さまざまな技術や発見により日々進化していく“大学発ベンチャー食品” さまざまな技術や発見により日々進化していく“大学発ベンチャー食品”

各大学が民間企業と手を組み、その研究成果を活かして商品などを開発している“大学発ベンチャー”。

いまや市場にも多く出回り、東京と大阪に専門店もオープンさせた“近大マグロ”もそのひとつ。大学発ベンチャーでは、科学技術だけではなく、そうした食品開発も盛んだ。

今後大きな注目を集めるであろう“大学発ベンチャー食品”を紹介しよう。

■秋田県立大学発の“野菜”「ドクターベジタブル」

 ドクターベジタブル ドクターベジタブル

「ドクターベジタブル」とは低カリウムレタスのこと。一般的なレタスに比べてカリウム含有量が約5分の1(100g当たり100mg以下)と少ないため、腎臓病などでカリウム摂取制限のある人などにとってはありがたい機能性野菜。

秋田県立大学の小川敦史准教授(農学)の指導の下、半導体製品の製造会社「会津富士加工株式会社」が量産化に成功し、2013年から販売されている。ドクターベジタブルは半導体製造を行なっていたクリーンルームで生産されているため、害虫などの侵入がなく農薬は使用していない。現在は、低カリウムレタスのほかに低カリウムメロンも商品化され、今後はトマト、イチゴなども開発していくという。

赤い日本酒に健康的な砂糖も

■奈良女子大学発の“日本酒”「クリスタルチェリー」

 クリスタルチェリー クリスタルチェリー

「クリスタルチェリー」は、奈良女子大学が開発した奈良の八重桜の天然酵母で作られた赤い色の日本酒。本来、赤色色素は酵母細胞内に蓄積されるため、赤色の清酒を作るには色素を細胞の外に出す必要があり、これまでは濁り酒以外、醸造が不可能だった。

しかし、奈良女子大学が赤色色素生成酵母による清酒の開発に成功し、着色料や添加物を使わずにワインのロゼを思わせる色を作り出すことに成功。2013年に商品化された。赤色色素生成酵母からの醸造は大量生産ができないため、1回の醸造で300ml瓶で約900本程度しか作れず、奈良県外からはネット購入となる。

■香川大学発の“砂糖”「希少糖」

 レアシュガースウィート(270g) レアシュガースウィート(270g)

希少糖は「レアシュガー」とも呼ばれている甘味料で、自然界に大量に存在するブドウ糖や果糖と異なり、微量しか存在しない単糖。血糖値の上昇や内臓脂肪の蓄積を抑え、動脈硬化などに効果的といわれている。1991年に香川大学農学部の何森(いずもり)健教授が、農学部の敷地から果糖を希少糖のプシコースに変換させる酵素を持つ微生物を発見。それを機に希少糖の研究が進み、生産が実現した。現在、プシコースは試薬としては提供されているが、一般向けには販売はされていない。

一方で異性化糖中の糖質の一部を希少糖類に変換して作られた希少糖含有シロップ「レアシュガースウィート」が昨年発売された。

キラキラ輝くおいしい野菜ってなんだ!?

■青森県立保健大学発の“ガマズミ果汁”「ジョミ」

 ジョミ ジョミ

ガマズミとは青森県南部の山野に自生するスイカズラ科の低木。山の中を歩き回り狩りをするマタギが晩秋に赤く実るその果実を見つけると「山の神からの授かり物」として、ありがたくその果汁をすすったことから「神の実」=「ガマズミ」と呼ばれるようになったといわれている。

青森県立保健大学の岩井邦久教授(栄養科学)は、約15年前からこのガマズミの栄養分や健康への作用を研究し、レモンの4倍のビタミンCやリンゴ酸、抗酸化作用に優れているポリフェノールなどが含まれていることを発見。その後、畑に植えて栽培を始め、ガマズミ果汁飲料の「ジョミ」を開発した。

■佐賀大学発の“野菜”「バラフ」

 バラフ バラフ

「バラフ」は、南アフリカ原産のアイスプラントを佐賀大学農学部が野菜化したもの。アイスプラントは塩分が多い土地や砂漠などの乾燥地など環境でも生育するため、これまでは光合成や環境ストレスの研究材料などに用いられてきた。

しかし、佐賀大学の研究により食用にも利用できることがわかり、2006年に新野菜「バラフ」が誕生した。「バラフ」とはスワヒリ語で「水晶」や「氷」を意味する言葉。ほんのりと塩分が感じられる味に、葉や茎の表面にキラキラと光る水滴のような細胞がついているのが特徴で、現在ではその味と見た目の美しさにより料理人からも高い支持を得ている。

ふぐや鯨が醤油に変貌?

■水産大学校発の“醤油”「くじら醤油」「ふく魚醤(ぎょしょう)」

 ふく魚醤(左)、くじら醤油(右) ふく魚醤(左)、くじら醤油(右)

水産大学校の原田和樹教授が、魚醤にはがん予防に高い効果があることを発見。そこで水産大学校の学生と「ヤマカ醤油」が共同で、地元・下関の特産品の「クジラ」や「フグ」の魚醤を開発した。

開発過程では、ヘルシー志向の時代に合わせて塩分濃度を普通の醤油並み(15%)に落とすことを追求。塩分濃度が低いと雑菌が増えやすいという危険性もあったが、そのデメリットを解消。同時に「生臭くない魚醤」にもこだわっている。本来、魚醤は、その塩分濃度の高さや独特のクセにより隠し味などに使われることが多いが、水産大学校が開発した魚醤はかけ醤油としても使われている。

(取材・文/村上隆保 熊谷あづさ 撮影/五十嵐和博 村上庄吾)