自販機一台ごとに情熱を注ぐ“自販機オペレーター”の存在を知っているか? 設置交渉からゴミ箱の掃除と、置かれた場所で自販機が咲くために奮闘する裏方の存在に感動!

創業以来38年間、売上高を伸ばし続けている八洋は、関東を中心に取引実績がなんと7万台以上!という屈指の大手。その中でも20年のキャリアを誇る情報システムグループ次長・町田稔さんに話を聞いた!

■熾烈な設置競争に勝つポイントとは?

今回、ご案内いただいた町田さんには失礼ですが、そもそも“自販機オペレーター”って、具体的にはどんなお仕事かも知らず……。

「はい、ご存じない方も多いと思います(笑)。僕たちの仕事は、アサヒやキリンなど取引先である6社の飲料メーカーさんの自販機を設置・管理・メンテナンスすることです。だから、まずは“自販機の飲み物が売れそうな場所”を見つけるところから仕事が始まります。それから、その場所のオーナーさまを訪ねて『こちらのスペースに自販機を置かせてくれませんか?』と営業をかけるんです」

つまり、場所を見つけたら飛び込みでも営業したり?

「そうですね。自販機って、大型のものでも幅が約1.2m、奥行きが約0.8mのスペースがあれば置けるので、売れそうな場所を見つけたらどこにでも営業に行きます。それこそアパートの敷地から市役所、学校、病院、工場、フェリーの上まで営業先は無限にあるんです」

さらっと説明しながらスゴいことをーーでも、いきなり「自販機置かせて」って言われても、なんか手続きとか面倒くさそうだし……。断られることも多いのでは?

「それは1回の訪問で成約にはこぎ着けませんよ。何回も訪問して、自販機を置くメリットをお伝えするんです。基本的にオーナーさんの負担は月々2000円から3000円ほどの電気代のみ。自販機のリース代や商品を仕入れるお金は一切必要ありません。それで、売り上げの約2割は『販売手数料』として支払われるので、それが電気代を上回ればプラスになるというわけです。僕らはそのプラスが見込める場所に営業をかけるので、『置くだけで利益がありますよ』みたいに説得するんです」

なるほど~。では“自販機の飲み物が売れる場所”って、どういうとこですか?

「売れるポイントは2点あります。ひとつ目は“人がたくさん集まる場所”。駅や遊園地、住宅街にある公園などがそうですね。ふたつ目は“競争がないこと”。周りにコンビニもスーパーもないような場所は、自販機でしか買えないので自然と売れます。だから、一度入るとなかなか外に飲み物が買いに行けない病院や企業の研修センターなどは、このふたつを兼ね備えたスポットなんですよ」

そういう場所を探すのも、営業さんのスキルってことだ!

「でも、『ここは売れそう!』と思ってもほかのオペレーション会社も考えていることは同じですから。営業に行って『つい昨日、別の会社に頼んじゃったよ』と言われることも少なくありません。例えば、ショッピングモールの大型駐車場は激戦区なんですけど、平日でも車が埋まる1階が最も人が集まる場所なので設置競争も激しいんです。それで他社さんに1階を先に取られちゃってたら、『じゃあ、2階を!』というふうに下の階から営業をかけていきます。大型駐車場って、下の階から埋まっていって、階ごとに担当しているオペレーション会社が違うってケースもあるんですよ」

利用者が知らない意外な苦労とは?

■プロのオペレーターは自販機の個性まで見抜く!?

そんな熾烈(しれつ)な争いが! なんか裏舞台はドラマっぽい……。

「他社との競争に関しては、オーナーさんに出す見積もりで勝負する場合もあります。営業に行ったら『ほかの会社も営業に来てるから、見積もり出してよ』と言われるケースもありますからね。そういうときは、オーナーさんの取り分である自販機の売り上げの約20%を21%、22 %……と細かく刻んで見積もりを出して他社と勝負をするんです。家電量販店の円単位の価格競争と似たようなことが起こっているんですよ。

ただ、お金の面以外で判断するオーナーさんもいらっしゃって、『八洋さんのほうが丁寧に対応してくれたから決めたよ』と契約してくださる場合もあります。あと、オーナーさんが『ここの飲料メーカーの自販機を置きたい』という希望があるなら、いろいろなメーカーを取り扱っているウチの強みを発揮できたりはしますね」

それで無事に自販機を置いてもらえれば、あとは左うちわでこまめに補充して入れ替えるくらいな?

「いやいや、週に1、2回のペースで定期訪問をして、飲料の補充はもちろんですが、ここからは空き缶の回収、自販機の清掃など“売り上げを伸ばすための業務”になるんです」

売れる場所を見つけて設置してるわけだから、売り切れや減ってる商品を補充してさえおけば……。

「それが単に補充するのではなくて、売れてる商品・売れていない商品のデータを見て、その自販機を使っている人のニーズをきちんと把握することが大切なんです。例えば、工場にある自販機は年配の男性が利用している場合が多いので缶コーヒーがよく売れます。3種類の缶コーヒーがあったら、売れている商品の棚を増やして、売れていない棚を減らすなど商品の数を調整するんです」

なるほど、それが“売るための補充”……!

