iPhone6がついに発売された9月19日、16時10分頃。「大阪・心斎橋(しんさいばし)のアップルストアに100人くらいの中国人が押し寄せ、一部が暴れている」と警察に通報があり、パトカー十数台が出動する大騒ぎになった。

その当日朝、店の前には、ヘビのようにきっちり並んだ客の細長い行列。ところが、その“胴体部分”に、まるでツチノコのように不自然な膨らみがいくつもできている。問題を起こしたのは、2列というルールを完全に無視して陣取っている、このツチノコ部分の人々だった。

彼らは行列に割り込んできた中国人グループ。その多くが若い男性である。

一方、ストアの入り口近くでは、“元締め”という雰囲気をプンプンにまき散らすロレックス&腹の出た中年の中国人オヤジがうろうろ。順番に入店する中国人たちに「金色的plus!」(金色のiPhone6 plusだぞ!)と、購入機種を念押ししている。

その横では、iPhone6を2台ずつ持って出てきた4人の男性を、中国人と思われる男性ふたりが両側から挟んで足止めし、一台残らず回収。さらに、その周囲には、「ひとりも逃がさんぞ!」という眼光で待ち構える怖そうな中国人が4人……。彼らは、店から出る日本人客にも「iPhone6高価買い取り!」というチラシを見せている。

つまり、行列に並ぶツチノコ軍団は、雇われの“買い子”。出入り口近くのロレックス男たちは、いわゆる回収屋なのだ。彼らは回収したiPhone6を路側に止めたクルマにどんどん運び込んでいく。その様子を写真に撮ろうとした日本人は、中国語で恫喝(どうかつ)されていた。

発売日の早朝6時前、中国人集団に割り込みされたという古着屋店員のAさんは、そのときの恐怖をこう語る。

「いきなり大声で中国語を話す4人の男が前に入ってきたと思ったら、すぐに20人くらいの中国人がワラワラと現れ、そのまま割り込んできたんです。『何やってんだよ!』と言うと、いっせいにニラまれました。後ろの日本人も『ふざけんな!』とか言ってましたけど、まったくお構いなし。

それでも文句を言い続けたら、元締めっぽいヤツが、いきなりスマホでボクをカシャッと撮ったんですよ。あれは『おまえの顔は覚えた。騒いだらわかってるだろうな』ってことですよね。多勢に無勢、とてもかないません」

日本の円安も助長していた!

いくらなんでも、ここまであからさまな組織的な買い占めは過去のiPhoneシリーズの発売日には見られなかった。中国の転売ビジネス事情に詳しいジャーナリストの程健軍(チェン・ジェンジュン)氏が、その理由を教えてくれた。

「最初から予想された事態ですね。理由はいくつかあります。ひとつは、今回初めて日本でもSIMフリーのiPhoneが発売されたこと。中国では、みんなプリペイドのSIMでスマホを使います。キャリアにこだわらず、そのときどきで一番通信料が安いSIMを選びたいからです。これまで中国の転売人は香港や台湾、アメリカで仕入れていましたが、今回は晴れて日本も仕入れ先になったわけです」

しかし、転売で儲(もう)けるなら、本国アメリカで仕入れるのが一番安いんのでは?

「本来はそうなんですが、最近の円安傾向に転売人たちは目をつけました。日本のアップルストアでのiPhone6 16GBの価格は6万7800円(税別)。一方、アメリカでは9月19日のレートで649ドル=7万741円(税別)でした。あの時点で日本はiPhone6が世界一安かったんですよ。ちなみに、中国では発売日も価格も未定ですが、過去の例から考えると、日本より25%ほど高くなると思われます」

しかも、今年に入って中国ではiPhoneというアイテムがますます“高嶺(たかね)の花”になっているのだという。

「今年6月、国務院国有資産監督管理委員会が、中国の3大キャリアに対してマーケティング費用の大幅削減を要請しました。これは高い端末を買うユーザーへの補助金が捻出(ねんしゅつ)できなくなることを意味します。要するに、外国製品を押しのけて中国メーカー端末を普及させるための国策です。実際、各キャリアはアップルやサムスンなどの高級端末の取り扱いを減らし、中国メーカー端末をプッシュする格安路線へシフトしつつあります」(程氏)

そんななかでのiPhone6発売。“金持ちの証拠”として一刻も早く手に入れたい、カネに糸目をつけない富裕層が転売人のお客というわけだ。

「富裕層の物欲が爆発している中国では、転売ビジネスは大人気。誰でも簡単に始められる上、客から前金を預かるか、クレジットカード払いなら元手もいらないですからね。iPhoneシリーズの転売でごっそり荒稼ぎし、“御殿”を建てたツワモノもいます。

今回にしても、日本で8万9800円(税別)のiPhone6(128GB)が、未発売の中国に持ち込めば最低でも30万円の値がつく。待つのが嫌いな富裕層とうまく交渉すれば50万円でも売れるはずです。買い子3人で6台なら、利益は約150万円。30人使えば、なんと1500万円!」(程氏)

たった一日で1500万円の売り上げ! 確かに、彼らが必死になるのもムリはない。でも、日本で割り込みも恫喝もダメ、ゼッタイ!

(取材/近兼拓史)

■週刊プレイボーイ41号「中国転売ビジネス ウソみたいな最新事情」(本誌では、さらにこうした中国の転売ビジネスでのトンデモ成金事情を紹介)