安倍政権が改正を狙う「労働者派遣法」。複雑でわかりにくい派遣の仕組みが簡潔になると評価する声がある一方、野党や労働者団体からは「永久ハケンを生む」「正社員切りにつながる」と強硬な反対論も巻き起こっている。
改正されると、いったい何が変わるのか? そのポイントはいくつかあるが、最大の変更点はズバリこれだ。
「すべての職種で、人や部署を変えれば、企業は原則として派遣の受け入れが永久に認められる」
現在の法律では、後述するソフトウエア開発や翻訳など専門性の高い26業務を除き、ひとつの事業所などで同じ業務の派遣労働者を、3年を超えて受け入れることはできない。これは、派遣はあくまでも臨時・一時的な雇い方であって、正社員に置き換わってはいけないとの大原則があるからだ。専門的には「常用代替の防止」という。
もし派遣社員が優秀で、3年を超えても引き続きその人に働いてもらいたかったら、派遣先は直接、雇用をしなければならない。勘違いしやすいが、別の派遣労働者に入れ替えるのもダメだ。あくまでも同一事業所での「派遣」受け入れが最長3年なのだ。
だが改正案では、この受け入れ期間を事実上、無制限にしようとしている。法案の説明にはこうある。
「派遣先の同一の事業所における派遣労働者の継続的な受入は3年を上限とするが、受入開始から3年を経過する時までに過半数労働組合等から意見を聴取した場合には、さらに3年間延長可能とする(その後の扱いも同様)」
つまり、その会社の労働組合がOKといえば、永久的に派遣の受け入れが可能になる。だが、労働組合といっても会社の言いなりの御用組合が多かったり、そもそも中小企業には労働組合がないケースもあったりする。
その場合は、「職場で管理監督者に該当しない人から選ばれたひとりに、引き続き派遣を受け入れてもいいかを聞けばよいのです」(厚労省需給調整事業課)。
しかし、その選ばれたひとりが労働者の立場でどこまで会社にものが言えるかは疑問だ。となると、企業がいつでも首切りができて、コストも安い派遣労働者をずっと使い続けようとする可能性は非常に高い。
専門26業種は、2014年の現状に則しているのか?
現在、3年を超えても同じ職場で働くことが許可されている専門26業務が以下になる。
ソフトウエア開発関係、機械設計関係、放送機械操作関係、放送番組等の制作関係、事務用機器操作関係、通訳、翻訳、速記関係、秘書関係、ファイリング関係、調査関係、財務関係、貿易関係、デモンストレーション関係、添乗関係、建築物清掃関係、建築設備運転等関係、受付・案内、駐車場管理等関係、研究開発関係、事業の実施体制の企画、立案関係、書籍等の制作・編集関係、広告デザイン関係、インテリアコーディネーター関係、アナウンサー関係、OAインストラクション関係、テレマーケティングの営業関係、セールスエンジニアの営業、金融商品の営業関係、放送番組等における大道具・小道具関係。
1996年に定められたこれらの業種。専門的な知識が必要で、正社員の職を脅かさない業務を選んだとされるが、なかにはパソコンなどの事務用機器操作や、案内、受付など、これが専門的? と首をかしげたくなるものも含まれている。そのため現場の混乱を招き、拡大解釈による違法派遣が横行する一端ともなった。
1986年に施行されて以来、何度も改正されてきた労働者派遣法。ニッセイ基礎研究所生活研究部の松浦民恵(たみえ)主任研究員は、その問題点をこう指摘する。
「派遣労働とはどんな働き方なのか十分な合意がないまま今まできたのが一番の問題。考え方が定まっていないから中身がブレ続け、時の指導者の解釈で変わってしまうのです」
景気の波や政権交代により、迷走を続ける労働者派遣法だが、振り回されるのはいつでも労働者だ。
(取材/桐島 瞬)
■週刊プレイボーイ25号「『労働者派遣法改正』で“永久ハケン”“正社員切り”が激増!?」より