「最初はディスカウント業界なんて全然やりたい仕事じゃなくて、とにかくふてくされていた」という遠藤氏。それが今では9店舗を統括する管理職に

求人に「年齢不問」「学歴不問」などと書いてあっても、実際は違う……ということの多い日本社会。しかし、ドン・キホーテではどうやら“ガチ”らしい。それを体現する統括店長のヒストリーを聞いた!

■30歳でドンキへ。32歳で再びドンキへ

「学歴もなければ、もちろんディスカウント業界での経験もなし。それどころか、30歳で社会人経験すらなくて、名刺の渡し方も知りませんでした」

現在、西東京支社で9店舗の統括店長を務める遠藤祐亮氏は元ミュージシャン。19歳でデビューし、26歳で業界から足を洗うまで9枚のCDを出した。

「そうはいっても音楽だけでは食えなくて、フリーターでしたよ。音楽をやめてからも、『このままじゃまずい』と思いながら、日本と東南アジアを行ったり来たり。新卒できちんと働いてる同世代がまぶしく見えました」

30歳になった2008年、結婚を機に「いよいよヤバい」と思い立った遠藤氏。当時、ドンキの新規事業だったコンビニ弁当部門の求人に「なんとなく」応募したところ、「面白いヤツだ!」と採用された。

「でも、すぐにその事業が撤退に(笑)。そこでドンキ本体のディスカウントへ回されたんですが、やりたい仕事じゃない!とトンガって、1年ちょっとで辞めました」

普通なら、ここでドンキとの関わりは終わりだろう。

その後、友達とラーメン店を始めたが、やはりなかなか未来が見えない。そんな頃、かつての上司から「総菜の新部門をつくるから、リベンジしないか」と誘われる。

2010年、再びドンキへ。

「せっかく採用した30歳の社会人未経験者が机を蹴っ飛ばして辞めたのに、また誘ってくれる。器のデカい会社ですよ(笑)。ところが、またしてもその新規事業が中止に……(苦笑)」

1週間で「東京某店の店長をやれ」という指令が

今度は「せっかくだからちゃんとやってみるか」と、ディスカウントの現場で働き始めると、わずか1週間で「東京某店の店長をやれ」という指令が下る。

「あり得ないですよ(苦笑)。『俺の強みはドンキに染まっていないこと。独自路線で成り上がってやる』と腹をくくりました。例えば恐ろしいほど安いクーポン券を配って、どれだけ長い行列をつくれるか挑戦したり。でも、自分では反骨精神のつもりだったけど、会社はそれも面白がってくれちゃったんですね(笑)」

その後、別の店舗に異動し、自ら学んで「数値分析」という得意分野を手に入れた遠藤氏。“反骨の店長”から“IQ店長”へのキャラチェンジを経て、結果を残して統括店長に昇格、現在に至る。

「メコン川のほとりで野垂れ死んでもおかしくなかった人間ですからね。今でも『俺、何やってんのかな?』とふと思いますよ。ウチの両親なんて、僕の名刺を神棚に飾ってますから。

ドンキには本当にいろんなタイプの人がいますが、ある意味、弱点も含めて認めてくれて、仕事を任せてくれちゃう。そうすると、とにかく背伸びしないといけない。身なりとか、言葉遣いとか、まず外側から変えていったら、人格もだんだん変化していきました。結局、自分は最初からずっと、ドンキの大きな手のひらの上で転がされていた。魔力がありますよ、この会社には(笑)」

藤氏のような“人生リスタート型”は決して特別な存在ではなく、ドンキには30歳、35歳といった年齢で初めてディスカウント業界に入り、バリバリ仕事をこなす人材も少なくないという。

看板に偽りなしの「年齢・学歴・経験不問」。厳しい競争の門戸は、誰にでも開かれているようだ。

(取材・文・撮影/近兼拓史  撮影/五十嵐和博)