ようやく景気回復と思ったら、今度は「人材不足」が深刻化? もしそれが事実なら、転職を考える人には有利なはずだ。今、勝負に出てもいいのか。それとも慎重になるべきか。転職支援サービス『DODA』編集長の木下学氏に聞いた。
■2020年東京五輪まで転職市場は活況!
転職市場は、リーマン・ショック後の2009年に求人件数がドンと減り、その後は緩やかに増加してきました。
それが13年1月から急激に増え、今年に入っても勢いが止まらない。例年、4月にはいったん落ち着きますが、今年は各社とも採用意欲は旺盛なままですね。求職者も増え続けており、実に活況といっていいでしょう。中長期的に見ても、2020年の東京オリンピック開催まではこの状態が続きそうです。
そもそも、企業というのは成長していきたいわけですが、定年退職を含め、従業員のなかに辞める人は必ずいます。加えて、業界を問わずどこも人材不足ですから、採用活動をし続ける。さらに、好況を背景に「今が攻め時」とみる企業も多く、こうした状況を後押ししています。
求職者については、かつてはなんらかの理由で会社を辞めた、あるいは辞めさせられたので、早急に次の仕事を探すという人が中心でした。でも今は、現在の仕事をしながら、「いい転職先があれば移ろう」と機会をうかがっている人が増えています。
転職理由も、これまでは「自分自身や職場の将来に不安を感じている」などのネガティブなものが多かったのですが、今は「やりたいことがある」「もっとチャレンジできる環境を探している」といったポジティブな方向に変わってきています。
今ならやりたかった仕事に就ける可能性も高い
■氷河期世代がリベンジ転職を狙う
転職希望者は20代が中心ですが、30代以上の方も増えています。「スキルがあれば、もっといい職に就(つ)ける」という欧米的な考え方が浸透したこともあり、2回、3回と転職を繰り返してエグゼクティブにステップアップしていく方もたくさんいます。
私は「キャリアにならないキャリアはない」と思っています。ですから、5年でも10年でもいいので、社会人として過ごしてきた経験をぜひ生かしてほしい。自分の武器を見つけて、さらに磨いていこうというチャレンジ精神があれば、いくらでもチャンスはあります。世の中に必要とされる何かを身につける努力をしている人は、転職もうまくいくでしょう。
また、社会人としての経験が浅くても悲観することはありません。経験値が高い即戦力が求められ、40歳前後でも採用するようになってきている一方、中途採用でも育てていこうという企業も増えているからです。
特に20代にとっては未経験の業界、職種にチャレンジしやすくなっています。
現在、社会人5年目くらいの人は、就職氷河期でなかなか内定をもらえず苦労した世代です。当時は狭き門の就職戦線で敗れ、納得のいかない就職をしたものの、状況が好転したため、リベンジを狙って転職活動をしている人も少なくありません。
今なら小さい頃からの夢を叶(かな)え、やりたかった仕事に就ける可能性も高くなっていると思います。就職せずになんとなくフリーターを続けてきた人、夢を追いかけてアルバイト生活のまま今に至ってしまったけど、「やっぱり正社員として働きたい」という人にとっても大きなチャンスなのではないでしょうか。
転職して何を得たいのかを明確にすること
■口コミサイトより自分で集めた情報を
もちろん、求人が多いからといって、簡単に採用が決まるわけではありません。人気の企業やポジションともなれば、同じように虎視眈々(こしたんたん)と狙っているライバルも多い。
企業側も“いい人材”を求めているので、採用に値する人が見つからなければ妥協せず、粘り強く探し続けます。「ただ、なんとなく」とか、「今の課長が嫌い」などという理由で好条件の転職ができるほど甘くはありません。
まずは、転職して何を得たいのかを明確にすることです。これが曖昧(あいまい)で、初年度の年収や会社の名前に左右されると、転職後も以前と同じ不満を抱えることになるでしょう。
何をもって成功とするかは人によって違いますから、年収が上がっていくことが必ずしも成功とは限りません。逆に、転職して年収は下がったけれど、プライベートが充実して幸せな生活を手に入れたという人もいます。
注意したいのは口コミサイトです。社内のよくない評判が書かれていても、実際に働いている人の8割は幸せを感じているというケースも多くあります。人の意見に惑わされて本質を見失うことなく、自分の目と耳で情報を見極めることが大事ですね。
(取材・文/宮崎俊哉 山田美恵)
●木下 学(きのした・まなぶ) 慶應義塾大学商学部卒業。2000年、株式会社インテリジェンス入社。事務派遣領域(現・派遣ディビジョン)で法人営業に従事し、07年より人事部門の新卒・中途採用責任者を経験。09年、人材紹介サービスを手がけるキャリアディビジョンに異動、関西地区責任者、部門人事の責任者を経て、12年、『DODA』編集長に就任
■週刊プレイボーイ36号「総力特集13ページ! リベンジ転職のための業界天気予報」より(本誌では、業種別の最新転職情報も掲載!)