損失計上を先送りし、7年間に1562億円もの利益水増しをしていたことが大問題となっている東芝。
歴代3社長をはじめ、取締役8人、相談役9人の辞任を発表し経営再建に向けて動き出したが、その先行きは険しい。東芝関係者がこう囁(ささや)く。
「今回の不適切会計を受け、東芝経営陣は三井住友、みずほ、三井信託などの主要取引銀行に最大で7千億円規模の新規融資枠を求めているのですが、銀行団は『その前に資産売却をして手元資金を確保すべき』と、なかなか首を縦にふらない。売却の筆頭に浮上しているのは2006年に買収した米原発プラントメーカーのウェスチングハウス(以下、WH)。ところが、これが東芝をさらに地獄の底に突き落とすかも…」
どういうこと? 原子力ビジネスは東芝の稼ぎ頭のひとつとされてきた。そのシンボル的存在が6200億円を投じて買収したWHだ。当時の西田厚聰社長は記者会見の席上で「原発プラント建設や保守点検業務などで2015年には東芝の原発ビジネスは年間7千億円に成長する」と大見得を切っている。
「ところが、このWHの業績がさっぱりで、高値で買ってくれそうな企業はなかなか見つからない。原発世界最大手の仏アレバ社が経営危機にあえいでいることもあって、新たな原発ビジネスに進出しようとする企業が少ないんです。しかも、もし売却に成功したとしてもその後に爆弾が待ち受けている。それがのれん代の償却です」(前出関係者)
のれん代とは買収金額からその企業の純資産額を差し引いたもので、ブランド力や製品開発力など目に見えない無形資産を指す。
「WHの評価額はせいぜい2千億円から高くても3千億円とされていました。しかし当時の東芝経営陣が買収に6千億円以上ものお金をつぎ込んだため、少なく見積もっても3千億円以上の差額がのれん代として会社の資産に計上されてしまったのです。WHを売却すれば、これを償却しなければいけない。今の東芝にその体力はありませんよ」(同)
WHが東芝復活のアキレス腱に
実際、東芝のバランスシートを調べると、のれん代はなんと1兆1538億円(2014年末現在)もの巨額に達していた。経済ジャーナリストの須田慎一郎氏が指摘する。
「のれん代が1兆円を超えるなんて、ありえません。経営陣が無謀な買収をし、その損失を表に出したくないから資産計上してやり過ごしてきたのでしょう。こんなめちゃくちゃな経営判断を下した経営陣は商法違反などに問われてもおかしくありません。
東電という原発ビジネスのパートナーを失ったことも痛手です。福島第一原発事故の収拾に追われ、東電は原発ビジネスどころではない。これではWHを始めとする原発ビジネスが行き詰まって不良資産化するのは当たり前、本来なら東芝はのれん代が減損していることを認め、早い時期に引当金を積んでバランスシートを健全化しておくべきでした」
東芝の株主資本は1兆2300億円ほど(2014年3月)だが、1兆円を超えるのれん代が業績不振によってどんどん目減りし、株主資本を食いつぶすようなことになれば、本格的な経営危機になってもおかしくない。
「無事に売却できても、その後に巨額ののれん代償却が待っている。だからといって売却しなければ、監査法人からやはり巨額の引当金を積めと迫られる…WHを売っても売らなくても東芝の窮状は続くということです」(前出・須田氏)
いまや、最も東芝復活のアキレス腱と化した感のあるWH。その処遇を一歩誤れば、経営再建に赤ランプが灯るどころか破滅の道が待っているようだ。
(取材・文/姜誠)