日プラの敷山哲洋社長

経済産業省は今年3月、既存産業のすき間を突くニッチな分野でトップクラスの世界シェアを確保し、高い収益を上げている日本企業100社を「グローバルニッチトップ(GNT)企業」として発表した。

コストダウンのため、日本でも製造部門を海外に移している会社は少なくない。だがGNT企業は国内生産と輸出を基本としながら海外展開していることが特徴で、しかも選定された100社のうち94社を中堅・中小企業が占める。

経産省は、特定の製品や技術に強みを持ち、世界的シェアを獲得しているこれらの企業を支援するとともに、次に続く企業の羅針盤にしたいという。

その選ばれた中の1社、「日プラ」は、高松市に隣接する香川県木田郡三木町に本社を構える。創業当初は、合成樹脂に関する敷山哲洋社長の豊富な知識をもとに、アクリル板を使った商店街のアーケードや照明器具を作っていた。

同社の転機は1970年、地元にオープンした屋島山上水族館(香川県高松市。現在の新屋島水族館の前身)に、360度見渡せる回遊水槽を納入したことだった。当初、計画ではこの水槽はガラス製で、要所要所に補強のための柱が入ることになっていたものの、来場者の目障りになるという理由で急遽(きゅうきょ)、柱はすべて取り除かれることになった。

ところが、それでは技術的に無理だとガラスメーカーが軒並み辞退してしまう。では、アクリルならどうかと、同じ香川県内にある日プラに白羽の矢が立ったのだ。敷山氏が振り返る。

「アクリルは、ガラスより強度も透明度もある素材。ただ、問題の水槽には、構造的に75mmの厚さが必要でした。当時流通していたアクリル板は、最高でも50mm厚だったので、薄板を何枚か張り合わせて所定の厚みを出すことにしました。私は日プラ創業前に勤務した会社で、アクリル板の張り合わせ技術を研究していましたから、積層はお手の物だったのです」

世界でも認められた日プラのアクリル板

「世界最大の水族館」こと珠海長隆海洋王国(中国)の巨大アクリルパネル (C)日プラ

しかし、アクリル板は通常、張り重ねれば重ねるほど接着剤の層の影響で白く濁り、水槽には使えないものになってしまう。

「そこで何枚張り合わせても透明度が落ちないよう、光の屈折率がアクリル板と同じ接着剤を自社開発しました」(敷山氏)

こうして完成した回遊水槽は、柱を使用しなくても十分な強度を持ち、外からはまるで一枚ものの厚板のように水槽の内部がはっきり見渡せた。

世界初のアクリル製の水族館向け大型水槽パネルは大きな話題となり、国内のほかの水族館からも引き合いが来るようになる。だが大手メーカーと競合すると、地方の名もない会社は、いくら品質に自信があってもなかなか採用を勝ち取れない。

そこで海外に販路を求めて1992年、アメリカのモントレーベイ水族館の増築工事入札に参加した。競合したのは、日米のアクリルパネル大手。しかし、性能検査の結果、最も優れた値を示したのは日プラの提出したサンプルだった。

同社の見積もり額は競合社より1割ほど高かったが、日プラのパネルの採用を決めた館長は「高品質なのだから値が張るのは当たり前」と入札額そのままで購入してくれたばかりか、落成記念パーティでは、世界の水族館関係者が顔をそろえるなか日プラのパネルの品質を讃(たた)えてくれた。

これを機に、各国の水族館で日プラのアクリルパネルが続々と使用されるようになる。現在までに60ヵ国以上への納入実績があり、世界シェアは7割

「うちは海外への納入でも、必ず日本から社員を派遣し、長年培ってきた技術で責任を持って施行の全工程を担当します。工程ごとに現地の下請け業者に任せていたのでは、どこかで手抜きがあると後々、大事故につながります。

ですが、われわれは水槽完成後にトラブルが起きたことなど過去に一度もありません。お客さまの側にしても、工事の最初から最後まで同じ人間が担当していれば安心ですしね。こうしたことは大手にはできない、日プラならではの強みだと自負しています」(敷山氏)