「今は自販機の通信システムで『売り切れ』の商品が何時間その状態になっているかがわかるので、短い期間で売り切れる商品を多めに補充したりもします。新しく設置した自販機の場合は、定期訪問で商品の流れを把握することが大事です。ただ、一度その自販機の特徴がわかれば、天候や気温で多少売り上げ本数の増減はあっても、そんなに急激に変化することはないんです。

というのも、自販機って、おそらく8、9割方は固定のお客さんが買ってるんですよ。朝、出勤前に会社の近くの自販機でコーヒーを買うとか、ルーティンのなかで利用してくれる人がほとんど。だからこそ、僕たちは定期的に補充に回ることができるんです。そうじゃなかったら、自販機の商品管理はかなり難しくなりますから……(苦笑)」

それは確かに大変そう……。ちなみに、ひとつひとつの自販機に営業担当がついてるとか?

「ウチの場合はそうですね。担当している自販機にどういうふうに商品を補充するか、自販機の正面の商品ディスプレーの並びをどうするかなどオペレーションは各担当者が責任を持ってやっています。他社さんでは、自販機の補充を契約社員やバイトさんに任せているところもありますけど、ウチは『ルートセールスマン』といって、すべて正社員がやっているんです。

自分が担当する自販機の売り上げが上がったら固定給プラス歩合給がつきますし、営業担当がひとつひとつの自販機に責任を持っていることが、自販機オペレーション会社としての八洋のウリなんだと思いますね」

シビアだけど、やりがいもありそうで……やっぱドラマっぽい!

心当たりは? 風俗と自販機の関係

■意外とバカ売れする!“あんな場所”の自販機

お話を聞いていると、すべてにおいてかなり計算されてる感じがしますが。計算外に売れたエピソードとかも?

「まれにそういうケースがあって、フーゾク店の待合室に置かれた自販機などはそうですね。狭くて人もあんまり入らないような場所なんですけどね(笑)。フーゾク店って平気で1時間以上待たされるんで『ちょっと飲み物でも……』という気になるのかもしれません。フーゾク店の自販機はなぜかコーヒーがよく売れるんです

今、「うんうん」って納得してる読者が目に浮かんだぞ。お楽しみ前の一服というやつだわ!

「(苦笑)。あとは、ここ数年でめちゃくちゃ売れるようになったのは喫煙所の近くの自販機ですね。昔と比べて喫煙所にはかなりの人が密集してるんで(笑)。なんでココの自販機、こんなに売れるんだろう?と思ってたら、そこが近くの会社の休憩スペース兼喫煙所になっていたケースもありますし。そういうふうに意外と人が集まる場所があるんですよ」

ますます奥が深い……! 世の中をウオッチしてなきゃですね。

「自販機の設置に関しては、本当に自由競争なので、売れる所を見つけたもん勝ちなんですよね。変な縄張り争いもないので、やり方次第でいくらでもシェアを広げられるんです」

おぉ、今、町田さんがキラッと輝いて……実力勝負の自由競争とかカッコいいこと言いました!

「ただ、コンビニで飲み物を買う人が増えるにつれて、自販機の数が減っている現状もあるんです。とはいえ、飲料メーカーさんが自販機を手放すことはやっぱりないと思うんですよね。自販機は飲料を定価で売れる、利益が取れる販売ツールですから」

あれ、でも最近は100円の自販機もよく見かけるような……?

「あれは、安くなっている分をオーナーさんが負担しているんです。『入居者や住人の方に安くジュースを飲んでもらいたい。自分の取り分を少なくしてもいいから、価格を下げてほしい』といった、やりとりがあるんですよ」

なるほど、そんな深イイ裏話もあったとは! 100円自販機を見たらオーナーさんに感謝しなきゃいけないかも……。

「そんなふうに、自販機を置きたいオーナーさんのニーズはそれぞれで、『自分のマンションの周りは照明がなくて真っ暗だから照明代わりに置きたい』という人もいます。そういうニーズと、商品を売りたい飲料メーカーさんのニーズの両方を満たすよう僕たちは対応していく必要があるんです。さっきの喫煙所の例のように、社会情勢によっても人が集まる場所が変わってくるので、時代の流れにも敏感にならないといけません。とにかく“オペレーション命”で自販機が活躍できる場所を探し続けていきたいと思ってます!」

やっぱ熱血! こんなドラマチックな舞台裏、勉強になりました!

(取材・文・撮影/short cut[岡本温子、山本絵理])