アベノミクス効果で不況を脱し、好転したといわれるニッポン経済、実感はないが人手不足は本当らしい。では“上り電車”に乗り換える? というわけで、転職先として気になる各業界の天気予報をインサイダー&専門家の声を聞いて予測するシリーズ最終回!
■人手不足で求人は多いが、カテゴリーによって格差が!
ファッション業界は現在、三極化が鮮明になっている。
最も活況を呈しているのは高級ブランド。景気回復の恩恵を最大限に受けている富裕層が、ラグジュアリーな服や小物を思うがままに買いまくる。
一方、デフレ育ちの若者は洋服のコモディティ(日用品)化が進み、ユニクロやH&Mなどのファストファッションがマーケットを形成した。
そして、そのはざまで苦しんでいるのが、ビームスやユナイテッドアローズなどのミッドプライスゾーンの企業だ。ビームスの若手社員が悩ましげに話す。
「ビームスは安くもないし、すごく高くもない。要は中途半端なんです。10代、20代はうちの店で流行をチェックし、ファストファッションで同じような服を買う人もいる。ミッドプライスの店はショールーム化が進み、お客さまがネットに流れるばかりです」
連動性が高い小売業との関係でいえば、ショッピングモールや駅ビルにテナントを置くデベロッパー系は好調だが、問題も抱えている。小売業のコンサルティング&プロデュースを手がけるオチマーケティングオフィス代表・生地雅之氏がこう語る。
「いわゆる百貨店系のアパレルメーカーは独自ブランドでショッピングセンターやアウトレットモールにも進出して頑張っていますが、どこも厳しい。百貨店で植えつけられた品質へのこだわりや、ガッチリしたデザインから脱却できていません」
洋服好きには門戸は開いている!
そうした大手メーカーに比べれば、ブランドイメージを確立しているビームスなどのほうが状況はいいはずだが、前出のビームス社員は30歳で年収400万円台。
「最近の若いコは収入や安定しか見ていない。業界への就職希望者が少ないから新卒は取り合いで、人手不足です。給料は高くなく、よほどの洋服好き以外にはオススメしませんが、転職先という意味でいえば働き口はたくさんありますよ」(前出・ビームス社員)
洋服好きにとっては楽しい職場なのだが……。
■業績好調でイメージもいいが、景気がよくなれば仕事は過酷に
今年に入って国民の財布のヒモが緩み、旅行客は国内、海外ともに増加中の旅行業界。人気は“プチぜいたく”で、遠いヨーロッパへの旅行者はまだ少ないが、気軽に行けるハワイ、グアム、サイパン、東南アジア、国内では沖縄が好調だ。
会社の慰安旅行、趣味のサークルや町内会旅行などが復活する一方、日本にやって来る外国人客も大幅に増加している。デフレ時代よりワンランク上のホテルに宿泊する客も多く、「客単価は上がるばかりです」と旅行代理店はホクホク顔だ。
しかし、大手のH.I.S.で働く30代社員の表情はさえない。
「忙しくなっても、給料はスズメの涙ほどしか上がりません。夏のボーナスもガッカリでした。社員同士でファミレスの飲み放題に行き、『うちは格安旅行会社だから、給料も格安か……』とグチをこぼしています」
忙しくて自分は旅行できない…
彼の年収は約300万円。旅行客の増加で一気に仕事量が増え、近頃は日付が変わるまで働くことも珍しくない。
「実力のある人は上に行けるチャンスかもしれませんが、僕らはお客さまのケアなどやることが多すぎ。日常の仕事に忙殺され、新しい提案をする余裕なんてありません」と嘆き節だ。
とはいえ、旅行会社は昔も今も人気業界。人材採用サービス会社「学情」が実施した2015年卒就職人気ランキングではJTBが1位、H.I.S.も9位にランクイン。転職できたらラッキーな気もするが……。
「旅行を仕事にしたいというなら、独身が条件。既婚者は労働量の多さと経済的な面で厳しいでしょう。それと、『旅行会社で働いているんだから、どんどん旅行に行けるね』と言われるでしょうが、有給休暇なんてほとんど取れないから、まず旅行に行くなんてことはできません。お客さまの旅行プランを立てて、自分も行った気になるくらいが関の山です」(前出・H.I.S.社員)
旅行好きというだけで転職すると、思わぬ落とし穴がありそうだ。