会津電力が手掛けるメガソーラー。雪が落ちる角度で設計されており、高さも2.5メートルあるため雑草が伸びても大丈夫。雪国でソーラー発電が可能なことを証明する

10月29日。福島県喜多方市で「会津電力株式会社」が建設した「雄国(おぐに)発電所」の竣工式が執り行なわれた。

会津電力の設立は昨年8月。社員4人と無給の役員5人だけの小さな会社は、設立から1年強で3740枚の太陽光パネルが並ぶ1メガワットの発電所の発電にこぎつけた。竣工式では佐藤弥右衛門(やうえもん)社長(63)が「この豊かな自然を活用して地域活性化につなげたい」と決意を述べた。

佐藤社長の本業は、江戸時代から224年続く「大和川酒造店」(喜多方市)の経営者だ。それがなぜ発電事業に足を突っ込むことになったのか?

「酒造りに必要な米も水も大和川酒造店では100%自給してきました。私には水と食料を自分の責任で管理しているとの自負があった。でも、エネルギーだけはそうではなかったと思い知らされたんです」

きっかけは、3年前の原発事故ーー。喜多方市では放射線値が高いわけではなかったが、原発爆発の報道を知った瞬間、佐藤さんは「ああ、商売終わった!」と衝撃を受けた。

旨い酒を造ろうと、大和川酒造の酒米は100%自社が設立した農業生産法人「大和川ファーム」で減農薬・無農薬で栽培されている。田んぼも酒造りの水も飯豊山脈からの伏流水を使用。このこだわりで代表銘柄「弥右衛門」は全国新酒鑑評会で幾度も金賞を受賞した。

「で、あの爆発です。ああ、守ってきた土地も水も放射能でおしまいだと。東電と国には、今まで『安全です』と嘘をつきやがってと怒りを覚えました」(佐藤会長)

事実、あの3月、大和川酒造店には一件の注文も入らなかった(現在は回復)。福島県内では各地で東電や国への怒り、今後の生活への不安が語られていた。特に農業者は「もう作っても売れない!どうやって生きていくんだ!」と嘆くばかりだった。

これら小さな声をひとつにして発信しようと設立されたのが一般社団法人「ふくしま会議」。2011年11月の会議には述べ1千人超が参加し不安を語り合い、国や東電を批判した。もっとも、文句を言うだけではなく「原子力に依存しない安全で持続的に発展可能な社会づくりを目指し、 三・一一以降の福島の経験と現実を世界と共有し新しい福島を創る」ことを目的に分科会では医療、再生可能エネルギー、除染等々を徹底して話し合った。

佐藤社長。本業の大和川酒造の酒蔵にて。日本で唯一酒米を100%自社で栽培、原発爆発では「もう終わりだ」と衝撃を受けた。

役員は無給、手弁当でどぶ板営業

その理事を務め、自身も「何かをやる」と決めたという佐藤さんは「僕にできるのはビジネスだけ。今まで福島の水や食糧を大切にすることは考えてきたけど、エネルギーだけは考えていなかったと気づいた。ここで何かできないかと…」。

ふくしま会議においても「やっぱり電気がないと生きていけない」「東電だけに任せていた我々にも責任がある」との声があり、後日、佐藤さんが中心となりシンポジウムが開催される。そこで声を上げた。

「私たちの足元はエネルギー源に満ちています。猪苗代湖もそうですが、水資源だけで500万キロワットも生み出せる。地熱もあるし森林資源も豊富。太陽光もある。これを使わない手はない。県民の手で『責任のある』電力作りを目指したい」

この会津電力構想の立ち上げに共鳴したのがシンポに参加した折笠哲也さん(43)だ。3・11が奇しくも誕生日だったという折笠さんはその日、福島県伊達市で誕生祝いと仕事の打ち合わせをしていた。そこへ突然、横にも縦にも建物が揺さぶられ、無数の屋根瓦が落ちてきた。

居酒屋を経営し、事業の新展開を図ろうとしていた矢先、津波で多くの人が亡くなり、放射能で県の土や水が汚染され、店に客は来なくなった。10数万人が県外に避難した事実に、それまでの儲かればいいとの価値観が一気に崩れたという。替わりに「残りの人生を何かに役立てずにいられない」という強烈な思いが芽生えた。

再生可能エネルギーを懸命に勉強した折笠さんは12年2月、太陽光パネルの販売と設置を手掛ける「会津太陽光発電株式会社」を設立、佐藤さんと共に歩いていこうと決めた。

「佐藤社長の講演には本当に共鳴しました。エネルギー自給というよりも、自分たちの手にエネルギーを取り戻す運動だと思ったんです。本当の意味での地域の自立につながるぞと」

そして昨年8月1日。会津電力が設立される。折笠さんは常務取締役に就任。だが会社とはいえ、すべては手弁当。設立資金の300万円は5人の役員が負担したが、いまだ皆、無給。そこから折笠さんのドブ板営業が始まった。

常務取締役の折笠さん。3・11前は居酒屋の店長だったが、意識がガラリと変わり転身した。

逆境から共鳴、市民ファンドで資金集め

会津電力ではメガ発電所である雄国発電所だけでなく、数十キロワットの小規模太陽光発電所を20ヵ所ほど設置することも計画。そのため遊休地や休耕田などを地主と交渉する必要がある。

