過去にアメリカ国内で販売されていたドイツ自動車大手、フォルクスワーゲン(VW)グループのディーゼル車の一部モデルに当局の排ガス検査をパスするための不正プログラムが搭載されていたことが明らかになった。

通常は燃費や馬力を優先したモードで走るが、検査を受けている状態だと車載コンピューターが感知した場合、有害ガスが少ないモードに切り替わるようプログラミングされていたというのだ。

なぜVWは、こんな禁断の手に出たのか? 自動車評論家の舘内端(たてうち・ただし)氏が推測する。

「アメリカの排ガス規制は世界一厳しい基準にあります。元々、アメリカ市場に弱かったVWは、悲願の販売台数世界一を達成するため同社自慢のクリーンディーゼル車を武器にアメリカ市場を攻めようとしました。

しかしディーゼル車は本来、有害ガスを抑えると燃費や馬力が落ち、燃費や馬力を向上させると有害ガスが増えるという特性を持つ。その反比例をいかに解消するかが各社の腕の見せどころなのですが、VWの技術力をもってしても、アメリカの試験に通りながら馬力や燃費にも優れたディーゼル車を造れなかったのでしょう」

不正発覚後、VW自らがアメリカだけでなく、全世界で約1100万台の該当車を販売したことを発表。アメリカでの不正に対してだけでも、同社には最大で2兆円超の制裁金が科せられる見込みだ。

しかも今回の一件は、環境への配慮を売り物にしてきたVWのブランドイメージにも深刻な打撃を与えた。

「へたをすると、天下のVWが経営危機に陥るかもしれません。特に欧州でディーゼル車は同社の屋台骨のひとつですからね。また、事件の余波で不正を働いていないメーカーのディーゼル車の販売も鈍りかねない。

さらに世界各地の排ガス規制の基準が前倒しで厳格化されていくかも。それは、ディーゼル車も含めた通常のエンジン車の時代の終焉(しゅうえん)が、より早まることを意味するのです」(舘内氏)

日本勢の出遅れが浮き彫りに?

となれば…今回の不正発覚は、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)を次世代車の目玉にしている日本メーカーにとって格好の追い風になるのでは?

「残念ながらそうとは言い切れません。2018年式のモデルから適用されるアメリカの次期排ガス規制では、HVでさえエコカーと認められない。欧州や日本の基準もやがてそれに続くのは必至。だから海外、特にドイツの各メーカーは、より環境性能の高いプラグインハイブリッド(PHEV)やEVを着々と市場投入しています」(舘内氏)

渦中のVWでさえ、同様のラインアップを整備中だ。

「ところが今、実用に足る日本車のPHEVは三菱のアウトランダーだけ。そしてEVも日産のリーフと三菱のi-MiEVしかない。トヨタやホンダにもPHEVはありますが、まだまだ使えるものではない。

ドイツ勢に比べれば、技術も実績もビジョンも見劣りがします。ましてや自社で次世代車技術を持っていない他の日本メーカーは、一体どうするつもりなのでしょう」(舘内氏)

VWの一件によって、皮肉にも日本勢の出遅れが浮き彫りになってしまった?