前店の竹下慎哉店長によると、「ドンキでは“売り場”ではなく“買い場”と呼ぶ」とのこと。そこには、徹底した客目線の発想がある

第1号店(東京・府中)の開店から24年、昨年ついに店舗数が200を突破した激安の殿堂、ドン・キホーテ。

扱う商品数の多さ、そして安さは誰もが認めるところだが、他店とまったく異なるのが、店内の独特の雰囲気だ。実はここに、ドンキが急成長を続ける秘密がある。東京・吉祥寺駅前店の竹下慎哉店長が解説する。

「まず最初にお話ししたいのは、ドンキ内部では商品を陳列している場所を売り場ではなく『買い場』と呼んでいることです。売り手目線ではなくお客さま目線で、いかに楽しい買い物の場所になっているかという発想で店をつくっているからです。その意味でも、店に入って最初に目につく値札やPOPの見せ方には徹底的にこだわっていますね」

ドンキの値札といえば、イメージは黄色い紙に赤い字。そのカラーリングにも理由はある。

「黄色の紙を多用するのは、やはり目立つからです。また実は、同じ黄色の紙に赤字の値札でも、数字が活字のものと、手書きのものがあります。特にお安いものや、オススメの商品は手書きを選ぶことが多いですね。見比べていただければわかりますが、手書きの赤字で値段を書くのが実はいちばん目立つんです」(竹下店長)

商品のPOPに関しても、各店舗に「POPライター」という専門スタッフがおり、じっくり読ませるよう、タイムリーなネタや地域性を生かした文言が書かれている。

そして、店内の陳列にも秘密は隠されている。竹下店長が続ける。

「陳列の方法にもテクニックがあります。フロアの構成上、足が止まりやすい“滞留場所”に突き出し陳列棚を設置して、お買い得品や話題の商品を置くのはもちろんですが、ほかにも天井まで商品を陳列するなど、『あれっ?』と思わせるような仕掛けをします。

また、『買い場』の通路には、フロアの端まで見渡せる直線をつくらないように心がけます。そのほうが店内を歩くスピードに緩急がつき、足を止めていただきやすいと思うんです」

独特な店作りを支えているのは、担当者に与えられた裁量権

そして、値札と同じように陳列された商品のカラーも目立たせるために利用しているそうだ。

「実際に最も数が売れるのはベーシックな色であることも多いんですが、それでも目立つ色や蛍光色などの商品を前に出します」(竹下店長)

売れ筋を差し置いて奇抜なものを前に出すというのは怖くないのだろうか?

「怖いです(笑)。しかし、いくら人気商品や話題の商品を置いても、気づかず目の前を通り過ぎてしまわれるのが一番悔しいわけです。やはり『ここにある!』というアピールが最優先。一度足を止めてもらえれば、『欲しい色がないかな?』と見ていただける可能性が高いですからね。それに、人は華やかな色を見ると気分が高揚します。お客さまのテンションをいかに上げ、“買い物モード“に入れるかというのも、店づくり全体の大きなテーマなんです」(竹下店長)

こうした独特の店づくりの源泉となっているのは、アルバイトスタッフも含めた各「買い場」の担当者に、配置や商品展開の判断に関して大きな裁量権が与えられていること。つまり、本社はもちろん店長の許可をイチイチ得る必要がないため、同じ日の朝と夕方で全然違う陳列になっていることも珍しくないのだという。

店を出たらなぜか目的の商品以外を買っていた――そんな衝動買いのテンションを生む、迷い込んだら終わりの“買い物ジャングル”には、こうした秘密が隠されていたのだ。

(取材・撮影/近兼拓史)

■週刊プレイボーイ16号「12ページ特集 店に入った瞬間、どこからともなく感じる『ドンキっぽさ』をつくり出す7つの秘密」より