「新聞にこういう事業をするので、こんな条件で土地提供をとのチラシを入れる。それに応じてくれる方の自宅に赴き、事業計画を丁寧に説明します。そうやって最終合意にたどり着くのはわずか。いざ契約の場でも、その息子が『オヤジ、土地貸すな』とか…そんな繰り返し(笑)」

原発は嫌でも、県民自身の電力会社という発想に現実感がないのか、なかなか理解されない。それでも県内を回り何度とお百度を踏み、粘り強い交渉で土地取得を進めた。いざ発電所工事が始まると、「応援します」との声が届くとともに株主も増え、資本金は今年6月末時点で5千万円に達した。

建設資金のうち1億円を一口20万円の市民ファンドで募ったところ、わずか2ヵ月で完売。この宣伝を務めた㈱自然エネルギー市民ファンド(東京都)の加藤秀生さんが、出資募集にあたりアンケート調査を実施すると「ファンドで儲けるというより圧倒的多数が『自分たちの電気作りを応援したい』『原発の電気は不要』といった声ばかり」だったという。

大銀行に頼らずとも手応えを得たことに「絶対この思いに応える」と折笠さんは感謝する。社員も同様に熱い。設立の新聞報道があった時、社員募集の告知もないのに「ここで働こう」とすぐに電話をしたのは小林恵子さんだ。

「爆発事故前から原子力に頼る生活はやめるべきと思っていました。でも、自分に何ができるかがわからなかったけど、新聞報道で『これだ』と決めたんです」

雄国発電所には再生可能エネルギーを学ぶ体験学習施設「雄国大学」も併設されるが、教員歴のある小林さんは、「子供たちに自分たちでエネルギーを生み出せる意義を伝えたい」との夢を抱いている。

会津電力の小林恵子さんと会津太陽光発電の佐藤浩二営業部長。

10年後に福島全域での自給を…

こうして、初年度は総計2・5メガワットを予定している太陽光発電だが、来年度以降は?という問いに佐藤社長は「次年度も太陽光発電所を作ります。福島の豊富な水を活かしての小水力発電も現在、4ヵ所で可能性調査や土地交渉などを行なっています。地熱も、森林資源を活かしたバイオマスもやります」

そこで東北電力に太陽光発電買取りの上限枠がないのか危惧されたが、「太陽光発電に関しては、東北電力は素晴らしく協力的。弊社の電気は全量買電してもらえるし設置のアドバイスもしてくれる。心配なしです」と折笠さん。しかし……。

この一連の取材を終え帰宅した9月25日。東京新聞朝刊の一面記事に驚き、目を疑った。(以下、抜粋)

『九州電力が25日、太陽光などでつくった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度に基づく契約の受け付けを、一般家庭用を除き九州のほぼ全域で中断した。東北電力の海輪誠(かいわまこと)社長もこの日、契約受け付けの中断を検討する方針を表明』

会津電力では、今年度に関してはすでに売買電契約を交わしているが来年度からは? すぐ折笠さんに連絡を入れると、「弊社にも東北電力から文書が届きびっくりです。これが本当なら、来年度事業がどうなるか…。一般家庭用とは10キロワット未満のこと。つまり弊社の電気は買電の対象外です。ただ、現時点では『検討』する方針とのことなので交渉します。夢を終わらせるわけにはいきません」

電力各社は「再生可能エネルギーが一時的に管内の電力需要を上回る可能性があるから」と説明するが、再生可能エネルギーへのインフラ整備を怠ってきた結果という側面が大きい。そして9月30日、電力会社の「検討」は「方針」へと変わり、会津電力始め関係各所が試練に見舞われている。

再生可能エネルギーについての資料を展示、住民や子供たちへの啓蒙活動を行なう「雄国大学」も準備が進むが…。

子供たちに胸を張ってバトンタッチしたい

「来年度は大きめの案件に関しては全て凍結状態です。そのため現在は50キロワット未満の低圧案件を再度20~30カ所に設置する方向で土地の募集及び調査を開始しました。今後は木質バイオマスを活用した熱事業もスピードアップしていきたいと。いずれ、年末に発表される経産省の小委員会の見解が示されるまで、まだ多くが先が見えない」(折笠さん)

だが、会津電力はまったく諦めていないという。

「とはいえ、どんな事が起きても元々ゼロからのスタートです。『今』できることを精一杯やるだけだと社員一同考えています。そうして、いつか福島の子供たちに胸を張って豊かな会津をバトンタッチできることを信じて、行動していきます」(折笠さん)

16年には電力小売事業への参入が自由化される。このときPPS(新電力会社)として一般家庭に直接電気を送りたいとの夢が、会津電力にはある。そして、10年後に目指すのは福島県全域の電力自給ーー。1日190万キロワットを要するが、水資源だけでも500万キロワットの可能性があるため「十分可能」と佐藤社長は豪快に語った。

「まぁ大風呂敷(笑)。何千億円もの話ですから。でも、夢をもつのは必要だよ。それをまず、どーんと表明すること。そのために自らの行動が変わっていくんだから。リスクを考えていたら何も動けない。誰かノーテンキなのがいないと。私? そうだね(笑)。会津電力ではみんな私と同じ気持ちなのがわかる。楽しいよ、この仕事は」

住民が住民の手にエネルギーを取り戻す、この闘いは今からが本番だ。頑張れ、会津電力!

「会津太陽光発電」では朝礼はハイタッチで始まる。使命感と元気にあふれた彼らは電力自給の夢に向かってめげてない!

(取材・文・撮影/樫田秀樹)