エヴァ、ハルヒ、艦これの新作アニメが、ニコニコ動画を通じて世界配信される日が、やってくるかもしれない……。

5月14日、映画、アニメ、ゲームなどで豊富なコンテンツを持つ出版大手のKADOKAWAと、会員数約3900万人を持つインターネット動画配信サービス大手のドワンゴが経営統合し、新たな持ち株会社「KADOKAWA・DWANGO」を設立すると発表した。

そして、その記者会見の席で、ドワンゴの川上量生(のぶお)会長が「今、競争はグローバル化しているんです。そのなかで日本のコンテンツ業界はグローバル化をどうやろうかというのが現状です」と語り、KADOKAWAの角川歴彦(つぐひこ)会長は「日本から世界に対抗できる会社が生まれた」と語った。

新聞・テレビなどのマスメディアなどでは、あまり大きく報じられなかったニュースだが、2社の会長が“日本代表”のような発言をした裏にはどんな意味があるのだろうか?

情報社会・メディアに詳しい社会学者の濱野智史(さとし)氏に聞いてみた。

「発言からもわかるように、KADOKAWAもドワンゴも世界に打って出たいんです。今回の統合は、2社が世界にコンテンツを輸出するためにとった戦略です。

KADOKAWAが、自分たちのコンテンツを独自で世界に送り出すとしたら、字幕をつけて映画を上映するとか、各国のテレビ局で吹き替えのアニメを流してもらうとか、翻訳版の書籍を出すとか、ワンステップが必要になりますよね。でも、ドワンゴのプラットフォームを使えれば、それが一発で簡単に世界に発信できるわけです。

一方のドワンゴはインフラ中心の企業です。自分たちでがっつりコンテンツを作るというよりも、ユーザーからの投稿などをコンテンツにすることが多い。ドワンゴ自体は、映像やアニメなどの作品はあまり作っていないんです。

そこで2社が、お互いの苦手な部分を補って、日本から世界にオリジナルのコンテンツを発信しようとしているんです」

でも、アニメや映画などの優良コンテンツを持っている企業は、何もKADOKAWAだけではない。なぜドワンゴはKADOKAWAを選んだのか?

KADOKAWA・DWANGOのライバルは日本にいない?

「KADOKAWAは、以前からネットに対する理解がすごく高かった。例えば、2008年、動画サイトにアップされた涼宮ハルヒなどのマッドムービー(複数のアニメを別の音楽とともに再編集すること。多くは著作権者に無断で制作される)に関して、ほかのコンテンツホルダーはすべて削除依頼をしているのに、KADOKAWAは、悪意のないものは公認ムービーとして扱っているんです。08年といえば、ニコニコ動画がスタートした翌年。その頃から、ネットの影響力や可能性を高く評価していたわけです。

また、ドワンゴのほうも上場前の十数人の社員の時代から、現KADOKAWA取締役相談役の佐藤辰男氏を役員に入れていますし、10年には業務提携、11年には資本提携をしています。それだけ親密な関係だったんです。だから僕は、この2社の統合のニュースを聞いても驚きませんでしたし、10年の時点で一緒になっていてもおかしくないと思っていました。まあ、今回は満を持して、ということなんでしょう」(濱野氏)

では、今後、KADOKAWA・DWANGOは、どのような海外展開をしていくのだろうか?

「まずは、これまで勝手にアップされ、海外に配信されていたアニメなどのコンテンツを、ドワンゴのプラットフォームを使って、きちんとしたお金の流れをつくろうとするでしょう。例えば、ニコ動を見れば、オフィシャルのきれいな映像の『涼宮ハルヒ』の新作が見られるというように。また、会見では『日本から独自の文化を発信していこう』と言っていますよね。川上会長は11年にスタジオジブリに入社しているので、今後はジブリと一緒にジブリアニメを世界に発信していくなんてこともあり得るかもしれませんね。ほかにも、もっと協力していく日本のコンテンツ企業は増えていくでしょう」(濱野氏)

そうなると日本でのライバルは、どんなメディアになるのか?

「日本にライバルはいないでしょう。ライバルはディズニーとYouTubeですよ。それにKADOKAWA・DWANGOが海外で成功するかしないかに日本の命運がかかっていると思います。いわゆる“モノ作り”だけでは、世界に対抗できませんから。今、日本でニコ動に匹敵する動画サイトはありません。KADOKAWA・DWANGOがまさに“日本代表”だと思います」(濱野氏)

“コンテンツ日本代表”の戦いは、今年10月、KADOKAWA・DWANGOが設立されたとき、キックオフを迎える。

(取材・文/村上隆保)