学生による学生アルバイトのための労働組合が各地で立ち上げられている。バイト先で過重な働き方や違法行為を強いられる学生が増加中だというのだ。

一体、今どきの学生はどんなヒドい目に遭っているのか、その実態を聞いた!

■現役バイトが明かす塾講師のブラックぶり

6月4日、厚生労働省記者クラブで「個別指導塾ユニオン」の設立会見が行なわれた。

塾講師といえば、“稼ぎのいいアルバイト”というイメージがある。だが会見では、現役の塾講師ふたり(ともに男性)が「時給換算すると最低賃金以下」「大学の試験前でも休めない」と訴えた。会見を取り仕切った労働組合「ブラックバイトユニオン」の坂倉昇平さんが語る。

「ブラックバイトユニオンは昨年8月の設立以来、約350件の相談を受けていますが、約100件が塾や家庭教師など教育系の相談で、さらにそのうち90件が個別指導塾関連。全相談件数のうち最多で、これに特化した活動が必要だと考えたのです」

教室を区切った小スペースで1~4人の少人数を相手にする個別指導塾が定着したのは15年ほど前から。1500円前後の時給に飛びつく学生は多い。だが今、その多くから悲鳴が聞こえてくる。会見に臨んだ大学院修士2年生Aさんの経験はこうだ。

大学1年生から大手の個別指導塾と週3日契約で働き始めた。時給は1コマ(90分)1850円と悪くない。だが、授業の準備や授業後の報告書作成などに費やす、時に2時間以上かかる作業は無給。実際の時給を計算すると854円だった。3年生からは週5日、授業を担当させられ、シフト削減を要請したものの「キミが休めば、多くの生徒が困る」と責任感に訴えられ休めなかった。

その後、Aさんは大学院進学を前に辞意を伝える。だが、塾側は「辞められては塾が回らない」と訴え、Aさんは「確かに生徒が困る」との責任感から辞められずにいる。

もうひとりの大学3年生のBさんは、東京都内の個別指導塾で昨年から働いている。時給は1コマ(80分)1600円。だが、Aさん同様、授業時間以外の必要作業は無給で実質の時給換算では784円と都の最低賃金(888円)以下。また、「大学の試験勉強のための欠勤は認めない」などと書かれた誓約書に機械的に署名してしまったため試験前でも休めずにいる。

そんな学生バイトが、実はごまんといる。ふたりは「労働環境を改善したい」と、大手塾10社に申し入れと団体交渉を行なう予定だという。

余り食材を現物で支給する居酒屋

以前の学生バイトは、正社員の補助としていつでも始められ、いつでも辞められた。

だが今はそうではない。前述の個別指導塾以外にも、人手不足のせいか、現場に正社員がほとんどいない業種が増え、学生バイトを劣悪な労働環境で働かせるケースが目立つ。以下、ブラックバイトユニオンなどへの相談で多い事例を紹介しよう。

【1】残業代不払い(提示されていた条件よりも実質の賃金が安い)

サービス残業は明らかな違法行為だが、あらゆる業種で蔓延(まんえん)している。

●定時は20時なのに毎回22時まで働かされる。なのに、オーナーは悪びれずに「ウチはサービス残業だからね」と残業代を払わない。(高校生・男・コンビニ)

●開店前の準備の時間や閉店後の掃除の時間は無給で、毎回2時間のサービス残業が日常化していた。(大学生・女・居酒屋)

残業の証拠隠滅のため、タイムカード打刻後に働かせる会社もある。さらには、こんなトンデモバイトも!

●客が来るまで時給が発生しない。(大学生・男・飲食店)

●バイト代の一部として、余りモノの食材のネギや冷凍白飯を支給された。(大学生・男・居酒屋)

【2】罰金と賠償

●10分の遅刻で、ペナルティとしておでんを5千円分買わされた。(大学生・男・コンビニ)

●寝坊して遅刻。会社から「会社に損害が出た。被害額60万円を払わなかったら訴える」と脅された。(大学生・男・家庭教師)

このケースについて、前出の坂倉さんは、「数十万円という金額だから相談となったが、数万円程度なら、『ミスした自分も悪い』と払う場合が大半では」と推測する。

売れ残りを自腹で買い取り

【3】自腹で買い取り

客に売るべき商品を店員に買わせる。賃金未払いは違法だから労働基準監督署が動くが、買い取りは店側が「店員が自主的に買った」と言えば、強制性の立証が難しい。

●恵方巻き、母の日ギフト、おせちの予約と年中ノルマがある。ノルマに達しないと買い取らされる。仕方なく友人の母親に自腹でお中元を送った。(高校生・男・コンビニ)

●店外で販売したクリスマスケーキの売れ残りはすべて自腹で買い取り。(大学生・女・スーパーマーケット)

【4】労災外し

勤務中の事故は労災保険で補償されるが、学生バイトを初めから保険に加入させない会社もある。

●厨房での料理中にやけどをした。だが、労災が適用されず自腹での治療を求められた。(大学生・男・レストラン)

【5】正社員と同等の責任

「肩書」を与えることで責任感を植えつけ、辞められなくする手口もある。

●勤続が長いだけの理由で「リーダー」としてシフト管理や商品発注など正社員の仕事をやらされ、辞めにくくなった。「辞めたい」と伝えると、上司は「リーダーなのにふざけるな」と一喝。萎縮して辞められなくなった。(大学生・男・牛丼店)

【6】ギリギリのシフト決定

ブラックバイトの特徴のひとつが、ひとりの正社員が数十人の学生バイトの労務管理を操っているケースが多いこと。学生の都合は関係ない。

●ひとりの正社員から数十人の学生バイトにLINEで一斉に連絡が入る。「今日出てくれ」「他店のヘルプに行けるか?」などなど。授業中でも即レスしないと、後で怒鳴られる。(大学生・男・居酒屋)

●試験直前や授業中に当日のシフトの連絡が入るのが常態化。(大学生・男・塾講師)

バイトを辞められなくなり休学

他にも半年以上の勤務で取得できる有給休暇を与えない職場や突然の解雇、パワハラなど事例は尽きない。

そうした中、バイトを辞められなくなり、休学する学生もいる。生活費や学費の足しにと始めたバイトが生活と学業を壊す。本末転倒だ。

だが、問題は解決できる。例えば、今年2月、山梨県の都留(つる)文科大学で「都留文科大学学生ユニオン」が結成された。結成時の共同代表の藤川里恵さん(当時4年生)はバイト先のスーパーマーケットでサービス残業や自腹での買い取りを強要されていた。藤川さんは納得できないと、学生ユニオンとして店と団体交渉に臨んだ。その結果、未払い残業代の支払いなどが約束された。違法行為に泣き寝入りする必要はないのだ。

ところが、同ユニオンへの相談はまだ少ないという。共同代表の栗原耕平さんが説明する。

「『仕事はそういうもの』と、苦しいことを当たり前に思ってしまっているからです。今、学生の生活調査をしていますが、意外と多いのが『私のバイトなんて、まだブラックじゃない』と思っていること。僕らの課題は“抵抗する手段”があることを皆の意識に埋め込むことだと思います」

学生がブラックバイトを“当たり前”と思い込めば、その学生が正社員になった時、今度は学生に無理な働き方を強いかねない。そんな悪循環は断ち切らねばならない。

(取材・文・撮影/樫田秀樹)