アタゴの雨宮秀行社長

ニッチな分野で世界シェアを確保している日本企業100社を経済産業省が選んだ「グローバルニッチトップ企業」。実は、選定されたうちの94社を中堅・中小企業が占めている。

これまで紹介してきた3社の社長は、いずれも自ら起業した人たちであった。しかし「アタゴ」(東京都港区)の雨宮秀行社長は創業者の孫にあたる3代目で、まだ43歳の若さ。

40年に設立されたアタゴは、屈折計(糖度・濃度計)の専業メーカーだ。56年から輸出を始め、小型、高性能な屈折計メーカーとして、各国の食品産業、農業、医療などの現場で親しまれてきた。だから、2000年に雨宮氏が専務として経営に携わるようになったとき、アタゴはすでにGNT企業だったのである。

ところが02年、3代目の経営センスが試される出来事が起こる。国内の競合社が、それまでのアタゴのラインアップ上になかった、携帯型のデジタル屈折計を投入してきたのだ。

手をこまねいていては、お家芸の携帯型の分野が侵食されてしまう。急遽、対抗製品開発プロジェクトが立ち上がり、雨宮氏がリーダーとなった。

「まず私は、新型機のサイズをライバル機よりさらに小さい、携帯電話並みの寸法にすると決めました。それを実現するため、技術陣には一切の妥協を許さず、ありとあらゆる工夫を凝らすことを求めたのです」(雨宮氏)

アタゴは長い歴史のなかで、手持ち屈折計やデジタル屈折計を世界で初めて開発してきたメーカーだ。その強みを最大限に生かし、新型機はわずか半年の開発期間で完成にこぎつけた。

雨宮社長が目指すものとは?

汎用性、簡便性に優れたポケットサイズのデジタル糖度・濃度計

でき上がった「PAL」は、コンパクトさだけでなく、安定性、使いやすさ、耐久性、手頃な価格が世界中で評価され、ドル箱商品に成長した。

「世界中を見回しても、PALのライバルとなり得る屈折計は存在しません。バリエーションも豊富で、糖度だけでなく、塩分、ラーメンスープなどの濃度、コーヒーの味を測れるモデルも用意しています」(雨宮氏)

屈折計全モデルを合わせてのアタゴの世界シェアは約3割。もちろん業界最大手だが、この数字に雨宮氏は満足していない。シェアをさらに高めるべく、アフリカや東南アジア、中南米などへと自ら積極的に出向き、新マーケットの調査と開拓を続けている。バイタリティあふれる創業者に比べ、同族経営企業の3代目社長は、とかく守りに入りがちだとされる。しかし雨宮氏にそんな俗説は、まったく通用しないようだ。