現在の旭人社長(右)と1年以内に番組出演もやめるという明氏 現在の旭人社長(右)と1年以内に番組出演もやめるという明氏

テレビショッピングといえば、ジャパネットたかた高田明氏。今も九州なまりの甲高い声で熱烈に商品を売りまくっているが、今年1月に長男の旭人氏に社長の座をあっさりと譲った。そして1年以内をめどに番組出演もやめるという。

これからジャパネットはどうなっていくのか? 明・前社長、旭人・新社長に話を聞くために本社のある佐世保へと飛んだ!

(前編記事⇒「大塚家具騒動をどう見た? ジャパネット高田親子、社長交代劇を語る」

■旭人社長、MCは継がないんですか?

―旭人社長体制になって、制度的にはどんなところが変わったんですか?

旭人 一番大きいのは、商品を仕入れるジャパネットたかたやコールセンターなどの5社を統括するホールディングス体制にしたことです。今後はジャパネットホールディングスを中心にお客さまが本当にご満足いただけるような体制を強化していきます。

 私は前線で「走るぞ!」と突撃してきましたが、そこ以外を固めようとしているのが新体制の評価できるところだと思います。1年、2年でできることではないので、3年はかかるでしょうけど。この1年は一番きつい時期だね。

―明社長は、会社が変わっていくことは寂しくないですか?

 会社は変わっていかなければダメなんですよ。

旭人 変えることが目的になったら本末転倒ですが、変えたほうがいいところは遠慮なくやらせてもらいます。でも、絶対間違えられないのは、変えてはいけないものを変えることです。この数年間、そのことを考えてきました。

 私も社長生活29年間、むしろ何を変えないかということを大切にしてきた気がするなあ。

モノを売るだけでなく“言葉”を売っている

―“変えてはいけないこと”とは具体的にどういうことなんでしょうか?

旭人 ジャパネットにはふたつの大きな柱があります。本当にいいモノを見つけること、そのことをお客さまにきちんと伝えることです。

 モノを販売する会社は、世の中を変えていけると思うんです。モノにはつくった人の思いが込められています。通販とは、そういう思いやメッセージを伝えることなんですよ。例えば、今、私が履いているのはジャパネットで売っているウォーキングシューズなんですが、この靴は本当に快適に歩くことができる。すると生活が変わり、世の中も変わっていくと思うんですよ。

旭人 3年半前、ジャパネットで電気自動車を販売したことがあるんです。調べてみると確かにいい商品でしたので、父が中心になって番組を制作し、全国に向けて放送しました。すると、超高額商品にもかかわらず100台近く売れた。やはり、いいモノを見つけて妥協なく伝えれば、お客さまにきちんと伝わる。カテゴリーに縛られなくていいんだと強烈に思いました。

 最近、ある健康器具を私は推しているんですが、売り上げが少し下がってきたので1週間前から違う話を入れた。「健康になりましょう」に加えて「元気になって、よりよい人生を送りましょう」という話を入れたら数倍も売れたんです。商品が持っているメッセージをすべて伝えていく。ジャパネットは世の中でそういう使命を持っている。

モノを売るだけでなく、“言葉”を売っているのだと思います。旭人をはじめ、社員がそれを共有しているからこそ私もすんなり社長を退任することができたんです。

―明社長は1年をめどに番組MCを降りるそうですね。視聴者としては“変えてほしくないところ”なのですが…。

 そこに執着していても会社の未来はないと思うんです。

―それなら旭人社長がMCを継ぐつもりはないんですか?

旭人 MCは…(笑)。会社の経営とMCを両立させるのは僕にはとても無理です。お客さまに顔を知っていただいている社員MCも増えていますから自分は経営を頑張っていこうと思います。

明社長の家庭での教育方針は?

■受け継がれていく明社長の“熱さ”

―明社長は、家庭ではどういう教育方針だったんですか?

 子供の教育は女房任せ。息子も娘ふたりも中学から佐世保を離れて寮生活です。娘たちが制服を着て学校に通っているのを見たことがないんです。

―入学式や卒業式は?

 入学式は行ったのかなあ(笑)。とにかく無頓着なんです。気がつけば、仕事をして仲間とわあわあやっている。女房も35年ほど一緒に仕事をしていましたし、うちの家族は仕事が中心でしたね。

旭人 小学生の頃、会社の飲み会の席でしょっちゅう眠っていました(笑)。ただ、母は厳しかったです。父の布団をまたいではいけないとか、勝手に父より先に風呂に入るなんてとんでもないという…。昔ながらの九州の亭主関白の家庭でしたね。

―旭人社長のご家庭も?

旭人 まあ、なかなか父のようにはですね…。

―お察しします(笑)。ところで、AKB48の『恋するフォーチュンクッキー』のミュージックビデオではジャパネットの社員の皆さんが出演しています。どういう経緯だったんですか?

旭人 あの時は父の秘書がAKB48ファンで積極的に動いてくれました。その関係もあって父はコンサートに2回ほど行っているんですよ。

 2年ほど前、お誘いを受けて福岡ドームで見ましたし、HKT48の長崎公演にも招待していただきました。みんな一生懸命で楽しかったな。

旭人 私は「ももいろクローバーZ」がすごいなあと。ファンというほどではないけど、TVで見ると何か元気が出てくるから、つい見てしまいます。

どうしたら熱くなれる?

―どんなところに惹(ひ)かれます?

旭人 熱いところですね。真っすぐなところがすてきだと思います。

―おふたりも十分熱いと思いますよ。

旭人 そういう意味では私たちだけではなく、うちの社員はみんな熱いです。

―どうしたら高田親子のように熱くなれるんでしょうか?

旭人 父と僕の熱さはまったく違うもので、僕はもともと熱くなれないほうなんです。しかし、父の下で働くようになってから「つらいことや一見つまらなそうなことでも思いを持って取り組めば、その先にそれを超える喜びがある」と学びました。自分を含めて、熱くなることが苦手な人はつらさやつまらなさばかりフォーカスしてしまいがちなんです。でも、その先の喜びに目を向けられればどんなことでも“熱”を持てると思います。

 私の場合は“今”を熱く生きることしか考えていませんね。過去のことを考えてもしょうがないし、先のことも考えないようにしている。今頑張れば明日は絶対よくなる。その瞬間に命をかけるしかないんですよ。

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普段の明社長は意外にも小さな声で朴訥(ぼくとつ)と話す。一方、旭人社長は笑顔を絶やさず滑舌もいい。MC向きなのは旭人社長のほうかもと思ったが…ジャパネットの商品の話になると明社長は一転、TVのあの名調子になった。

「熱くなったほうが楽しい」―ー高田明社長の思いは確実に旭人社長へ引き継がれているようだ。

(取材・文/羽柴重文 撮影/駄道賢剛[高田親子])

高田旭人(たかた・あきと) 1979年生まれ、長崎県出身。東京大学教養学部卒業。2002年に野村證券に入社。03年にジャパネットたかたに移り、副社長などを経て、今年1月にジャパネットホールディングス社長に就任

高田明(たかた・あきら) 1948年生まれ、長崎県出身。大阪経済大学経済学部卒業。74年に父が経営する「有限会社カメラのたかた」に入社。86年に前身の「株式会社たかた」を設立し社長就任。今年1月に退任した