ホントに景気回復しているのはどこだ? 転職先として気になる各業界の現状と先行きをインサイダー&専門家の声を聞いて予測する!

景気回復に対する期待感で国民の消費意欲が上がっていることから、小売業界の業績はおおむね良好だ。

4月1日からの消費増税で売り上げの落ち込みが懸念された総合スーパーや百貨店が、「思っていたほどではなかった」と、小売業のコンサルティング&プロデュースを手がける生地(おち)雅之氏(オチマーケティングオフィス代表)は分析する。

「消費増税前の駆け込みで、3月までは軒並み高い業績だったので、4月以降の落ち込みは想定内。7月になっても3月までの貯金を使い果たすことなくプラスで推移できているわけですから、予想していたよりも悪くなかった。やはり、アベノミクスの追い風があるからでしょうね」

日本経済新聞の「2014年夏のボーナス調査」によれば、全産業の平均支給額は昨年夏に比べ8・48%増。7%台だったバブル期の1989年、90年を上回る高い伸び率を記録しており、今年後半以降はさらに個人消費の増加が見込める。

なかでも、回復傾向のトップを走っているのが百貨店だ。

「この夏のボーナス金額を見た瞬間、軽く跳び上がりました(笑)。つくづく景気回復を実感しましたね」(大手百貨店の女性店員)

不安材料はネット通販

従業員がそう喜ぶように、日本百貨店協会が発表した2013年の全国百貨店売上高(全店ベース)は6兆2171億円。店舗数が減少した分を調整しない単純比較では1.2%増と、1997年以来、16年ぶりに前年を上回った。これは株価上昇による資産増効果、外国人旅行者の増加などで宝飾・貴金属品が大きく伸びた結果であり、長期の低迷からはほぼ回復したといえる。

また、景気が冷え込んでいた時期から比較的安定していた駅ビルや大型ショッピングセンター、アウトレットモールなどのデベロッパー系も好調を維持している。

「デベロッパーは在庫を持たないため、損をしない仕組みが出来上がっています。よほどの経済危機でもない限り、この先5年、10年は安定した状態をキープできるでしょう」(生地氏)

ただし、長期的に考えると小売業界にも不安はある。原因は年々市場規模が拡大しているネット通販だ。

「今後は、ネットと実店舗を融合させるオムニチャネル化への取り組みを加速させ、販売減少を食い止めなければなりません」(生地氏)

百貨店に比べ、スーパーマーケットは苦戦を強いられている。輸入原料費や加工食品代の高騰、激しい価格競争などマイナス材料は山積み。

大手チェーンでは、利益率が高く、価格志向が強い消費者にウケがいいプライベートブランド商品を積極的に取り入れているが、本業の総合スーパーや食品スーパーとしてではなく、同時に手がけるデベロッパー事業が辛うじて業績を支えているというのが実情だ。

目先の数字にとらわれるな!

このように、全体では晴れときどき曇りの小売業界への転職について、生地氏は「目先の数字にとらわれるな!」とアドバイスする。

「“上に行きたい”“企業と共存して自分の力を発揮したい”と思うなら、まずは人材育成など企業の基盤をしっかり分析することです。例えば、大手百貨店グループ4社でいえば、三越伊勢丹ホールディングスは去年4月から今年3月までの営業利益はトップではありませんでした。しかし、企業として人を非常に重視していて、人材育成に力を入れています。現に、なるほどと思わせる優秀な社員さんがたくさんいますから」

飲食業界と並んで、「ブラック企業が当たり前」と思われがちな小売業界。転職先として考えるなら、名前や大きさだけでなく企業の姿勢を見極めることが重要だ。

■週刊プレイボーイ36号「総力特集13ページ! リベンジ転職のための業界天気予報」より